介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第30話  「入所待ちの短期入所」
〜 ケアマネと市町村の役割 〜

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

  無断転載を禁止します。
 誤解を招かぬよう、フォローを入れるか、全文を転載することを条件に、事前承諾をいただければ転載可能です。


いつもの登場人物の紹介
 田中 コンピュータ屋さんと間違われる県職員。実はケースワーカー
 山田 とある介護保険事業所のケアマネージャー(社会福祉士さん)
 鈴木 市役所介護保険課職員
 木村 町役場保健福祉課老人福祉担当職員。実は、かつて企業の人事部に勤務していたこともある。 
 斎藤 老人ホーム職員

今回のゲスト
 山本 もう一つの町の職員
 
 作:野本史男 
 平成13年10月19日


〜 序 〜
 事業所指導がややもするとケースカンファレンスのようなことになることがしばしばあります。
 私は、重箱の隅を突っつくような監査的事業所指導は、この時期は単なる「いぢめ」(「ぢ」を使いたい!)の様で好きではありません。
 私は、事業所が悩んでいることをきちんと聞き取らなければ、運営上の問題解決に至らないと認識しているからです。
 例えば、事業所にあれはしてはいけない、これをやらなければならない。と唐突に指導しても解決にはならないと思うのです。やはり、なぜ、やってはいけないことをしているのか?なぜ、やらなければならないことができないのか?ということを理解しなければ、解決のための指導はできないでしょ?
 それに、指導を始めるまでの間に、事業所を育ててきたのか?そこまで奢った言い方をしてはいけないけど、事業所に何をしてきたのか?というと、何もしていなかったんじゃあないでしょうか?
 特に、介護老人福祉施設の場合は、本当に悩んでいる様子が分かります。
 それだけに、聞けば聞くほど指導って難しいなあ、って思うんです。

〜 介護者が倒れても入所できない!〜
 要介護度4の高齢者と息子の二人暮らしで、在宅サービスを受けていた方がいました。
 この世帯は、息子の献身的な介護と訪問介護等の介護保険サービスを受給で、在宅生活が維持できていたのです。
 しかし、息子がある日突然緊急入院することとなり、これまでの在宅サービスだけでは支えきれなくなったのです。
 居宅介護支援事業所のケアマネは、即座に課題分析を実施し、施設入所が適当と判断したのですが、どこの事業所も待機2年以上。入所の目処すら立ちません。
 このような話題は、都市部ではいくらでもある話です。
 しかし、ケアマネは、今まで市町村老人福祉担当者(ケースワーカー)が行っていた調整経験はありません。このような時、一体どのように調整すればよいのか?真剣に悩んだのです。
 悩んだあげく、ケアマネは、短期入所で待機という結論を導き出しました。
 措置の時代では、確かに短期入所でつなげる。という行為もありました。しかし、これは措置だから続けることもできたのです。かつて漫然と短期入所をさせてはならない。と当局から厳しい指導がありました。でも、在宅では死んでしまう。という現実から、疾患があれば入院と短期入所で繋ぐといった裏技を使ったり、入所待機順番の繰り上げを泣き落とし作戦でお願いするなど、苦労して入所に持ち込んだ訳です。
 このような調整は、ケースワーカーの役割でもあり、このような調整をしている時こそ福祉の仕事をしている実感が味わえる時だったんです。
 しかし、介護保険制度では、短期入所の振り替えを実施しても、いずれ無理が祟って、全額自費になってしまうのです。
 今は以前のような特別養護老人ホーム待機入院も容易にできません。これは、本来の姿なんですが、在宅生活ができない状態であれば、やむを得ない行為だったのです。そして、措置時代の入所待機者数を遙かに上回る待機状況。これは、今年に入って厚生労働省が実態調査に乗り出したくらい大変な伸び率だったのです。
 そもそも、これは、入所併願と、行政側のハードルが無くなったことが原因と私は分析しています。しかし、併願ケースがどのくらいあるのかすら現場では判らないのです。
 そういった中、唯一できることは、ケアマネのできる範囲。つまり、短期入所で待機、それしか解決策が見つからなかったのです。

〜 再び、振り向けばケアマネ 〜
 しかし、このような方法は、いつまでも続きません。14年からは、短期入所も30日を越えて継続利用できなくなります。
 ケアマネとしては、一旦在宅日を入れれば何とかなる。ということで、とても一人で自宅においておくことができない高齢者に、在宅サービスをべったり付ける回避策を考えています。
 それでも無理なら、全額自費の短期入所・・・・。利用者の財力に頼るしかないところまで追いつめられてしまうのです。
 追いつめられたケアマネは、市町村に相談を持ちかけても、「ケアマネ側で解決するように」といった回答しか返ってこない。これは、私が平成11年11月15日に、このコーナーで書いた「振り向けば介護支援専門員」と構図は同じである。
 ケアマネとしては、制度が利用できないだけで利用者負担を無謀な額に上げられない。そういった熱意から、市町村老人福祉担当主管課に「やむを得ない措置はできないのか?」と問えば、「意思判断能力がないということではないので、介護保険制度内で処理するように」といった回答だけであったとぼやいている。
 別のケアマネは、生活保護のケースワーカーですら、介護が必要な高齢者に対して開口一番「ケアマネは決まっていますか?」と言うことがある。と漏らしていた。ケースワークという言葉は?老人福祉法は?平成12年度から消えてしまったのであろうか?・・・と、ぼやきは終わらない。
 処遇に行き詰まった時は、全てケアマネが背負い込まなければならない構図は、日に日に強くなっているのではなかろうか。給付管理をしてナンボのケアマネにしてみれば、事業所からも、行政からも認知されない苦労が何倍にもふくれあがって、何れケアマネが一人もいなくなってしまうと心配しているのは私だけであろうか?
 そんな問題事例は、ケアマネのほとんどは1ケースぐらい抱えている。施設でも1ケースぐらい抱えていると聞く。それだけに、事業所指導で全額自己負担のケースを発見し、状況を聴取しはじめると、逆に「いったいどうすればよいの?」と問われる。私は、そのような問いに対して逃げることはできないのだ。

〜 報われない苦労 〜
 入所サービスを持たないケアマネとしては、入所順位を変えて欲しいと嘆願しても、施設側はみんな同じ言葉である「優先順位の変更は難しい。」という回答が返ってくる。こうなれば、サービス提供拒否を正当化させるために、近隣県まで含めた数え切れない事業所へ受け入れ依頼をしなければならない。これも報酬に結びつかないのだ。
 では、処遇検討をする場である「サービス担当者会議」を開催し、緊急度が認められれば、入所に結びつくかもしれない。しかし、サービス担当者会議は、受け入れ先が決まらないのでは参加を求める事業所すら決められないのだ。措置時代のように、市町村であれば管内の事業所を呼び、ケースカンファレンスも可能だったかもしれない。それだけに、このようなケースは、市町村がイニシアティヴを持つ仕組みにならないかと思うのである。
 そんな苦労をしたあげくの最終手段として、家族に対して月に30万円(短期入所16日分+食費等)近くとなる全額自己負担の選択肢を説明せざるを得なかったケアマネを、私は責めることができない。
 
〜 解決策として 〜
 ケアマネの悩みは尽きないところであるが、決して解決策がないわけではない。
 一つは、「ショートステイ床の特別養護老人ホームへの転換について」(平成12年11月21日老計第46号である。
 この通知は、このようなケースを受け入れる場合、一定の条件下(市町村の介護保険事業計画に不足がある場合等の条件があり、市町村の承認及び都道府県への届け出が必要)であれば介護報酬の減算を受けずに入所扱いができるようになるのである。
 また、以外と忘れられているのが、入院中の空きベッドである。かつての措置時代とは違うのであるから、7日目からそのベッドを使う方法もあろう。しかし、入院中の高齢者が退院した場合、受け入れなければならないのだから、空きベッドを確保しておきたい施設側の姿勢は崩したくない。入院者の了解、退院見込みの見極め、退院した場合の対応策を決めておくことが鍵となるのだ。
 なお、入院中の空きベッドを活用する際に注意しておく必要があることは、厚生省告示二十七号である。
 同告示の七「厚生労働大臣が定める入所者の数の基準及び介護職員等の員数の基準並びに介護福祉施設サービス費の算定方法」のイによれば、指定介護老人福祉施設の月平均の入所者の数が厚生労働大臣が定める入所者の数の基準として、「施行規則第百三十四条の規定に基づき都道府県知事に提出した運営規程に定められている入所定員を超えること(老人福祉法第十条の四第一項第三号又は第十一条第一項第二号の規定による市町村が行った措置又は病院若しくは診療所に入院中の入所者の再入所の時期が見込みより早い時期となったことにより、入所定員を超えることが、やむを得ない場合にあっては入所定員の数に百分の百五を乗じて得た数(入所定員が四十を超える場合にあっては、入所定員に二を加えて得た数)を、当該介護老人福祉施設に併設される指定短期入所生活介護事業所の施設を利用して介護福祉施設サービスを提供することにより、入所定員を超えることが、要介護被保険者の緊急その他の事情を勘案してやむを得ない場合にあっては入所定員の数に百分の百五を乗じて得た数を超えること。)。」としている点である。
 つまり、入院中の入所者の再入所が早まった場合は、入所定員に2を加えた人員まで(40床以上の場合)は、当該施設の入所者にかかる介護報酬が70%に減算されないということである。
 具体的には、平成12年11月21日付け老振第77号 老健第123号連名通知「厚生労働大臣が定める入所者の数の基準及び介護職員等の員数の基準並びに介護福祉施設サービス費の算定方法の一部改正等について」を参考にするとよいだろう。

 いずれにしても入所は昔と違い、短期間でもかまわないのである。自己負担を強いるのであれば、このような調整が図られてもよいのではないか。

 しかしこれらは、被保険者が抱える問題を知らない受け入れ側の調整であって、問題を認識するケアマネが直接解決きるものではない。つまり、ケアマネが他の事業所(別法人の場合も多い)である事業所に対してネゴシエーターとなるしかないのである。
 「待機者の優先順位の変更」や「ベッドの調整」を基準もない中で説明・交渉・調整していくしか手がないのであれば、ケアマネが苦しむだけである。そのようなことのない適切な運用方法を国レベルで検討してもらいたいところである。
 私が考える具体的解決策は、対象者の範囲を定義し、調整対象とするか否かは保険者が最終的に判断することである。この判断に基づき、市町村が直接事業所と調整するか、ケアマネがお墨付きという権力を以て事業所を調整する(当然対価が得られる)ということである。
 
〜 最後に 〜
 現在、市町村などでは平成14年1月からの短期入所30日制限に向け、やむを得ず30日を越える短期入所利用時における回避策が検討されている。
 (例えば、全額自己負担でも同一サービスの種類であった場合、退所の翌日入所した場合などは連続として扱うとしているが、短期入所生活介護と短期入所療養介護は、連続として取扱わないといったこと。)
 しかし、このような回避策を考えるのが本来の解決策ではないと思う。
 本来必要なサービスが利用できないのが問題なのだ。まして、自費で30万円というのは、「どう考えても理不尽である。」と言いたい。
 これは、私だけでなく、担当ケアマネとしても同じだろう。
 今回の事例は、何とか入院中のベッド活用又は短期入所ベッドの転用で事なきを得たが、数限りあるベッドである。いつまでも続くとは限らないのだ。

 このような事例は、局地的な問題ではない。ケアマネの皆さんのほとんどが抱える問題である。それだけに、この話題を取り上げたことによって、様々な反響(反応)が出ることだろう。
 ただ、一言付け加えておきたいのは、これはケアマネをはじめとする民間事業所が悪いのではない。
 このような問題が発生した原因は、介護保険事業計画に基づく施設整備が需要に追いつかないからである。厚生労働省もベッドの転換という解決策を既に出しているが、具体的な運用場面で取り扱い方法が定められていなかったことが、ケアマネの苦悩に結びついたのである。
 そんな犯人探しはさておき、今、困っている人にどう対応するかが一番必要なことである。適切な介護サービスを1日でも受けられない被保険者の苦しみと、解決できない問題を抱えたケアマネの悲しみを直ちに理解することが、解決への最大の近道なのだ。


新しいフレームを開いてトップに戻る   同一フレーム上でトップに戻る 
フレームを開いていないときは、左側をクリックしてください