介護保険関係者だけの短編小説
(小説じゃあないって!)

 第一話
 介護支援専門員山田さんの
介護保険事業者システム選定奮闘記

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説 第一弾
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

 無断転載を禁止します。

 作:野本史男 
 平成11年7月17日


感想お待ちしております。


fumio@as.airnet.ne.jp



序章

 「あんた!まさか手作業でやろうっていうんぢゃあないでしょうね!」
 介護支援専門員養成研修を終了した山田花子が勤める在宅介護支援センタ施設長のこの一言から、訳の分からないコンピュータシステムの選定作業が始まった…・
 花子にとれば、施設長の一言は、面倒なケアマネジメント業務を効率できる救いの一言のように聞こえたのであるが・・・。



第一章 どのケアマネジメント方式にする?

 ケアマネジメントは、MDS−HC、三団体方式、介護福祉士協会方式など、五種類のアセスメント方式が提唱されており、介護保険制度上でその何れをも採用してよいこととされている。
 花子の在宅介護支援センターでは、職員のうち四人が受験を試みたが、花子と同僚の鈴木里江だけが介護支援専門員の試験に合格し、実務研修では花子が五団体方式を、里江がMDS−HCの研修を受講したのであった。
 しかし、七月に入ってから指定居宅介護支援事業者の申請をしようとしたところ、申請に当たって実施するアセスメントの方式を要綱に記載しなければならないと県庁の職員に言われ、合格者の花子と里江がどちらの方式を採用するか一歩も引き下がらない激論を交わした経緯がある。
 結局のところ、年長者の花子の強引さと説得力に職員が折れ、三団体方式に落ち着いたところであるが、所長の一言は、事業所開設までの準備を全て花子が行うことというに他ならなかった。



第二章 ものは相談

 花子の介護支援センターに、先日ケアマネジメント支援ソフトを売り込みに来た二社は、三団体方式以外のアセスメント方式を採用していたので、話半分しか聞いていない。
 花子は一体どうすれば都合のいいソフトが見つかるのか思い悩んだ末、友人でもある介護保険担当者+コンピュータオタクの田中に相談することとした。

 「ねえ、またまた相談なんだけど、ケアマネジメントのソフトで良いのを紹介してよ」
 「う〜ん。確かに大手コンピュータ会社などからケアマネジメント支援ソフトがいくつか出されていたね。新聞やインターネットで見かけたことがあるし、プレゼンテーションを見たこともあるよ。だけれど、そちらの事業所では、現在どこまでOA化されていて、介護保険になってからは、どこまでOA化するつもりなんだい?」

 「えー? なに、それ、どういう意味?」
 「だから、ケアマネジメントだけの支援ソフトで良いの?介護支援事業者と居宅介護支援事業者、法人会計業務等との連携などは考えていないの?」

 「えっえええええ〜?だから、ケアマネジメントだけでも教えてよ」
 「それじゃあ、ケアマネジメントでもその範囲はどうするの?範囲が解らなければ、ご期待のソフトを探せないと思うよ。例えば、利用者の管理もするの?レセプトは請求までで良いの?報酬の支払いに対するさっ引き簿みたいなものは含めなくて良いの?」

 ソフトの一覧でももらおうと思っていた花子は、田中の一言によって安直な期待はもろくも覆されたのである。

 「しょうがねえなあ・・・じゃあ、とりあえず、図に落とし込んで説明してあげるよ」
 



第三章 平成11年7月17日 喫茶店での相談会

 梅雨明けも遅れ気味の土曜日、山田花子のたっての願いで、田中は約束の喫茶店に訪れた。
 約束の時間よりやや早めに喫茶店に到着していた花子は、テーブルにA3のメモ用紙とカラーボールペン、ラインマーカーを用意してコーヒーを飲んでいた。

 「やあ」
 「土曜日なのにすみませんねえ」

 「まあ、いいってことよ。さっそく、本題に入りますか?」
 「そうね。」
 そう言うと、田中は花子の用意したボールペンを取り、メモ用紙に図を書き始めた。
 
 「とりあえず、花子の職場は介護支援センターとホームヘルプサービス業務をやっているね。介護保険制度になってからは、次のような業務体系になるよね。」



 「これらの業務にシステムの機能となる部分を加えていくと、こんなイメージになると思うんだ。」
 「上の部分が業務支援システム、下の部分が経理システムに大別できるよね。」

 「ということは、四種類のシステムを導入しなければならないって言うこと?」
 「まあ、その中で、必要とされる部分だけシステムを入れればいいんだ。」

 「ふ〜ん。ところで、予約管理の下にある割当ってなに?」
 「それはね。提供者を予約に張り付ける作業の部分」

 「ついでに色分けされている部分はどうして?」
 「そこは、経理部分を解りやすいように色分けしたんだけど・・・」

 「ということは、経理システムは、それぞれ会計を別にしなればいけないのかしら?」
 「その部分は、規則とか、通知とか、国から示されれば全国一律に会計を別にすることになるだろうけど、そうすればソフトだって対応してくれると思うからあまり心配ないね。」
 「もし、そういう通知がシステム選定までに出なかったとしても、内部経理を明確にするためと、後で別にしろって言われてからじゃあ困るから、システムを選定するときに選べるのであれば、別の方を選んでおいたほうがいいのかなあ。」

 「でも、そんなことしたら、介護保険部分は赤字経営が目立っちゃうかも・・・!?」
 「ははは・・・」

 「それと、利用者管理機能の部分は、組織全体で一律管理した方がいいよね」
 「どうして?」
 「それは、企業なら当たり前の話だけど、一つの会社内で一括して顧客管理すれば、効率的に顧客満足度を高めることができるわけ。たとえば、再アセスメントの近くになったら、せっかくヘルパーが訪問しているんだから、リップサービスして再アセスメントの時期を伝えてあげて、手続の便宜を図ってあげたりする・・・言い換えれば、別の介護支援事業者に逃げられないように顧客確保をしていくことになるでしょ?」
 「はあ〜ん。とにかく、これまでのお役所丸抱えでやっていたから、そんなセンスがなかったけれど、介護保険になったらそんなことも考えなければならないのね」
 「そうだよ。じゃなければ、業界で生き残れない。経営効率をよくしなければ倒産する時代になるんだよ。これからは介護保険のための経営コンサルタントなんてのが流行るかもしれない。」
 「だから、当然の如く受給者に対するDMの送付やプラン上お願いした他の事業者の管理や盆暮れの挨拶状送付等もすることになるだろう。」
 「更に、宣伝だって、禁止事項は老人保健施設だけなんだから、きっとやっていくことになるだろう・・・。」
 「ああ殺伐としてきたもんだ」

 「話を戻すと、提供者の管理だって、兼務が禁止されない限りキャンセルや飛び込みのサービスに対して提供者を効率的に融通しなければならないし、そうするのであれば、どちらの業務にどれだけ関わったのかを管理しなければならない。ましてやダブルブッキングしちゃったら信用に関わるし、組織として労務管理をきちんとするためには、勤務状況をトータルに見ていかなればならないよね。」
 
 「そうそう、この図ではわかりにくいだろうけれど、居宅介護事業者の場合は、償還払い対象者の実績も通常の現物給付と同じ内容で残しておかなければならないだろうね。保険者と受給者がトラブルを起こした際に証拠提出を求められるかも知れないから。」
 
 「なんでそんなことまで解っちゃうの?」
 「まあ、現行の措置事業と、ホテル等のサービス業の経営を比較して介護保険制度に落とし込めばいいだけだよ。」
 田中は、ちょっと得意そうにコーヒーをすすっている。

 「ところで、どんなシステムを買えばいいの?」
 「平成一二年度を過ぎても介護保険制度の仕組みが変わる可能性が高いから・・・本来は買いの時期ではないけれど、そう言ってはいられないだろうから、一つの見方を教えてあげる。」

 「それは、図を見れば解るように、全体で一つのパッケージになるけど、機能がそれぞれ別なわけだから、本来ならサブシステム毎に別れているシステムが良い。業者も開発期間が相当制限されているから、システムダウンやバグ対策上もそれぞれのサブシステム毎にデータ管理ができていて、バックアップ機能も充実しているものが良いんだ。最悪の場合、途中のデータを活用して手作業で処理しなければ間に合わない事態にもなりかねない。業者がそういう可能性をきちんと認識しているかどうかが設計思想に反映されるわけだから、ウチのシステムは完璧だなんて言う業者は一番危ない。」

 「きっと、業者ならそう言うんじゃあないの?」
 「もし、そう言うことを言う業者がいたら、意地悪くシステムがダウンしたらどうなるのか聞いてみなさい。データの復旧はどうするのか、再度データを入力し直さなければならない場合、どの範囲で誰がやることになるのか。更に請求時期が遅れて法人に損害が発生したらどうなるのか聞いてみるべきだよ。」
 「これって、上司へ説明しておくいわゆる告知事項なんだ。それをすっぽかすと、その責任は導入した担当者の責任と言われかねない。」

 「じゃあ、業者に責任を押しつけちゃえばいいの?」
 「ちがうちがう。業者に責任をとれなんて言ったって無理なものは無理で、業者が示した仕様どおりに動作している限りには責任はない。市販パッケージなんて、使用許諾書には、使用した結果発生した損害に免責事項まで書かれている。全国一斉に発売されるソフトだけに、業者の対応は極めて限界があると思っておいた方がいい。」

 「つまり、当てにするなってこと?」
 「初期ロットは歩留まりが悪いから・・・ってハードのことだけど、ソフトだって、バグは相当あると思っておいた方がいい。だから、あまりにも分割できない大きなシステムを導入すると、不安なんだ。業者だってバグ対策の検証が大変だし、ユーザーだって臨機応変な対応が組めなくなるわけですよ。」

「ところで買いの時期はどうすればいいの?」
 「買おうとする業務の仕様が厚生省から確定した時に完全サポートしているシステムを買うべきでしょうね。後で厚生省が仕様を替えたら、使う前からバージョンアップ料金を求められるかも知れないから、その点もソフトウエア業者から確認する必要があるけれど。」

 「注意点ってそのくらいかしら?」
 「それと、個人情報について、罰則規定は法律上に定められていないから法人内の個人情報管理は一括でも問題ないだろうけれど、横断的なシステムを導入するわけだから、本来ならそれぞれの事業者毎にセキュリティーが必要。」
 「あとは、どんな統計情報が必要になるのか解らないから、どちらかと言えば各業務毎に実績データをエクスポートできる機能があった方がいい。」

 「で、システム化の範囲はどうすればいいのかしら」
 「それは、システム化の優先順位を組織で話し合って、優先順位をもってソフト会社に相談すればいい。あとは業者への信頼性ってところかな?」

 「じゃあ、今すぐに何がいいって決められない訳ね。」
 「まあ、結論から言ったらそういうことになるかな。でも、ぐずぐずしていられないと思うよ。システム導入の前には、基礎データとして、現在利用している人たちの顧客データを登録して操作方法を覚えて試験運用しておかなければならないだろうし。」
 「ああああああああああ!ますます解らん!一体どうすればいいのかしら!?」

 「とにかく、手当たり次第業者からソフトの情報を聞くことだよ。そして、業者の対応や計画を確認すること。できればデモンストレーションを見て、更に言った言わないがあるから、文書に書かれたプレゼンテーション用資料をもらうことだね。」

 「解ったわ。もう一度この間来た業者の人に聞いてみようかしら・・・・。」

 「あと、いくつかのインターネット検索エンジンを利用して”介護保険”、”コンピュータシステム”といったキーワードで絞り込んだらけっこう業者が出てくると思うよ。」
 「インターネット検索エンジンは、ロボット型が多く出てくるね。ついでに言うと、コンピュータメーカー系やソフトウエアを開発している業者がそれぞれ検索エンジンを持っているから、一通り検索をかけてみた方がいいと思うよ。そして、フォーラムや掲示板を検索してみるのもいいアイデアだと思うな。」
 「じゃあ、帰ったら早速やってみるようにするわ」

 「でも、民間法人はまだいいよ。自治体だって事業者になるとソフトが必要になってくる。でも、いいソフトを見つけてから、ソフト選定委員会とか機種選定委員会に諮って選定した上で、更に個人情報保護条例にも諮問しなくちゃならない・・・」

 「じゃあ、お宅も大変ねえ?」
 「いや、私のところは、事業者にならないから・・・・」
 「あっそうか!・・・はあ〜・・・」

 そうして、花子は再び頭を抱えて黄昏の家路をたどるのであった・・・・・・


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