介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第28話  「事業所指導って一体何するの?」
〜 監査じゃないんだから、心配要りません! 〜

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

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いつもの登場人物の紹介
 田中 コンピュータ屋さんと間違われる県職員。実はケースワーカー
 山田 とある介護保険事業所のケアマネージャー(社会福祉士さん)
 鈴木 市役所介護保険課職員
 木村 町役場保健福祉課老人福祉担当職員。実は、かつて企業の人事部に勤務していたこともある。 
 斎藤 老人ホーム職員

 作:野本史男 
 平成13年08月05日


〜 序 〜
いよいよ事業所指導が始まりました。
今年度からは、居宅介護支援事業等の事業所に対する指導も実施することになります。
指導を受けるとある事業所からは、「一体何をされるの?」とご心配のメールが届いています。
メールのレスには、「監査じゃあ無いんだからそんなに心配しなくて良いですよ。」と書いたんですが、やはり安心できない様子です。
個別に具体的な指導内容を示すのは、ルールに反するので、この小説でお知らせすることといたします。
と言っても、一般論ですし、指導対策を伝授するものではありませんので・・・・あしからず。


〜 指導の種類 〜
山田 「事業所指導とか、監査とかが始まるっていうけど、どうしてそんなことやるのよ。お互い面倒になることなんだから、やめにしない?」

田中 「そういわれましてもねえ、介護保険法に定められていることなんだから・・」

山田 「いままで、老人ホームとか、いろいろな事業所で県が監査していたでしょ?それと同じようなことなの?」

田中 「監査と指導って、別物として考えてよ。特に介護保険の場合、監査は、事業所に問題がある時に行うんだ。」

山田 「そんなのどこに書いてあるの?」

田中 「それは、全国老人保健福祉関係指導監督等担当係長会議(平成12年5月15日)に示された老発 第479号(平成12年5月12日)が根拠ですよ。」

山田 「それで、その中には、行かなければならない頻度とか、細かなことも定められているの?」

田中 「そうだよ。会議資料の36ページ「2 介護保険制度における指導及び監査について」に、実地指導について、施設は2年に1回、介護サービス事業者(但し、みなし指定の介護サービス事業者を除く。)については、原則3年に1回としている。ちゃんと出ているんだなあ〜。」

山田 「そうかあ、田中さんが勝手に決めている訳じゃあないんだ。」

田中 「そうですよ。ちゃんと厚生労働省が示した文書に基づき実施しているわけ。勝手に決めている訳じゃあないさ。」

山田 「ところで、それじゃあ、施設を廻る順番は?そこまでは決めていないでしょ?」

田中 「そりゃあそうだ。」

山田 「もしかして、できの悪い順とか、良い順とか、そんな順番を作って決めてない?」

田中 「そんな考えはないよ。僕の場合は、パソコンで名簿を作って、ランダムに決めた。ただ、夏休み時期に混む場所とか、雪深くなるところは、その時期を外すよう組み替えたけどね。」

山田 「ほんと〜?どうもねえ、昨年の実地指導の順番がねえ・・・・」

田中 「そんなことないよ。」

山田 「まあいいか。」


〜 で、実地指導で何するの? 〜
山田 「ところで、その根拠とやらには、私たちに対してどうしろとか、書いてあるの?」

田中 「煮て食えとか、焼いて食えとは書いていないから安心して。」

山田 「煮ても焼いても食えないから?」

田中 「そうかもしれない。」

山田 「冗談を冗談で返さないでよ!」

田中 「まじめに答えればね、事業所の種類別に「人員、設備及び運営に関する基準」とかっていうのがあるでしょ?

山田 「ああ、あの睡眠薬みたいな呪文がかかれているやつ!?」

田中 「それそれ!でも呪文はないでしょ?」

山田 「だってさあ、訪問介護だけはきちんと読めるけど、それ以降の事業所はさあ、準用するとかなんとか書いちゃってあって、全然読む気がしないのよ。それに他の条文を参照していて、見ただけでイヤになっちゃう!」

田中 「そうだよねえ、すぐ参照できればいいけど、通知集みたいなものは、あっちこっち開かなければならないからねえ。」

山田 「だから、睡眠薬みたいなものに感じちゃうんだ。」

田中 「でもさあ、それをきちんと読んで、やるべきことやっておかなければ・・・。」

山田 「一通り読んで、やることはやっているつもりだけど・・・」

田中 「ならいいよ。」

山田 「どうしてそんなこと言うの?」

田中 「そりゃあ、指導って、基準とかにかかれている「〜しなければならない。」とか、「〜と定める」とか記載されている項目を、逆に「してますか?」って確認するのが基本なんだよ。」

山田 「へえ〜!?そうなんだ!」

田中 「そりゃあそうでしょ。感覚でいいとか悪いとか言うことはできないでしょ?」

山田 「たとえばさあ、食事がまずいとかおいしいとか・・・・そういうのって、指摘されないのかな?」

田中 「そういうことになるね。客観的に言えなければね。」

山田 「ところでさあ、どの事業所にも全く同じ順番で確認するの?ペース配分とかはどうなるの?」

田中 「こちらも何人かで行くから、自分の担当部分をこなしていくことになるね。ただ、レセプトとか、記録とかは、ある程度の判断基準を自分なりに考えて、質問事項を考えることにしている。」

山田 「そこそこ!自分なりの判断って、それが知りたい!」

田中 「それはね、企業秘密!」

山田 「それが分かればうれしい!」

田中 「まあ、判断基準なんて、あるようで無いようで・・・たとえばね、何十冊もあるケースファイルにすっと手を伸ばして読んだ記録に、指摘事項が見つかっちゃったりしてね。自分でも驚いたりして。」

山田 「霊感でもあるの?記録に読んでください!って見えない字で書いてあるの?」

田中 「霊感じゃあないけど、偶然ってあるんだなあ〜って思っちゃった。」

山田 「ちょっとはぐらかされていない?」

田中 「バレた? まあ、指導は、口頭と文書があるけど、いずれの場合でも、厚生労働省の通知類に定められていることが実施されていないとか、誤った運用になっていることが確認できるときであって、こちらが「○○基準第×条第△項に定める○○について、××だから是正してください」って言えなければならない。確認する事項は、そういった根拠に結びつく項目で矛盾の起きやすいというか、はっきりしやすい書類を見比べるんですよ。」

山田 「つまり、加算とかを算定している場合、その根拠が示せなければならないってこと?」

田中 「そりゃあもちろん。加算にとどまらず、介護報酬の請求をするなら、その根拠が示せる資料がなければならないのは当然ですよ。」

山田 「ということは、サービスの記録とかが無ければだめなの?」

田中 「請求の根拠がなければそりゃあだめですよ。そうじゃなければ請求し放題ということでしょ?」

山田 「ケアマネと事業所が一緒だと、組織的な不正もしやすいって分かるけど、異なる場合は?」

田中 「ケアマネの給付管理をどうやっているか?利用者にも確認しているか?っていうと、どうしています?事業所からの報告だけで管理しちゃっているでしょ?だから、一緒だろうがどうであろうが、あまり関係ないって思っているけど?まあ、疑いだしたらきりがないからね。」

山田 「話は変わるけど、指導の範囲って厚生労働省の基準とか、通知だけの範囲なの?」

田中 「まあ、基本的にはそうだね。例えば他の法律に関する部分は指摘しないことにしている。話題では出すこともあるけどね。」

山田 「でもさあ、厚生労働省の解釈とか、そういうのって知らないことも多いでしょ?」

田中 「そこねえ、そこの所は難しいことだと思っているんだ。例えば、WAM-NETのFAQなんていうのも千件近くの問答が出されているけど、事業所は知らなくても仕方ない。だって、全事業所にきちんと周知される仕組みじゃあないから。だから、拘束力があるかと言えば、限定されたネットワーク内での議論なんだから、公平平等の原則から見ても拘束力はないと考えているよ。」

山田 「それじゃあ、そんな紛らわしいのはやめちゃえばいい。」

田中 「どうしてそんなことしているのか?と言われちゃうと、なぜ行っているのか、覚えていないなあ。たぶん、FAQのネットワークができたときには、説明があったんだろうけどね。」

山田 「だから、無視しちゃえばいい!」

田中 「私が思うには、介護保険法は自治事務によって行われているものだから、保険者の判断材料のためのFAQなんだと言えば、説明が付くかなあ?」

山田 「言っている意味が分からない」

田中 「う〜ん、自治事務に対する国の支援ということだと考えるのが最も適切かなということ。例えばね、地方自治法第2条第13項に「法律又はこれに基づく政令により地方公共団体が処理することとされる事務が自治事務である場合においては、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう特に配慮しなければならない。」と規定しているけど、県とか市町村が行う介護保険の事務を支援するために国が助言しているもの・・・といえば良いのかなあ?」

山田 「分かったような分からないような・・・・それじゃあ、県が事業所を指導するときは、市町村の判断を知った上で行うの?」

田中 「厳密に言えば、県の立場としても市町村の事務に対して口を挟む範囲って言うものがある。言い換えれば、国が定めた基準、都道府県が定める基準の範囲でこっちは指導をするのであって、市町村の判断の部分は、市町村が指導することになるね。」

山田 「市町村も指導に来るってこと?」

田中 「そうだねえ、介護保険法では、市町村も事業所指導することができるわけだから、可能だということだよ。」

山田 「なんだか聞けば聞くほど分からない」

田中 「まあ、一言で言えば、国が全国に示した通知類の範囲であって、かつ、県が所管する事業所全体に対して示した県の通知類の範囲でしか指導しないから安心してということ。」

山田 「最初からそういえばいいじゃないの!」

田中 「お互いはまりやすい性格だからね。」

山田 「あ、ということは、国が示した事務連絡は、周知されているからだめなの?」

田中 「う〜ん、アドバイスはするけど、指摘はできないかなあ・・・・たぶんしないだろうね。」

山田 「そうそう、指導なんだからね。きちんと集団指導とかで全事業所に示さない限りは、言うこと聞かないから!」

田中 「そう片意地張るような言い方はだめだよ。利用者に不利益が発生するとか、問題が出るような内容は、自主的に改善してもらわなければならないこともあるでしょ?」

山田 「またそういう言い方で言いくるめるんだから!」


〜 苦情とか、告発って 〜
山田 「ところでさあ、事業所の噂とか、苦情とかは反映されるの?」

田中 「そりゃあそうでしょう。でもね、苦情とかは、一方的な話だからね。場合によっては感情的に苦情が出されて、尾ひれがついている場合もある。こじれとか、ねじれとか、いろいろあるからね。」

山田 「はがゆいでしょ?」

田中 「まあねえ、でもさあ、関連性のない複数の人から同じ苦情が出ていたら、重点チェックをすることもあるだろうね。」

山田 「それはそれは、ところでウチの事業所には苦情来ていない?」

田中 「そりゃあ、言えないですよ。」

山田 「まあ、目が笑っているから大丈夫かな?」

田中 「今度サングラスしてくるね。」

山田 「でもさあ、具体的な告発とかがあれば、どうなの?摘発しちゃうの?」

田中 「あのねえ、摘発って、ウチは捜査機関じゃあないんだよ。ただねえ、問題が明確になったら、緊急指導とか、監査とかもできる・・・・けど、そういう問題を探すのが本来目的じゃないんだよ。なんたって指導なんだから。」

山田 「あら、摘発するのがノルマになって、摘発件数が多ければご褒美がもらえるんじゃなかったの?」

田中 「あのねえ、怒るよ!」

山田 「冗談冗談。スタンスは分かったけど、大きな問題が発覚して、最悪の場合はどうなるの?」

田中 「監査に切り替えて、最悪の場合は事業所の指定取り消しとか・・・・そういうのもあったみたいだね。」

山田 「どこどこ!?」

田中 「この間の厚生省の課長会議に事例が出ていたけど、大きな問題だったね。」

山田 「なんか緊張しちゃうなあ。」

田中 「でもさあ、いちがいには言えないけど、悪意とか、故意で行ったかがどうかが問題になるんでしょうねえ。」

山田 「それじゃあ、心配しなくても良いの?」

田中 「だってさあ、指定取り消しなんて、従業員を路頭に迷わすことになるんだよ。場合によっては一家心中にまで至っちゃうかもしれない。こっちだってそうなりゃ真剣に、慎重に行わなければならないですよ。」

山田 「ところで、田中さんは誰の味方?」

田中 「私は、利用者の味方です。その次に専門職の特に直接従事者の味方ですよ。」

山田 「なに、その取って付けたような言い方!」

田中 「いずれにしても、いい仕事してくださいよ。そのためには、事業所指導に行ったときには現場の声も傾聴したいんだ。」


〜 事業所指導で聞きたい言葉 〜
田中 「あのですねえ、私たちって、中二階にいる存在でしょ?だから常に現場の声を聞くことができないんですよ。」

山田 「え?そうなの?」

田中 「まあ、事業所指導の場面であれば、組織的に聞くことができるっていうこと。」

山田 「といったって、現場の声を出したら、やぶ蛇になっちゃって、指摘されちゃうかも!?」

田中 「そんな意地悪していたら、お互いにマイナスになるだけだよ。悩みもあるでしょ?福祉系、保健系、それぞれの悩みが。だから、専門職同士なんだから、やりきれないこととか、ここが問題だとか、はっきり言ってほしいんだ。」

山田 「本当?」

田中 「そりゃあそうでしょう。指導なんだから。一方的な指示だけで物事は解決しないことも多いですよ。」

山田 「どうも眉唾ものだなあ。」

田中 「だってさあ、当時の厚生省がなんて言っていたか覚えている?介護保険は完璧な制度じゃあない。運用しながら改善していくと言っていた。そういう声を上手くくみ上げていくかが重要だと思っているんだ。組織的に問題点を受け止めれば組織的に対応しなけりゃならないでしょ?」

山田 「まあ、言われりゃあそうだけど、いざ具体的な話になるとねえ、言いづらいのもあるのよ。例えばさあ、施設長と意見が食い違う場合もあるでしょ?分かってくれない部分もあるのよねえ。」

田中 「だから、個別面接形式にしている。問題点を話してくれれば、どういう取り上げ方をすれば受け止めることができるか、一緒に考えてアドバイスしているんだ。」

山田 「へえ〜、そんなことしてくれるの?」

田中 「そうだよ。私は、厚生労働省が、介護保険の仕組みはもう完璧だと断言するか、以前に言っていた言葉を取り消すまでは、そういうことはあえてしなけれならないと思っている。」

山田 「ふう〜ん。それじゃあ、楽しみだなあ。」

田中 「ま、そういうことで、楽しくやっていきましょう!」


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