介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第20話  「介護保険と交通事故」
〜第三者加害行為って?!〜

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

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登場人物の紹介
 田中 コンピュータ屋さんと間違われる県職員。実はケースワーカー
 山田 とある介護保険事業所のケアマネージャー(社会福祉士さん)
 鈴木 市役所介護保険課職員
 木村 町役場保健福祉課老人福祉担当職員。実は、かつて企業の人事部に勤務していたこともある。 
 斎藤 老人ホーム職員

 作:野本史男 
 平成12年8月28日


〜 序 〜

田中 「ごぶさた!」

山田 「ほんとうにごぶさた!何していたの?」

田中 「え〜とねえ、昨日は河口湖のステラシアターって言うところに行ってね、南こうせつMt.fuji音楽祭見てきたんだ!」

山田 「へえ〜?歳が判っちゃうわね!だって、南こうせつっていえば、あの神田川とかのかぐや姫やっていた人でしょ?」

田中 「そうだよ!伊勢正三も来ていたし、世良政則も、加藤登紀子さんも、加藤いずみさんも、み〜んな楽しかったよ!」

山田 「へえ〜?田中さんって、けっこう音楽好きなんだ〜?」

田中 「コンサートにはよく行ったねえ。南こうせつといえば、風というグループが結成されたときもすっ飛んでいったしね。先週は、宇多田ヒカルのコンサートにも行って来たよ」

山田 「なに?千葉マリンスタジアムに?」

田中 「そうそう。宇多田ヒカルは、アリーナの前の方だったから・・・・規制退場の時後の方になっちゃって、けっこう遅くなっちゃったなあ・・・」

山田 「一体全体何ミーハーやってるの???」

田中 「去年GRAYに行ったときも同じこと言ってなかった?あのねえ、学生の頃に比べればずいぶんと大人しくなったんだよ!」

山田 「知っているわよ。有名なシャンソン歌手と話すためにフランス語を勉強して、赤坂プリンスホテルで少人数の誕生会があった時は、田中さんが真ん前に座ってご歓談されたとか、サンレモに入賞したカンツォーネ歌手の初来日を待っていて、羽田空港で夜中になっちゃったこととか・・・・ずいぶん聞かされましたよ。」

田中 「いつ言ったっけ???覚えてないなあ〜?」

山田 「まあ、いいわよ。でも、それだけじゃあないんでしょ?ご無沙汰は!」

田中 「ああ、ちょっと執筆活動にいそしんでいまして・・・・それとねえ、1級ヘルパーの講師とか・・・・」

山田 「へえ〜?因みに何を書いているの?」

田中 「今ねえ、連載モノと、ちょっとボリュームのある共同執筆と、調査分析ものです。とりあえず、1本を除いて終わったんだけどね。夏休みもこれで吹っ飛んじゃった。」

山田 「まあ、遊んでばかりいないことだけでも判れば許してあげよう!」


〜本題です〜

山田 「ところでさあ、久しぶりの質問なんだけど、第三者加害行為についてなんだけどさあ・・・・」

田中 「なに!?せっかく昔話をしてあげようと思ったのに!」

山田 「まあ、今度ゆっくり聞かせていただきますよ。」

田中 「んで?第三者加害行為がどうしたって?」

山田 「あのね、いま、介護保険のご新規さんで、交通事故の示談中の人がいらっしゃるの・・・」

田中 「はは〜ん。介護保険の給付がどうなっちゃうの?っていうことだね?」

山田 「そのとおり。どうなっちゃうの?こういう人達のサービスは?」

田中 「ところで、保険者にどうなるか聞いたの?」

山田 「この間、市役所にも聞いたら、取扱いは県庁に確認していて、回答待ちだっていうからさあ・・・それでね、何でそうなるのか田中さんの所に聞こうとしたらさあ〜、休んでいたでしょ?」

田中 「それで、今捕まっちゃったって言うこと?」

山田 「そのとおり!」

田中 「で、何を知りたいの?」

山田 「なんで第三者加害行為の場合は、介護保険制度が給付されないの?・・・・そこから・・・」

田中 「要するに基本からっていうこと?」

山田 「はい、お願いします」


〜 第三者加害行為は、なぜ介護保険制度が給付されないのか〜

田中 「まずさあ、第三者加害行為については、介護保険法第21条に書かれている部分だよねえ。ちゃんと読めば、第三者加害行為の場合は、給付をしないのではなくて、給付に要した費用を第三者に請求する、或いは、保険が出ていたらその部分は給付対象としないことができる。ということなんだ。」

山田 「それで?どうしてなの?」

田中 「なぜこれが書かれているかと言えば、第三者加害こういって、交通事故とか、暴力事件とか、いろいろあるけど、そういった時って、加害者が損害賠償するわけだから、介護費用は加害者が負担するのが当たり前っていうこと。たとえば、交通事故の医療の場合だって自由診療となって医療費は相手方が支払うでしょ?」

(損害賠償請求権)
第二十一条 市町村は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付を行ったときは、その給付の価額の限度において、被保険者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

2 前項に規定する場合において、保険給付を受けるべき者が第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、市町村は、その価額の限度において、保険給付を行う責めを免れる。

3 市町村は、第一項の規定により取得した請求権に係る損害賠償金の徴収又は収納の事務を国民健康保険法第四十五条第五項に規定する国民健康保険団体連合会(以下「連合会」という。)であって厚生省令で定めるものに委託することができる。


山田 「わかるわかる!そうだったわよねえ!でもさあ、、交通事故の場合だって、保険者に社会保険を利用したいと申し出れば、保険適用できる場合もあるじゃない?介護保険制度ではそういうのって、無いの?」

田中 「まあ、介護保険制度は原則論の部分だけ書かれているわけだから、たとえば、国民健康保険団体連合会が第二十一条第三項の規定により市町村から委託を受けて行う第三者に対する損害賠償金の徴収又は収納の事務とか、具体的な方法は、これから・・・・と言うことになるのかな?」

山田 「例えば???」

田中 「そうだねえ、相手方が支払い能力がない場合とか・・・・けっこう難しい課題があると思うなあ。でもね、21条では、市町村が損害賠償の請求権を取得することになるから、利用者さんは安心できるよねえ。・・・・・」

山田 「うんうん。」

田中 「ただし・・・・」

山田 「な〜に?もういいわ、判ったから・・・」

田中 「そんな簡単にわかっちゃあいけないよ。だって、介護保険制度以後の事故や示談の場合は整理できるけど、示談が済んでしまった場合は?介護保険制度施行後にそんなことを知らずに示談が修了してしまっている場合は?」

山田 「あとからでも請求すればいいじゃない?」

田中 「示談の内容がどうかかれているか?だよねえ。例えばさあ、一般的な示談書に書かれる事項でね、「この事故によって、示談終了後に後遺症が発生した場合であって、医師がこれを認めた場合は、その治療費及び介護にかかる費用を加害者が負担する・・・」といったおきまりの文があるんだ。でも、この記載が無く、「以後、被害者はこの示談書成立後意義を申し立てない」とされていたらどうなるの?加害者はこの費用の負担を拒否するはずだよ。」

山田 「でもさあ、示談金の範囲内で市役所が決めれば良いんでしょ?」

田中 「示談金の中には、得べかりし利益とか、後遺症等級に相当する慰謝料とか、症状固定以降継続的にかかる介護の経費等について、査定されているんだ。でも、介護保険制度が無かった時代に介護保険制度の経費を算出した訳じゃあないのだから、たぶん、第21条第2項に記載される損害賠償の額の限度って、どこまでが当たるのか判らない場合もあるよねえ」

山田 「当時の保険会社の担当者に聞けばいいじゃないの?」

田中 「まあ、そこまでできて、はっきりしたとしよう。それじゃあ、受け取った額を使い果たしてしまっていたら?免除してもらえるの?だってさあ、当時は介護にかかる費用って言ったって、老人福祉法の自己負担分と家族に対する介護の経費程度って事もあるじゃない?つまり家族は今後継続する介護のために受け取っちゃうわけだから、使ってしまっている可能性も高いじゃないの。」

山田 「まあ、そうかもねえ。でも、当時と仕組みが大きく変わったんだから・・・・だから、こういう場合って、市町村が泣けばいいじゃないの!」

田中 「そう言いたい気持ちも判るけど・・・・過去の示談の分については、除外されるとか、明確な回答ができれば良いんだけどね。お役所って、初めて遭遇する課題を担当者の考えだけで決めつけることはできないんだなあ。簡単には・・・・」

山田 「厚生省に相談するとか?」

田中 「まあ、そうなっているだろうね。でもさあ、利用者に対しては、このことが未解決だからっていっても、それを理由にサービスの給付制限をすることはないだろうから、いいんじゃないの?」

山田 「まあ、利用者さんにしわ寄せが出なければいいの。だから、そんな難しいこと考えなくてもケアマネはいいんだ〜!よかった!!」

田中 「でもね、もし、家族が使ってしまっていた場合、市役所がそれはそれ、ちゃんとその分は頂きます!なんて言ったらどうするの??」

山田 「市役所はそんなに鬼じゃあないよきっと・・・判らないから給付しないなんて、そんな役所は無いでしょうねえ?」

田中 「そうだね。そうありたいよねえ。」


〜 もっと怖い話 〜

田中 「それはそうとして、私は、もっと怖い条文があるんだ・・・」

山田 「な、な、なによ!?」

田中 「それはねえ、介護保険法第64条なんだ・・・」

「第六十四条 市町村は、自己の故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由なしに介護給付等対象サービスの利用、居宅介護福祉用具購入費若しくは居宅支援福祉用具購入費に係る特定福祉用具の購入若しくは居宅介護住宅改修費若しくは居宅支援住宅改修費に係る住宅改修の実施に関する指示に従わないことにより、要介護状態等若しくはその原因となった事故を生じさせ、又は要介護状態等の程度を増進させた被保険者の当該要介護状態等については、これを支給事由とする介護給付等は、その全部又は一部を行わないことができる。」

山田 「それがどうなの?」

田中 「故意の犯罪や重大な過失って・・・・例えば、爆弾作っていて自分も爆発で大けがしたとかっていうのだったらわかりやすいけど、自殺未遂は?」

山田 「でもさあ、自業自得って意味なんでしょ?」

田中 「あのねえ、罪を裁かれて、労役に服して、前科はあったとしても、ちゃんと罪を償っても、その後もこうやって制裁措置を受けるわけ?ちゃんと地道に更生したのに人生の最後にこうやって、過去の犯罪を理由に介護保険から仲間はずれにされちゃうの?更生っていったい何なの?って言いたい!」

山田 「そうかあ・・・・これって、犯罪者に更生はないということかあ・・・」

田中 「だからね、きっとちゃんと罪を償っている場合は許されることもあるのではないかと・・・・信じているんだけどね。それと、重大な過失といっても、その基準や、適用しない場合の取扱いも整理されるだろうから・・・・」

山田 「あ・・・・思い出したわ、たしか介護保険制度が施行される前に田中さんが心配していた部分でしょ?」

田中 「そうなんだ。第三者加害行為の例が出ちゃったんだから・・・・いずれ犯罪や重大な過失の例も出てくるだろうね。」

山田 「そうね、具体的な例をみながら、慎重に対応して欲しい部分ね・・」

田中 「いずれにしても、具体的な例が出でも、対応方法が決まるまでは、暫定的にサービスを提供する等、行政側の未対応・未整理な部分が、結果的に利用者の不利益につながらないことを期待したいですね。」

山田 「賛成!」


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