「要介護認定不服審査の心構え教えます」
〜真面目な解説〜
いつもはだらだらとした介護保険ノンフィクション即席小説
今回は、一次判定の問題点はさておいて、まじめな顔をして要介護認定不服審査の留意点をお伝えします。
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なお、転載の時は、出典記載(URLと作者名)をお願いします。
作:野本史男
平成12年2月05日
〜序〜
介護保険制度が間もなくスタートします。
これまでサービスを利用していた方々、そして新たにサービスを利用しようとしている方々にとって、どれだけのサービスが利用できるのか、とても気がかりのことと思います。
これまでサービスを利用していた方々にとれば、今までと同じ程度のサービスが利用できるのか?はたまた、もっとサービスを利用できるのか?準備要介護認定結果に不安げな気持ちでいらっしゃると思います。
準備要介護認定がスタートする昨年の10月頃には、認定結果が満足できずに不服審査が殺到するのではないか?と不服審査を担当する都道府県では、とても心配していたのですが、いざ準備要介護認定が始まってみると、数件の不服審査が出された程度。
もちろん、調査員や市町村の応対や説明が適切である。という理由も大きいでしょう。
しかし、「それだけが理由であるとは思えない。」と首をひねる職員もいれば、現象を分析してみようとする職員もいます。
現象を分析する職員によれば、「要介護認定の程度と自分の身体状況を比較するものさしがないからであって、唯一比較できるのは、知り合いの高齢者の認定結果との比較である。3月には、ケアプランを作り始めるだろうから、出来上がったプランとこれまで利用していたサービスの量との比較、或いは想像していた利用できるサービス量との比較によって、プランのサービス量が少なければ不服ということになる。だから、今は少ないというのは至極当然。」ということである。
たしかに、分析には一理ある。
しかし、もしかして「不服審査請求という手続きに気後れしている方もいる」のではないでしょうか?
そこで、不服なら、どのように不服審査の手続きをすればいいのか?どんな手続きになるのか?そのあたりをご案内していきましょう。
大切な要介護認定の訪問調査と主治医意見書
要介護認定の不服審査は、認定結果通知が届いてから始まるものと思われがちです。
しかし、不服審査の争点となる部分は、要介護認定の訪問調査の場面、二次判定時の審査内容です。
訪問調査が正確にできなければ、二次判定も誤ってしまう。ということで、不服審査の争点は、かならず訪問調査に行きつくと言っても過言ではないでしょう。
調査員の心構え
調査員は、訪問調査員研修を受講した職員です。
調査の基本は、訪問当日の状況と立会人からの聞き取りで実施します。
聞き取り調査の時は、テキストに記載された考え方を上手に説明や聞き取りに織り込み、相手にも状態像を正確に理解してもらえるようにしなければなりません。
そこで、誤解を与えてしまうと、最後には不服審査請求による争い事になってしまうのです。
認定支援ネットワークシステムに掲載されたQ/Aでは、「調査対象者と特別な関係がある者は、調査に従事させるべきではないと考えられるが、この場合の特別の関係がある者の範囲はどのように考えるべきか。」という問いに対して、「サービスを提供している事業者の従業員等を想定している。」としています。
「知っているからこそ正確な情報が取れる。」と考える方も多いでしょう。また、「私の地域では、他に調査をする機関がない。」と言う方もいらっしゃるでしょう。
しかし、ここで問題となるのが、「現在サービスを利用している立場」と「提供している立場」という利害関係にあること。お互いによく理解しているからといって、つい説明を端折ったりしてしまい、ボタンの掛け違いをしてしまう。ということなのです。
つまり、調査対象者を知っているからといって、知っている情報を基に状態像を記録してはいけないのです。あくまで、聞き取る内容を十分説明して、本人と立会人から聞き取った内容を記載して、ズレがある部分は必ず特記事項を記載するようにしてください。
利用者の心構え
訪問調査の当日は、普段のままでいてください。
特に、よそゆきにしないように、気張らず、リラックスして望むようにしてください。
よくあることとしては、いつもは立ち上がれないないのに、調査員が来たら張り切っちゃって、立位保持もできてしまった。なんていうことです。そんなときは、慌てず、立会人はいつもの状況を正確に調査員に伝えてください。立会人は、調査時の内容をよく見ておき、このようなことがあれば、普段とは異なる内容として、きちんと説明しなければなりません。そうしないと、調査員は「できる」と判断してしまいます。
立会人は、そんなことをする高齢者を責めてはいけません。「役所からきてくれたのだから、痛いけど頑張って・・・」という一所懸命の気持ちがそうさせたのですから。
また、調査を実施する場所が、普段の場所と異なる場合は、その旨、特記事項に記載してもらうようにしましょう。
何故なら、入院先とか、ショートステイ等を利用しているときの調査であった場合は、その施設は日常生活自立度の低い方のために設計されているため、調査環境が与える自立度の変化は軽く出されることが多いかと思うからです。
調査員が聞き取った内容を、改めて例示と共に確認してください。もし、例示がなければ、「どのような場合がこれに当たるのですか?」と確認してください。そして、できれば、例示された内容をメモするようにしましょう。あとで、こんな場合も該当するのだったと気がついた場合、そのメモがとても重要な意味を持つことになるのです。(特に例示に気を付けなければならない部分は、痴呆の状態を確認するときです。)
反対に、承知しておくことが必要な部分としては、杖などの日常生活用具や補装具を利用している場合は、利用しているときの状態で判断されることです。だからといって、補装具などを隠してしまってはいけません。この様なことをして審査を受けた場合、認定が取り消されることがあったり、場合によっては罰せられることがあります。
最後に特記事項に記載がないまま、確認のためのサインを求められたら、特記事項を記載してからサインします。と言うようにしましょう。特記事項が後日記載されることを承知でサインするのであれば、その条件を記載してもらってからサインするようにしてください。
つまり、サインをするということは、内容について合意したということなのですから。
主治医の意見書
意見書を依頼する方法は、
@市町村から直接主治医に用紙が渡され、その後直接市町村に返送される場合
A受診の際に意見書を持参して後に市町村に直接送付される場合
B利用者が受信時に手渡し、市町村に届けに行く場合
といった3種類ルールの何れかが市町村によって定められています。
特に気を付けなければならないのが、要介護認定の申請をした後、調査員も来てくれたし、受診もしたけど、一向に要介護認定結果が届かないといったことがあります。@又はAの場合、市町村に意見書が届いていないことがあるからです。
本来、30日以内に要介護認定結果を出さなければならないと決められています(30日を過ぎる場合、市町村は、文書で予め通知しなければなりません。)ので、30日を過ぎたら直ちに市町村に確認するようにしましょう。
このとき、忘れてはならないのは、受診した日時を必ずメモしておくことです。受診の日が特定できないと、利用者が不利益になることがあります。
この不利益とは、4月以降になると要介護認定通知が届くまでの間、償還払いといって、サービス利用の際に一旦全額自己負担となり、概ね2ヶ月程度遅れて公費負担分(通常9割分)が戻ってくるということになってしまいます。
受診の際の心構えとしては、普段の治療状況を記載していただくだけでなく、普段の身体状況、痴呆の状況をできるだけ詳しく医師に説明した上で意見書を記載していただきましょう。
意見書の内容は、なかなか確認することができないかもしれません。
しかし、できれば、内容を確認したいと尋ねてみてください。
もし、どうしても示してもらえない場合であっても、心配は無用です。意見書は市町村で情報公開請求を行えばいい訳ですし、不服査請求の場合には、意見書の内容を見ることができます。(理由は後ほど)
要介護認定の留意点
ここでは、市町村と審査会事務局、審査会委員の方々だけの留意点となります。
しかし、被保険者の方も、この留意点を通して、どのように要介護認定が行われるのかを把握しておくことが大切です。
要介護認定には、一次判定と二次判定があります。
特に気を付けていただきたいのは、認定審査会です。
一つ目の留意点は、特記事項についての審議です。特記事項が要介護度を変更する重要な部分だからです。
二つ目の留意点は、医師の意見書と一次判定のズレがある場合にきちんと審議したか、場合によっては再調査を指示したか?ということです。
この審査会は、要介護度を決定づける最後の砦ですから、判断に迷うような部分があれば、事務局に説明を求め、結論が出ない場合は迷わず再調査を指示しましょう。
また、事務局は、そのやりとりを明確に記録に残しましょう。できれば、カセットテープレコーダに記録すると共に、テープ起こしをしましょう。これが不服審査となったときに証拠物件として、審査庁(都道府県)に提出することになるのです。
また、審議した時の資料も、不服審査があれば審査庁に提出することになります。
せっかく有意義な議論をしたのにも関わらず、議事録に漏れがあっては、元の木阿弥です。
被保険者からの情報公開請求が出ることもあるのですから、審議は慎重に効率よく行うようにしてください。
要介護認定通知が届いたら
要介護認定通知が届いたら、 まず、確認していただきたいのは、決定された要介護度の場合、どのようなサービスがどの程度利用できるかです。
同封されているケアプラン例も参考になるでしょうけど、できれば、正確なサービス量を確認したいところです。
先日厚生省が示した支給限度額も正確な情報ですが、市町村によっては、この支給限度額を下回る設定をすることもあります。
その市町村毎に定められる上限が、種類支給限度額といって、一つのサービスに上限を設けるものです。しかし、この設定は、3月末ぎりぎりに設定されることになりそうです。
受給者の方に心配されても困るので、種類支給限度額が定められる要件を簡単に説明させていただくと、種類支給限度額が定められるのは、全国レベルと比較して著しくサービスの供給体制が低い部分がある場合です。
利用者の留意点
要介護認定の結果を見て、疑問点があれば、まず、審査をした市町村に問い合わせをしましょう。
悩んだままにしておくと、結果を知ってから60日を過ぎてしまい、不服審査を行えなくなります。
なお、介護保険スタート前に受けた要介護認定に対する不服審査請求期限は延長されていますが、いずれにしても、4月以降の不服審査期間中は、決定されたサービスの上限で利用することになります。当然、審査請求結果が高く出れば遡って適用されますから、上限より多く利用していたサービス分は還付されます。しかし、一旦立て替え払いが必要となります。
市町村に問い合わせても、どうしても納得ができない場合、いよいよ不服審査請求ということになります。
もちろん、市町村に問い合わせをしなくても不服審査請求はできます。
しかし、自分の疑問が要介護認定上の誤りなのか、誤解なのかを確認するためにも、市町村への問い合わせは重要なことです。そういった意味でも一旦は市町村に問い合わせすることをお勧めします。
また、問い合わせの際は、市町村に対して自分(家族)の要介護認定にかかる審査資料の公開請求をすれば、より正確な理解ができ、不服審査請求の趣旨も明確になります。
なお、この情報公開請求をしなくても、後に触れる審査請求の手続き上、確認のうえ、反論していくこともできますので、情報公開請求を急ぐ必要もありません。ましてや不服審査請求の前提条件ではないことを付け加えておきます。
市町村の留意点
要介護認定に疑問を抱く方に対しては、丁寧な説明に心がけてください。
特に、要介護認定といった新しい手続きに戸惑い、混乱している場合もあります。その戸惑いや混乱をほぐしてからでなければ、説明がうまく伝わらないこともあるでしょう。
また、介護保険制度の仕組みが複雑なこと、要介護認定の基準を定理として示すことができないために、説明が分かりにくくなってしまうことも忘れないようにしましょう。場合によっては、状態像一つずつ説明することも必要になります。忙しい時期ですが、ここで手間を惜しんでしまうと、お互いに不幸な結果を招くことになるのです。
なお、不服のある要介護認定結果に対して、再申請を勧める方法も考えられます。
そこで確認しておかなければならない事項は、不服のある要介護認定調査時の身体状況は正しかったけれど、その後機能低下が発生したのであれば再申請も可能です。しかし、不服のある要介護認定調査時の身体状況に誤認がある場合は、再申請指導すると、問題が発生することを伝えなければなりません。
なぜなら、再申請の審査結果が出るのが平成12年4月以降となる見込みである場合、前決定(不服のある要介護認定)は有効となってしまい、新たな認定がされるまでの間は、不満のある認定結果の範囲内でしかサービスが受けられないためです。つまり、その間は、受給者に不利益が発生する。ということです。
このような場合でも、不服審査を避けるためには、市町村が自ら見直すことによって、前決定を変更する以外方法がありません。
どうしても納得できない場合
要介護認定結果にどうしても納得できない場合は、いよいよ、不服審査請求ということになります。
不服審査請求は、介護保険法に定められているほか、行政不服審査法に基づき実施します。
行政不服審査法は、できるだけ請求人の手間を少なくするような仕組みとなっています。
請求時は、口頭でもかまいません。「録取」(ろくしゅ)という行政不服審査法16条に定められている手続きで、請求人は口頭で申し立てるだけで、窓口の担当者によって申し立てを申立書に記載してもらえます。
また、不服審査は、行政不服審査法第40条にあるように、審査請求を行う人(審査請求人)に対して不利益な結論を出すことはしません。もし、不利益な結論となることが審査によって明らかになった場合は、請求を棄却して、前の決定をそのままにします。
具体的な手続きの方法は、都道府県の窓口(審査庁)を確認して、不服審査請求をしたい旨伝えればいいのです。
不服審査を申し出る際に持参したほうがよいものは、自宅に届いた要介護認定結果通知です。
その他は、特に必要ありません。
請求の時には、次のことに注意しましょう。
@要介護認定の取り消しを求める理由を伺います。
いろいろな理由があると思いますが、○×さんが要介護3なのに、ウチは要介護度1だから、といった理由ではダメです。
ねたきりや痴呆の状態を説明していただき、それにしては状態が軽すぎるといった理由を付けてください。
また、不服審査ができるのは、要介護度を取り消すことを求めることだけです。要介護度1をそれ以上に変更して欲しい、といったこともできません。
A不服審査請求は本来要介護認定を受けた本人が請求するものですが、本人はねたきりで請求できない場合があります。そのために、請求は代理人でも構いません。しかし、代理人の方は、できるだけ請求人となる方の状態を詳しく知っておくことが必要です。
B窓口の担当者は、請求人(代理人)の見方ですが、弁護士のように申し立ての内容に助言をすることはできません。
不服審査請求が受理されると、次の流れで審査が進みます。
審査庁は、市町村に弁明書を求めます。
審査庁は、不服審査請求のときに請求人から提出のあった書類を要介護認定を行った市町村に送り、行政不服審査法第22条の規定によって、その市町村に対して不服の内容に対する弁明と、審査に必要な証拠物件の提出を求めます。
もちろん、審査請求を求める方から、手元にある資料を証拠物件として審査庁に対して提出することができます。
しかし、行政不服審査法第26条に基づき、審査庁は、要介護認定を実施した市町村に対して証拠物件の請求ができますので、審査請求人(代理人)は自ら証拠物件の提出の必要はありません。なお、市町村に対する証拠物件の提出要求は、不服審査請求人、審査庁からの何れからでもできますので、提出させたい資料があれば申し出てください。
反論書の提出
市町村に対して請求した弁明書と証拠物件の写しを審査請求人(代理人)にお渡しします。
つまり、市町村に情報公開請求しても開示してくれない場合でも、この時点で市町村の持つ証拠書類が入手できるということです。
もし、弁明書や証拠物件を読んで反論したい内容があれば、審査請求人(代理人)は、反論書を提出することができます。
反論書が無ければ不利になることはありません。まして、無ければ審査請求人(代理人)が弁明書の内容を認めたと判断されることはありません。新たな事実が反論書等から判明した等の事情があれば反論してください。
なお、審査請求時点とは異なり、反論は口頭ではできません。文書によって反論していただくことになります。
一般調査・専門調査の実施
審査庁は、必要に応じて調査を実施します。例えば、審査請求人(高齢者)の身体状況の確認のために家庭訪問をさせていただくことがあります。また、要介護認定が上記の資料などからみて確認が必要な事項であれば、認定調査員や市町村、審査会の委員等に対して事実関係を調査します。
審査庁の不服審査
審査庁は上記の調査によって収集した情報を整理して、不服審査会を開催します。
審査の結果、審査請求人(代理人)の訴えを認め、同人に不利益が発生しないことを確認した場合、「認容」といって、不服審査請求の内容を認める決定をします。
つまり、処分庁は、訴えを認める(不服となる要介護認定そのものを取り消すこと)か否かを決定するだけで、要介護度を市町村に代わって新たな要介護度を出すことはできないのです。
審査請求人(代理人)にとれば、不満を感じるかもしれませんが、審査庁が認容した場合、市町村は先の要介護認定結果を改めて審査し直すことになるだけなのです。
しかし、審査庁が認容したということは、行政不服審査法の考え方どおり、当初の要介護度が上がる(本人に利益がでる)ということが前提です。
おわりに
行政不服審査法は、ひらかれた手続きです。つまり、裁判などのような大変な手続きを極力簡素化、簡易化したものですから、ご自分だけでも手続きができる仕組みです。
しかし、行政の手続きの流れや裁判所が使用する用語等が不慣れな場合、手続きが大変なことと思われるかもしれません。
できれば、市町村の相談室や当事者団体等を活用して、手続き面の助言をいただく等、自分で抱え込まないようにしてください。
なお、このような回りくどい手続きをしないでいっそ訴訟に・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、訴訟は、この不服審査をしなければできない順序となっています。
いずれにせよ、代理人が手続きを行う場合、介護等多忙の中で行われる可能性が高いわけです。そして、このような手続きを踏んでいくことに発生する精神的肉体的な苦痛は図りしれません。そういったことからも、要介護認定を行う市町村も慎重かつ丁寧なな認定を実施することを期待します。
なお、この文章は、数時間でまとめ上げたものですので、内容の加除を行うことがあります。また、これによって、発生した損害等に対して責を負いません。実際に不服審査請求を行う場合は、あくまで参考としてご利用ください。
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