介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第27話  「ケアマネの仕事って・・・・・」
〜 ケアマネ以上の仕事、しないわけにはいかないでしょ!? 〜

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

 無断転載を禁止します。
 誤解を招かぬよう、フォローを入れるか、全文を転載することを条件に、事前承諾をいただければ転載可能です。


いつもの登場人物の紹介
 田中 コンピュータ屋さんと間違われる県職員。実はケースワーカー
 山田 とある介護保険事業所のケアマネージャー(社会福祉士さん)
 鈴木 市役所介護保険課職員
 木村 町役場保健福祉課老人福祉担当職員。実は、かつて企業の人事部に勤務していたこともある。 
 斎藤 老人ホーム職員

 作:野本史男 
 平成13年6月18日


〜 序 〜
ごぶさたしております。
先日、介護保険指定事業所の集団指導が終わりました。
これからは、訪問指導で休む暇無しかあ・・・・
そう言えば、この間老人保健施設の方からこんなこと言われました。
施設 「今年もウチにも指導来るんでしょ?」
田中 「そうなりますねえ・・・準備とか、ご苦労様です」
施設 「ええ、でもね、私はこう思うんですよ。指導とか監査って、考え方によっては、お金出さずに業務内容をチェックしてくれる訳だから、得だと・・・・。だって、お金出して税理士や経営コンサルタントとか、入れる訳でしょ?それがタダで、って思えば、良いことじゃないですか?」
田中 「本当にそう思われているの?」
施設 「ええ、私なりにそう思っています。だって、田中さんは、請求に漏れがあったり工夫すれば業務量が軽減できる部分とか言ってくれたでしょ?」
田中 「そうでしたね。たしかに私は請求できるのにしていない項目は、なぜ請求しないのですか?って聞きましたよ。だって、監査じゃなくて指導なんだから」
施設 「だからですよ。」
田中 「ありがとうございます。そう思われていれば、私も連日の指導も気が楽です。」
施設 「わからないところがあれば聞いてもいいでしょ?」
田中 「いいけど・・・・そう言われると気が重くなるなあ・・」
施設 「大丈夫ですよ、田中さんにとっては基本的部分ですよ」
田中 「だからドキドキしちゃうんじゃないですか!」
施設 「まあ、よろしくお願いしますね」
ということで、来月から1日〜10日を除外して、週1回以上の指導巡業が開始されるんです。


〜 ケアマネは、ケアマネの仕事だけじゃ済まないの 〜
田中 「どうもご無沙汰!」

山田 「こちらこそ。」

田中 「このところ、電話の質問攻撃がめっきり無くなったけど、どうしたの?仕事やってるの?」

山田 「のっけからご挨拶だなあ・・・そう言う訳じゃなくて、私が賢くなったから!・・・と言いたいけど、力が入らなくなってきてね。ちょっとマンネリかな?」

田中 「もうマンネリ?困りましたねえ。仕事にトキメキが無くなったの?」

山田 「トキメキと言えば、こんな事例があったわよ。」

田中 「なになに??」

山田 「聞きたいでしょ?」

田中 「もちろん。私もトキメキが欲しい!」

山田 「それはね。70歳の寝たきりの利用者さんと子供たちの家族がいるんだけど、子供たちはバラバラで何もできないの。ついでに生活保護ぎりぎり!言い出したらきりがないからそこまでにしておくけど、まあ、多問題ケースよ。そんな方が、22時頃に突然ヘルパーを呼びつけてね、「具合が悪い!」って言い出したのよ。ヘルパーが訪問したら、病状急変で救急車で緊急入院。ヘルパーからケアマネの私に連絡があった以上、行かないわけにはいかないでしょ。」

田中 「それで?」

山田 「それで救急病院に入ったんだけど、入院と言われた時からヘルパーを使ったらまずいでしょ?だから、ヘルパーは帰らせたわよ。自分の事業所のヘルパーじゃないから、タダ働きはさせられないし、自費だって払えないのわかっているからさあ。」

田中 「それでケアマネさんは何をやっていたの?」

山田 「入院手続きまではヘルパーさんにやってもらっていたけど、帰らせてから、何が不足とか、タオルを持ってこいとか、指示していたの。そこの病院は、おむつは指定のじゃなければ汚物を引き取ってくれないのよ。私が持って帰ったのよ!」

田中 「家族は何もしないの?病院側からの指示はないの?」

山田 「私がいなければ何とか病院から家族に指示があったでしょうけど、私から電話で遠隔指示しても、トラブルを起こすのは目に見えているからね。このケースだけは行かなければ駄目なの。」

田中 「まあ、ケアマネの仕事の範囲に割り切っちゃえばそれまでだけど、福祉関係職員って、このように予防的に関わる事例ってよくあるね。福祉事務所とかだと、上司とか、査察指導員とかがいて、訪問すべきか相談できるからいいけど、ケアマネは、当事者だけの単独組織も多いから結構悩む部分でしょうね。」

山田 「私のやったこといけなかったのかしら?」

田中 「う〜ん、ケアマネの業務以外とも言われかねない・・・というか、言われちゃうかもね。遠隔指示や連絡ですませられない事情を明確にしなければね。組織的にみれば、その深夜労働部分をどうフォローするかという話にもなるだろうし・・・。詳細な状況が分からないし、同一組織の人間じゃないから是非は言わないようにするけど、ケアマネとして、必要と判断したら、その判断が揺らぐことが無いようにね。」

山田 「田中さんにとっては、よくないこと、って感じているの?」

田中 「う〜ん、よくないことといえば、現行の仕組みの中には含まれない業務と言えるかな?でもさ、必要な業務で対応できない部分があれば、仕組みを変えることが必要ということでしょ?介護保険なんて、まだまだ不足する部分がある訳だから・・・一つだけ言えることは、その必要性をケアマネとして説明できるようにしなければね。」

山田 「わたしも、つい直感で動いちゃうから・・・・ちゃんと考えてから動かなければ・・・」

田中 「直感でって、すごく良いことなんだよ。エキスパートって、そう言うものじゃない?一つ一つ検討を加えていたら、利用者さんは結論が出るまでに退院しちゃうよ。ケースは刻々と動いているんだからさ。ひとつだけ余計なことを言えば、エキスパートは、自分の行動を後からでもきちんと説明できることが必要なんだ。」

山田 「分かったわ。ついでに言えばね、その利用者さん、これだけに終わらなかったの。もう一つね、洗濯物を洗ったりするのも、家族ができないから・・・・私がやってしまっていたの。」

田中 「病院でやれないの?やはり、お金の問題?」

山田 「そう。金次第よ。金さえあればいいけど、借金だらけで金はないし、生活保護は基準を超えているから適用されないし・・・・」

田中 「まあ、こういう利用者さんは、建前じゃあ自己破産とか、やるべきことを行いなさい!なんて机上の建前論で解決できないんだよねえ〜。まあ、ぼちぼちと絡み合った糸をほぐしながら・・・・といっても、誰がやるんじゃ!?」

山田 「一歩歩いて二歩下がるって家庭だからね。一つ解決すると二つの問題が発生する家族なのよ!」

田中 「このようなケースを持つケアマネさんって、けっこういるんでしょうね?」

山田 「そうよ、同業に愚痴れば、やはりいるのよね・・・・こういう利用者さん。今までは、ケースワーカーが福祉事務所にいたけど、介護保険の利用者となった途端に、私の仕事!?」
山田 「ついでに言えば、ケアマネが利用者の家族の子供が問題を起こしたので市役所に話したらね、「あなたが児童相談所に相談しなさい。」って言われた。私は、利用者さんの家族全体のケースワークをするの!?って言いたい!」

田中 「こんどさあ、ケアマネの業務外分野で関わった事例、集めない?何が問題なのかは、おぼろげに分かるけど、事例を積み上げて問題を明らかにしないとね。」

山田 「でもさ、目が行き届くのは、50ケースっていい案配ね。とある事業所を利用している方から、ケアマネを変更して私の所に来たいっていう相談もあるのよ。」

田中 「どんな理由で?」

山田 「それはさあ、相談に乗ってくれないっていうこと、突っ慳貪で私の話を聞いてくれないから、っていうのが理由よ」

田中 「突っ慳貪っていうのはいただけないけど、ケアマネ業務以上のサービスを行うことが通例とされて、業務をきちんと区切って仕事をしている人から見ると、余計な仕事をしていることが無料だったら、ダンピングだって言われちゃうかもねえ・・・」

山田 「ええっ〜!?そんなこと言われちゃうの?」

田中 「う〜ん、別のサービスとなる部分は、そう言われてしまう側面があるってことかなあ?例えば、私にケアマネを変更したら、ヘルパー10時間タダでサービスしますってセールスしたら、問題でしょ?でも、課題分析のために家族全体の課題を聞き、問題解決の糸口を示したら、理想的なケアマネでしょ?それじゃあ、入院中の洗濯物を洗ったら、本来かかる洗濯代を肩代わりしたことになるでしょ?」

山田 「そういうことかあ、でも、やってくれる人がいなかったら困るじゃないの?」

田中 「だから、そういう現場の第一線じゃなければ分からない「空白」部分を明らかにして、行政に問題解決を図らせていくことが必要なんじゃないの?」

山田 「がんばったから褒められるということじゃないのね。そこまでやらなければいけないのか〜」

田中 「がんばりましょうね!」


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