介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)
第23話 「歯のない人の話・・・はなし!?」
〜 ケアマネも口腔ケアを大切に 〜
きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
登場する人物、団体は全て架空のものです。
無断転載を禁止します。
誤解を招かぬよう、フォローを入れるか、全文を転載することを条件に、事前承諾をいただければ転載可能です。
いつもの登場人物の紹介
田中 コンピュータ屋さんと間違われる県職員。実はケースワーカー
山田 とある介護保険事業所のケアマネージャー(社会福祉士さん)
鈴木 市役所介護保険課職員
木村 町役場保健福祉課老人福祉担当職員。実は、かつて企業の人事部に勤務していたこともある。
斎藤 老人ホーム職員
今回のゲスト
山口 年齢不詳の在宅歯科衛生士
作:野本史男
平成12年11月07日
〜 序 〜
最近テレビや雑誌で口腔ケアの話題が取り上げられていますね。
私も以前から口腔ケアのことが気になっていたんです。
実は、私が老人ホームの入所措置担当をしていたとき・・・・今から15年前(あ・・・そんなになるのかあ・・・・しんみり・・・・)
当時換気機能が不十分な特別養護老人ホームや精神病院(閉鎖病棟)では、特に冬場に独特の臭いがありましたよね。
その後、ロスナイ(三菱電機の登録商標かな?)とか、いい機能の換気扇が普及して、ウチは臭わない施設だ!胸を張って施設内を案内するところもありました。
その後、10年前頃、デンマークのヘルパーさんとお会いした時、ヘルパーが家庭訪問すると、まず玄関で深呼吸し、室内の臭いを確認するって言っていたっけ・・・(むせたりしないのかな?)
そこで、私が何の臭いが一番するのか?って確認したら、入り口と出口だって・・・・ つまり、尿便臭と口臭なんですよ。
今じゃあ、ノネナール(オヤジ臭)とかイソ吉草酸(汗くささ)って言って、小ギャル達から「チョー臭」とかって、汚がられていますが、口臭ってそれどころじゃないんです。
ちなみに、悪臭防止法で定める22種類の物質にノネナールの主原因である9−ヘキサデセン酸は含まれていないみたいだけど、イソ吉草酸が含まれているんですよ。(まあ、フツーの体臭だけじゃあ関係ないかな?)
でも、第十四条の国民の責務に「何人も、住居が集合している地域においては、飲食物の調理、愛がんする動物の飼養その他その日常生活における行為に伴い悪臭が発生し、周辺地域における住民の生活環境が損なわれることのないように努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する悪臭の防止による生活環境の保全に関する施策に協力しなければならない。」といっていますから、清潔に努めましょうね。
〜 在宅むかしばなし 〜
田中 こんばんわ
今日はね、私の知り合いの在宅歯科衛生士の山口さんを紹介するよ。
山田 へえ〜、田中さんが誰か連れてくることって、珍しいわねえ
田中 まあまあ、たまたま今日はね、老人ホームへ口腔ケアボランティアに来ていたところでバッタリ会ったもので、そのままつれて来ちゃった!
山田 ところで、なあに?歯科衛生士って?歯医者さんの看護婦さんなの?
田中 おいおい!ケアマネがそんなこと聞くなよ!
山田 そりゃあ、居宅療養管理指導にあることは解っているわよ!でもさあ、歯科衛生士の資格要件や業務内容やその他諸々なんて、覚える必要なかったからさあ・・・
ついでだから聞いちゃおうって思ってね。ラッキー!
山口 まあ、そんなものだけど・・・まず歯科衛生士は、高等学校卒業後、文部大臣又は厚生大臣の指定した歯科衛生士学校又は養成所で2年以上の課程を終え、更に、厚生大臣の指定する指定試験機関(歯科医療研修振興財団)の行う歯科衛生士試験に合格すればなれるのよ。
それと・・・・ほら、小学校の頃、保健の先生みたいだけど、いつもの先生と違ったお姉さんが来て、大きな歯の模型に、カバが使うような歯ブラシで歯磨きの説明を受けたことがあるでしょ?そういった公衆衛生分野の指導をしたり、病院や歯科医院で、歯垢や歯石除去、フッ素塗布とかをしたり、在宅障害者や高齢者の家庭に訪問して、歯科医師の指示で同じようなことをしたり・・・・
山田 う〜んと、看護婦さんと保健婦さんの間にいるような人なの?ところで、助手っていう人とはどう違うの?
山口 助手はセメントを詰めたりすることはできないし、歯石除去は当然できないのよ。
田中 ねえねえ、ところでさあ、僕の場合、ブラッシング指導は保健の先生がやっていたけど・・・・?
山口 養護教諭と歯科衛生士が一貫して取れる学校もあったような・・・、きっと両方の資格を持っているからじゃないかしら?
田中 そうかあ・・・・僕の印象だと、保健室の先生=おばさん 歯科衛生士=お姉さん って印象持っちゃっているなあ
山口 ちょっと偏見入っているんじゃない?
田中 ところでさあ、一度山口さんに話しておきたかったんだけど・・・・つい最近まで大きな誤解をしていたこと!
山口 まさか、私を見て歯科衛生士にもおばさんがいた!なんていうことじゃないでしょうね!
田中 ちがうちがう!実はね、15年前、老人担当をしていたときにね、ねたきりになって10年の方がいたんだ。まあ、その人の部屋って、ツンとした臭いが立ちこめていてね・・・
山口 ああ、それって口臭ね。以外と原因を解っていない人が多いのよね〜
田中 僕も気がつけばよかったんだけど、実はそれだけじゃなくって、お話しているときに、下の前歯2本がしっかり残っているんで、「いい歯が残っていますね。ちゃんと土台がしっかりしていて・・・・」って言っちゃったんだ。
山口 ふ〜ん、それで?
田中 ちょうど歯の下に白く盛り土したような補強がされていたから、てっきり歯を残すためにセメントのようなもので固めてあったのかと思っていた!
それがさ、一昨年の水戸で開催されたリハビリ研究会に行った時に、静岡県の御殿場市の特別養護老人ホームで活躍されている歯科医師のお話で、これが歯石の固まりであることが解ったんだ。
山口 ウワ〜!!!!疼く!!!取りたい!
田中 そうなんだ、その先生も、歯科衛生士は、こういうのを見るとウズウズするって言っていた。山口さんって根っからの歯科衛生士なんだね。
山口 えっ!
田中 そんなところで照れない!
山口 照れてなんかいない!
〜 今流行りの口腔ケア 〜
山田 ねえ、最近テレビやコマーシャルで口腔ケアとか舌苔のことが取り上げられているでしょ?
山口 そうそう、いいことね
山田 それでさあ、この間のテレビで若いお姉さんの口から「スピロヘータ」が検出されたの見て、びっくりしちゃった
山口 歯に付着する細菌は300種以上もあるって言われているのよ。そのうち、歯周病菌とみられる原因菌は約10種類。その中にはスピロヘータとかもいるし、珍しい話じゃないのよ。
田中 ねえ、僕の口の中にもいるの?
山口 いるいる!たばこを吸って、酒飲んで、5分すら歯を磨かないなら、うじゃうじゃいる!
田中 ウゲ! じゃあ、高濃度のアルコール消毒を!
山口 そんなんで歯垢や歯石が取れる分けないでしょ!?
歯垢は雑菌の固まりなんだから!
田中 どうすりゃいいのよ?
山口 それはね、ちゃんとブラッシングすること。それと禁煙!
田中 話を変えよう!
テレビでよく見かけるようになったのは、6月4日頃からなんだよ。てっきり虫歯予防デーだから?って思っていた。
山口 都合が悪くなると・・・・ね!これだから
そうね、関心が高くなればいいこと。それに、歯周病とかが内臓疾患にも影響しているっていう研究結果も出はじめているし、ようやく関心がでてきたみたい。
〜 介護保険制度の口腔ケアって? 〜
田中 介護保険制度でも療養管理指導で対象となったけど、利用率はイマイチだよね。
山田 だって、主治医意見書ではまず出てこない。だって内科とか整形の先生ばかりだから・・・・
田中 う〜ん。主な目的が要介護認定の意見書だから、口腔ケアが要介護度に直接関係しないからねえ。特に意識しなければ書かれないのもわかるなあ。
で、課題分析の段階でもチェックは入らないの?
山田 そうねえ、特に気にもとめていなかった。
山口 そうなのよ、歯がないから口腔ケアが必要ないなんて言う人が沢山いる
山田 そうそう、経口摂取しない人は、口腔ケアなんて微塵も考えていない!ははは!
山口 何も口を通らなければもっと細菌が繁殖する。唾液も出が悪くなるし・・・・
山田 そんなものなの!?
田中 だから、ヘルパー研修でも口腔ケアのことをきちんと勉強することになっているんでしょ?
山田 だって、私ヘルパー研修受けていないもん。!だけど、社会福祉協議会でヘルパー研修を企画していたからわかるけど・・・でもね、きっかけがないとね。
田中 そうそう、だって、医師の指示で療養指導ができるんだから、ねたきりの人とか、痴呆で動きの強い人はどうやって歯科医師の指示が出るの?
所謂みそっ歯になっても痛みが出ないみたいだし、多くの寝たきり高齢者の口の中はマッチ棒の燃えかすのような虫歯の残骸が歯肉にぽつんぽつんと生えている状態でしょ?
山口 そうなのよ。家族とかがきちんと気にしてもらわなければ診療に結びつかない。だから療養管理指導にも結びつかない。
田中 そうだよね。ヘルパーやケアマネが歯科に受診しろと命令はできないし、関心を持ってもらって、口腔ケアのために受診しようって思うようにならなければ始まらない。
山口 そうなの。そのとおりなの!
田中 ところで、在宅で寝たきりの人はどうやって受診すればいいの?
山口 そうねえ、障害者を受け入れている歯科診療所に行くか、訪問歯科診療をしている先生を捜す!
田中 病院とかに行くのであれば、介護予防生活支援事業の移送サービスも活用できそうだし、どこにあるか解らない場合は・・・・保健所に聞く!歯科医師会に聞く!
山口 そのとおりです。
山田 へえ〜?ふ〜ん
でもさあ、私たちって、歯医者はえんま様のように怖い所って印象があるから、家族の口腔ケアでも、痛くなければ行かなくてもいいじゃないって思っちゃうの、私だけ?
山口 そんなことないの。歯科って、そう言う風に捉えられているのがフツーよ。だから私たちがしっかりしなければならないの!笑顔で!
田中 そうそう!かわいい目をしている歯科衛生士さんだからって、マスクを取れば歯をヤスリで研ぎ澄ました大きな口がある!って思って・・・・・いなかったよ!
山田 で、介護保険で口腔ケアって必要なの?
田中 介護保険で必要なんじゃないよ。寝たきりや痴呆の高齢者にも歯のない人にも、口腔ケアが必要なんだってこと。誰かが手伝わなければきちんとした口腔ケアができないわけでしょ?自分だってブラッシング後にテスターで調べれば、歯の間なんて真っ赤っかだしね。
山口 そう!だから定期的なプロフェッショナルトゥースケアが必要なのよ。
〜 歯がないとどうなる?口腔ケアをしないとどうなる?〜
田中 ねえ、歯がないとどうなるの?
山口 そりゃあ、食事、栄養補給が一工夫も二工夫も必要になる。
田中 じゃあ、口腔ケアをしない場合は?
山口 そうね、感染にも弱くなるし・・・・きちんと言えないけど、直接・すぐにどうなるって言うことはあまり無いから問題なの。
田中 そうそう、歯が無くなると軟食になるでしょ?そうするとね、ふつうに食べる食事をミキサーに掛けたり、水物を多く取るようになる。するとね、すぐお腹いっぱいになっちゃって必要量の栄養摂取が出来なくなるって管理栄養士が言っていた。
山口 そうなの、だから特殊な栄養補給を補助食として取らなければならない。
山田 そうなんだあ!床ずれが治りにくい人の多くが流動食だったのはそういうことか!
田中 関連性は否定できないかもね。
山口 そうそう、口腔ケアをしないとツンとした口臭が出てくる。それが直接的な問題ともいえるかしらね。
田中 それだけ口腔が汚れているってことだね?
山口 そう。それに歯槽膿漏や歯肉炎とかで、その細菌が体内に入ってくる・・・・・
山田 抵抗力が弱っている高齢者ならたまらないね。
山口 だから、家族とか、ヘルパーが口腔ケアを毎日毎食後行って、定期的にプロがケアと指導をする。これが理想的なパターンです。
山田 手抜きがじわじわと体をむしばむって・・・・今の社会病理そのもの!
田中 いいこと言うね。
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