介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第二話
町役場の苦悩
 在宅サービス・・どうする!?

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

 無断転載を禁止します。

 作:野本史男 
 平成11年7月20日


感想お待ちしております。
小説の題材リクエストもお待ちしております。


fumio@as.airnet.ne.jp


序章
 町役場福祉課
 「お〜い。もうじき12年度予算要求だぞ。重点事業に介護保険に伴う既存事業の見直し入れるんだろう!?」
 「はい、係長。入れるつもりなんですけど、どうしたらいいか解らないんです。」
 「山田よう、まだそんな大切なこと解らないのか?ちゃんと厚生省の会議資料目を通したのか?」
 「ええ、でも、どうなるのか解らないんです。だって、厚生省の資料にはそんなことほとんど書いてないんですから・・・」
 「だけどよう、町長だってこの間の議会答弁で、福祉の水準は下げないって言っちまったぢゃねえかよう!わかんなきゃあ、とりあえず今年と同額の予算額で計上しておくか・・・でも、財政課から質問されたから困っちまうからよ。誰かに聞いて来いや!」


第一章 居酒屋へのおしかけ携帯電話

 「あ・・・・電話だ!ちぇっ!留守電にしておけばよかった・・・」
 田中のせっかくの楽しい歓談に水が入った。
 「おおおっ、福祉課の山田からだ。何かあったのかな?」
 「田中さん?すみませんねえ。おやすみ時間中・・えっ?まだ飲んでいるんですか?」
 「ご挨拶だなあ、じゃあ、こんな時間に電話なんかしてきてどうしたの?」
 「いやあ、来週の月曜日に12年度重点事業の内部打ち合わせがあってさあ、今の事業の見直しをどうしようかって話が出てね。たたき台を作らなければならないんですけど、頭抱えているんですよ。」
 「しょうがないなあ。明日休みだから、まだ夜は長いんで、ちょっと帰りに寄っていくかい?」
 「いいですねえ。是非お願いしますよ。」


第二章 居酒屋での相談会

 山田が居酒屋ののれんをくぐってきたのは10時を少し回ってからであった。
 山田は入り口で首を長くして田中を捜し出すと、頭を掻きながら少し小さくなって入ってきた。
 「あっ、すみませ〜ん。僕に大ジョッキ1つください。」席に着くやいなや飲み物の注文である。
 「すみません。今まで残業していまして、最近係長も補佐も遅くまで一緒にいてくれるんで、宿題がこんな時間に出されてどうしようか悩んでいたんですよ。いやあ、部屋は蒸し風呂と藪蚊の攻撃で、喉は乾くし、店屋物で喉は詰まるし、係長からは首をしめられるし、まあ、あと8ヶ月の辛抱ですけどね。」
 「ご苦労様です。で、酔っぱらう前にご要望の既存事業の見直しの件・・・・やっちゃいましょうか。」
 「すみません・・・・。すみませんばかりですみません。」

 苦笑いをしながら、山田は鞄から「町の保健福祉事業の概要」を引っぱり出して、田中に差し出した。
 田中はリーフレットを捲りながら、山田に質問を始めた。
 「まず、介護保険制度に移行する措置制度なんだけど、要介護認定で自立とか、15疾病に引っかからない65歳未満の人とかの介護保険の給付対象外となる人達に対して、サービス継続するつもりなの?」
 山田は、よほど喉が乾いていたのか、ジョッキを口に付けたまま、首を縦に振った。

 「田中さん、それなんですけど、実際に介護保険制度の対象外となる人って、結構いると思うんです。でも、介護保険のためのお金を出させておいて、介護保険制度になったから給付を受けられなくなるとは言えませんよ。これって、税金と違って、直接的すぎますからね。」

 「そりゃあそうだよね。でも、そういった介護保険給付対象外の人に対してどうやってサービスを給付か、けっこう難しいんだ。」

 「それじゃあ、ここじゃあ騒がしいから、カラオケボックスに行く?」
 「えっカラオケですか?」
 「そう、カラオケは歌を歌わなければいけないって考えはステレオタイプだよ。僕にはいろいろな活用方法があると思う。仕事中は使えないけれど、図書館などの公的な機関が終わってから快適な打ち合わせ場所って考えるとカラオケボックスって好きだなあ。」
 「ふ〜ん。モノは考えようですね!」


第三章 歌のないカラオケボックス

 「さて、ここは朝の4時までやっているから、思う存分打ち合わせしますか?」
 「田中さんって鉄人ですね。」
 「そう、鉄人28号なんて、歳がばれちゃうかな?」
 
 「さてと、山田さんは、どこまで整理できているの?」 
 「そうですね。まず、市町村特別給付等のように法内事業としてやっていく方法などは、あくまでも介護保険の受給対象と同一にしなければ整合性が取れないことは解るんです。」
 「たとえば、65歳未満の人たちへサービス対象を広げると、彼らは1号被保険者から扶養されることになる。」
 「それと、特別給付等でサービスを追加すると、保険料が高くなるから、この間提出したワークシートの試算結果を大幅に上回っちゃう。まあ、あの試算は、報酬額も解っていない段階だったし、療養型病床群なんかの事業者参入も見えていなかった訳だから、年度末までに精査したら、きっと数字が異なって来ちゃうだろうけど・・・」

 「そうだよね、山田さんの言うとおり、この間厚生省に提出した試算は、実際の保険料算定に対する拘束力はない筈なんだから・・・って言っても発表されちゃったらけっこう引きずられちゃうだろうね。」
 「ええ。提出した試算結果を国や県から動かすなって言われないかと心配しているんです。まあ、財政安定化基金を貰えるんだから少ない分には問題ないけれど、黒字になっちゃったら町民に返す方法がない。」
 「それにね、利用に当たって必要な自己負担は、1割だけとしてニーズ調査したけど、実際は1割だけじゃなくって食事などの実費負担、主治医の意見書は利用できないみたいだから、健康診断書を事業所毎に取られそう。だから、負担できないためにサービスを満額利用しない人が相当出ちゃうんじゃないかって思っているんです。それと、本当に事業者参入が見込めるのか?事業者が八方美人になって、それぞれの町へ行って同じ供給可能量を言ってしまっているんじゃないかな?なんて思うと、担当者としてはちょっと少な目に試算しちゃおうかななんて考えちゃった。でも、それもできなかった。」
 「そんなわけで、これ以上保険料が上がるようなことはできないだろうから、町の福祉制度の部分で見直せないかと思っているんですよ。」

 「介護保険制度内で事業追加をするのは、確かに難しい部分があると思うんだ。65歳未満の方を対象としない制度を介護保険制度のパンフレットに載せたら、65歳未満の人たちにすれば。市町村が追加した事業分の保険料は含まれていませんって書いてあっても、解り難くって、きっと不満だらけだろうね。」
 「たとえば、この図を見てごらん。」と言いながら、田中は、鞄から1枚の紙を出した。



 「1番は自立となった人たちへのサービス。2番は介護保険給付対象者にサービスを追加供給するいわゆる上乗せ的なサービス。3番は介護保険制度外のサービスというふうに整理できるね。」
 「自立の人にサービス供給しない仕組みなら介護保険制度内で実施できるだろうけど、65歳未満の人たちにはさっきの話のように無理があるんだ。」
 「だから、山田さんの考えだと、全部のパターンを市町村事業として実施することになる。」

 「1番はそんなに難しくないと思うんですがねえ。」
 「と思うでしょ?でもね。一つのサービスで考えると、要支援の人の上限より少なくしておかなければ逆転してしまうよね。」
 「あっそうか。それなら、サービスの上限が明確になれば整理できるってことか。」
 
 「それと、2番の場合は、町内でごく数人の人たちが50万円を超えるサービスを提供している人たちを救うためのものですよねえ。この場合はどうなるんですか?」
 「これが一苦労しそうな部分なんだ。介護保険制度で1サービス当たりの利用量はプランによって異なってくるので、上限を越えた場合っていう言い方って結構難しい。」
 「そんなことで、一番整理が楽なのは、3番の介護保険制度以外のサービスを実施する場合ということになるね。」

 「ふう〜ん、給付対象者の場合は2番で、給付対象外となった人たちには3番で同じサービスを作ってもいいってことなんですかねえ?」
 「そうなるけれど、2番で実施する場合、サービスの上限を一律に設けることになるので、対象者全員が上乗せ分を消化できることになる。それって、山田さんの考えとは異なるでしょ?サービスを必要としている人に必要なだけ追加したいって思っているんじゃあないの?」
 「そう!そうですよ、そうしたら、破産しちゃう。経過措置って言っても・・・やめるのを前提としたらそりゃあ無理だよなあ・・」

 「そうなんだよ。つまりね、山田さんの言っているのって、介護保健サービスじゃなくって、福祉サービスの部分なんだよ。」
 「そう!それなんだよ!言いたかったのは。」

 「だから、介護保険制度と同じメニューにしちゃうと住民の方々は混同するから、別のサービス形態とか、名称を考えて、できれば実施主体も別の方がいい。ただし、制度上は介護保険優先としておいて、給付対象外となった人に対して個別に必要性を勘案して決定していけばいいんだ。」

 「具体的に言うと?」
 「そうだねえ、例えば社会福祉協議会にはそういう部分を担っていってもいいのではないかなあ?そおすれば、けっこうフレキシブルな対応ができると思う。ただ、1割負担については、介護保険を優先にする限り、介護保険受給者になった方が金がかかっちゃうと思われるから外せそうもないけどね・・」


第四章 仏となるか鬼となるか

 結構夜も更けてきたけど、山田さん大丈夫なの?
 ええ・・・田中さんたちこそ終電過ぎちゃいましたね。
 そんな会話をしたのがもう1時間前である。山田と田中はコーヒーを注文してサドンデスの構えである。一方、田中の連れの鈴木は一人で酒を飲んで幸せそうな顔をしている。

 「それでね、山田さん、丑三つ時になってきましたから、恐い話をしますね。」
 「え・・・怪談ですか?」
 「そう、介護保険担当者が知っていても恐ろしくて口に出さない部分・・」
 山田は生唾を飲み込み真剣な顔をして田中を見つめた。

 「それはね・・長期滞納者や重大な過失で介護保険適用除外となった者。第三者加害行為による要介護で補償が得られない者、状態固定直前の者はどうするの?」
 「・・・・・・・」山田は絶句したままである。

 「それって、市町村は”鬼”になるのか?何でも有りの”仏”となるのか?決断を迫られることなんですよ。仏となるっていっても、介護保険制度の基本理念とか根幹を揺るがすことになるので、介護保険を例外的に無条件で出すことはできないだろうし、同一のサービスを市町村が出しちゃったら、み〜んな滞納しちゃうよね。」
 「でも一人暮らしだったら、放って置くこともできないでしょうね。」

 「それにね、どんな形であろうとも介護保険で活動するスタッフやハードを使用する仕組みを考えると、介護保険の供給量を圧迫することになる。これも恐い話。」
 「うわああああああ・・そのとおりだ!」

 「もう一つ、だめ押しの恐い話。」
 「まだあるんですか!?」
 「ええ〜〜!?」と言いながら山田は田中の次の説明を催促するように身を乗り出している。

 「それはね、介護保険の補完単独サービスを実施する場合、だれがコーディネートするの?手続を考えれば、最初に介護支援専門員がプランを作製して市町村に届けた後に不足分のサービス決定をすることになるだろうから、市町村が行うか、改めて介護支援専門員にプランを作って貰うの?それとも、利用者が勝手に予約するの?」
 「介護支援専門員は充足ぎりぎりなんだし、どこを利用してもいいんだから、それをお願いするのも大変だし、介護支援専門員に経費を支払うことになったら予算計上しなくちゃならない!ちょっと寒気がしてきたのでトイレに行ってきます!」


第五章 夜明けのコーヒー 

 トイレから帰ってきた山田は席に着くやいなや「今の部分、改めてレクチャーしていただけませんか?」と切り出した。
 田中は、その話を快く承諾したが、最近忘れっぽいので改めて職場に電話して欲しい旨伝えた。

 「さて、もう空は明るくなってきたね。とうとう、いい答えは出せずじまいだったけど、どうする?」
 「田中さんさえよければ、最後にヒントだけでも教えてくださいよ。近くに24時間営業のファミレスがあるから、始発までの間で良ければ・・・」
 3人は一曲も歌わなかったカラオケボックスを後にして、最後のファミレスへ足を運んだ。なぜか3人とも頭は重いものの軽やかな足取りである。

 「さて、山田さんね、町の事業は、これ以上複雑にしたら誰も制度のことが解らなくなっちゃうから、すっきりした制度にしたらどうかなあ。」
 「といいますと?」

 田中は一気に続けた。
 「厚生省も行っている包括補助事業みたいなもの・・・つまり、福祉総合サービスみたいな名称にして、介護保険利用前と利用中に町が必要と認めた場合、サービスを提供します。として、サービスメニューを掲げて家事中心のヘルパーとか提供すればいい。デイサービスは以前行われていた老人福祉センター等を活用して演芸会とか食事会に変化させてもいい。ヘルパーは、10年前にスウェーデンでも実施していた退職者の再雇用や日本的に言えばシルバー人材等を活用してもいいよね。」
「ただ、一つだけ問題なのは、ショートステイ。こればかりはどうしても介護保険のベッドを使っちゃう。これは、様子見でも仕方ないけれど、とりあえず包括的な事業として予算計上するしかないでしょうね。」
 「そうして予算要求していく間に何とか矛盾を整理して行けばいいと思うよ。」

 「わあ〜、なんだか解ったような気がします。」
 「でもね、お酒飲んだときとか寝起きにいいアイデアだと思ってメモするでしょ?シラフの時に読み直すと、なんて稚拙なこと書いているんだろうって恥ずかしくなっちゃうときがあるから気をつけてね。」
 「はい、解りました。でも、多分大丈夫です。何とかたたき台の資料だけはできそうです。」
 「ただし、介護支援専門員の協力や事務の流れ、委託事業とするか否かといった課題だけは忘れるなよ。」

 山田は「はい!すごくすがすがしい朝です」と言い残して朝靄のビル街に消えていった。


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