A.L.Fのひとりごと


Vol.17 「天敵」 Natural enemy.


どんな生き物にも天敵というのが存在する。生態系というのはそうして保たれるものなのである。

昆虫にとっての天敵とは近いところではカマキリなど補食昆虫、それと蜘蛛などの無脊椎動物がまず天敵となる。しかしクワガタ虫に関しては昆虫界ではピラミッドのわりと上部にいる昆虫なのでそうそう補食昆虫や蜘蛛の餌食にはならないだろう。固い殻を獲得した甲虫は易々と他の虫や蜘蛛などに食われるような事はない。但し蛹の時などに寄生する虻や幼虫の時には天敵となる虫も多い。

しかし、甲虫にとって最大の天敵というのは鳥類。街灯下などを見て回ると沢山の死骸を目にすることが多いと思います。これからも推察できるように、樹液では昆虫界の頂点に立つスズメバチさえ寄せ付けない大型の甲虫達だが、大型個体ほど鳥に食われた亡骸を目にすることが多い。鳥たちは薄明かりの夜明けと共に活動を開始する。有望な街灯は日の出を迎えると鳥が集まっている光景を目にする。

ある時、山で出会ったご老人がこう仰っていた「農薬を撒いてない山は虫が多い、虫が多いところは鳥が多い、そして猪や熊も生息している」と。そうかもしれない。鳥の鳴き声の全く聞こえない所に虫がいるとは思えない。逆に鳥が極端に多くいるところにも虫は少ない。これはヒメオオ等のルッキングをしていると開けた柳が豊富にある場所には案外虫は少なく小鳥が多くいたりする事でもわかる。他にクワガタの天敵となるものにはコメツキ等のワーム系の幼虫や寄生バチなどであろう。特に蛹などの変態以前の弱いときに狙われるもので、野外では蛹に蛆が集っている様なものも目にすることがある。

生態系とは天敵との関係で成り立っている。小さな昆虫を無脊椎動物や両生類が食べて、その両生類を爬虫類が食べて、爬虫類は猛禽類に食べられてしまう。クワガタの場合はヘビやカエルには食べられないかわりに小鳥やカラスなどの中型の鳥に狙われて食べられてしまう。そんな小鳥の天敵はイタチなどのほ乳類や大型の猛禽類である。他にもクワガタを補食するものは猿も食べているだろう。高山でルッキングしているとニホンザルの群にもよく遭遇する。日本の本土の動物界では頂点にはかつてはニホンオオカミが、現在ではツキノワグマが存在するが、環境などの変化に弱く繁殖力の乏しい生態系の頂点に位置するこれらの動物たちはことごとく人間の開発や自然破壊の犠牲となり減少している。一方クワガタの天敵ではないが、シカなどは何処の山村でもよく見かけ、多いときには一晩に数十頭とも遭遇することがある。これはカラスが殖えているのと同じ現象かもしれない。本来天敵であったニホンオオカミや大型猛禽類が減った(絶滅した)事によって、生態系のバランスが崩壊しているからかもしれない。

バランス崩壊の典型的な例といえば、沖縄と奄美で20世紀初頭にハブの天敵としてマングースが放されたが、ハブと戦わずとも、マングースには楽に取れる小動物が他にいくらでもいた。夜行性のハブの駆除には、昼行性のマングースはまったく役に立たなかった。それどころか、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギといった我が国の宝ともいうべき天然記念物を益々激減の方向へ向かわせてしまった。

結局のところ、人間が手を加え歪んだ生態系のピラミットでは人間の予測や希望通りになるはずもなく、益々事態は深刻な方向に向かうのが関の山なのではないでしょうか。
今また外来生物を規制する法案を政府は実施しようとしている。果たして虫たち、そして動物たちの将来はどうなっていくのであろうか?一個人ではどうにもならない問題だが、地球上の全ての生物にとって人間が一番の天敵なのである。そして、歪みは簡単には治らないという自覚も必要なのかもしれない。