介護保険関係者だけの短編小説
(小説じゃあないって!)

第四話  市町村職員の悩み
〜主治医の意見書等の情報開示と個人情報〜
(8月11日PM追加分付き)

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

 無断転載を禁止します。

 作:野本史男 
 平成11年8月11日


感想お待ちしております。
小説の題材リクエストもお待ちしております。


fumio@as.airnet.ne.jp


序章

 平成11年8月3日の全国課長会議資料をインターネットからダウンロードしている田中が素っ頓狂な声を上げた。
 「なになに、11年度限定の要介護認定申請書の下欄に同意書があるゾ!介護サービス計画を作成するために・・・・・主治医の意見書を居宅介護支援事業者、居宅サービス事業者又は介護保健施設の関係人に提示することを同意します。だって!?」

 田中は、主治医の意見書等は確かに市町村が徴収するのは理解している。しかし、市町村長宛の文書に対する同意ということは、市町村長に対する同意ということになるので、市町村長が関係機関に情報提供することに同意することになる。そこが理解できない様子である。

脇で印刷書類を整理していた小林が田中のパソコン画面をのぞき込んだ。
「ちょっと印刷して見ようよ」
「そうだね。ちょっと17ページと長いけど、1枚目だから、印刷してからにしよう」

1枚目がプリントアウトできたところで問答が始まった。


申請書の同意書について

田中「この同意書なんだけど、どうして市町村長に同意するんだろう?」

小林「そうね、同意は市町村長に対して行うことなんだから、きっと市町村長が直接介護支援専門員やサービス提供機関へ情報提供することになのでは?」

田中「そういう意味は分かるんだけど、なぜなのかなあ?だって、意見書自体、本人からの開示請求があってはじめて見せられるんでしょ?」

小林「そうね、確かにそういうことになっている。でも、どうしてそんなことに拘るの?」

田中「だって、開示を前提としない同意書と読めるから・・・つまりさ、ここに同意してしまったら、本人に開示せずにその人の個人情報を第三者機関へ情報提供する。その第三者機関も、『本人が指定する機関に対して』という言葉が入っていないから、この同意によって市町村が要介護認定審査で使用した個人情報を介護サービス計画を作成するためであれば、本人に告げずにどこに対してでも情報提供して良い。ということになるんでしょ?これって、白紙委任状を書いているのと同じ意味だと思うんだ。」

小林「あれま!そういうことなのね!?言われてみればその通りに感じる。」

田中「そういうことじゃあ、個人情報保護条例審議会へどう報告して良いか解らない。

小林「確か、条例上では、本人同意があれば良いことになっているけど、本人が自己管理する個人情報という考え方にそぐわないなんて言われたら・・・簡単には審議会通過できないかも!?」

田中「そうそう、小林さんも課題整理が素早くなったね。だから、ギョエ!なんて、奇声ををあげてしまったんだ。」

小林「どうしてそんなことが見てすぐ解るの?」

田中「いやあ、長年のカンってやつかな?」

小林「だてにとし取っていないわね」

田中「まあ・・・3歳年下の小林さんに言われるのも嬉しいやら悲しいやら・・・」

小林「ところで、この場合、どういった考え方になるのかしら?」

田中「資料には明確に書いていないけど、とりあえず、2通りの考え方から分析してみようか。」

小林
「2通りって?」

田中「それはね、11年度は暫定的に市町村が介護支援専門員を指定してサービス提供機関も市町村が調整するという方法。もう一つは、民間契約に基づき受給者が自由に専門員やサービス提供機関を選ぶ方法」

小林「たしか、以前厚生省が話していた方法って、後者じゃなかった?」

田中「確かにそうだけど、混乱を避けるために前者の方法ができても不思議じゃない」

小林「でも、今回の資料には書かれていないみたい・・・」

田中「資料全体を読まなくちゃ解らない。でも、確かに1〜43ページには書かれていないね。でも、参考のために両方の場合について考えて見ようよ」

小林「お願いします!」


二つの考え方

田中「前者の方法について・・・この同意書に署名した場合であっても、基本的には市町村が第三者機関に対して提供する個人情報は、本人に対しても開示すべきだろうね。そのためには、少なくとも『同意する個人情報について、申請者が内容確認を希望する場合、併せて開示請求を行って下さい。』といった内容を並記すべきと思う。更に、第三者機関に対して開示した後、状態が変化して開示した個人情報が誤った情報となった場合、だれが訂正又は削除要求するのか?ということに行き着く。」

小林「うんうん。確かに個人情報保護の視点は、自己訂正権を保証しなければならない・・・」

田中「それで、問題なのは、行政機関が一体どのような情報を誰に対して渡したのか?渡した後は誰が責任を持って管理するのか?ということ。例示すれば、状況変化による情報の訂正はだれが主導的に行うのか?ということが問題となると思うんだ」

小林「解ってきた・・・。つまり、市町村が情報提供や調整を行うんであれば、提供した側が責任を持って情報管理して、最後は受給者に情報提供を行った内容を全て開示して引き継がなければならないということね。」

田中「そのとおりなんだ。だから、『平成11年度に限り本同意に基づき情報提供を市町村が行います。情報提供した個人情報の内容及び提供機関は介護サービス計画を作成後に受給者に対して開示しますので、その後は申請者によって情報管理して下さい。』といった内容を入れなければまずいんじゃないかなあ?」


小林「解ったわ。それじゃあ、もう一つの方法は?」

田中「この場合は、同意書ではなく、開示請求書なんだね。つまり、『介護サービス計画の作成を介護支援事業者に依頼する場合、市町村が保有する受給申請者の要介護認定・要支援認定にかかる調査内容、・・・・及び主治医意見書の情報開示を申し出ます。』とすべきだろうね。」

小林「そうかあ。つまり、本人が情報を持って介護支援事業者やサービス事業者等に提出するということになるのね。そうすれば、情報管理責任は最初から本人となる。ようやくちゃんと理解できたわ」

田中「介護サービス計画を作成する場合、受入調整のために利用しない機関に対しても情報提供する場合がある。その時、利用できなかった機関に提供した個人情報の削除要求と削除義務を課さなければならない。」

小林「なんだか、たった数行の文言であっても、掘り下げて考えるとけっこう課題が出てくるのね。」

田中「そういうことになるね・・・でも、そんなにたくさん課題が転がっている訳じゃあないけど」


主治医の意見書で居宅サービス事業者等は満足できる?

小林「ところで、そんな視点を持つとね、主治医の意見書は、サービス提供機関が満足できる情報と言えるのかしら?って思う・・・」

田中「良いところに目を付けたね」

小林「医師としても、医師の意見書で感染症が無いということを断言するためには相当な検査が必要となる。この意見書で全てが保証されるとなったら、どこまで検査する必要があるのかということになるでしょ?」

田中「さすが!その部分は今後議論が交わされることになるだろうけど、受入事業所側から改めて健康診断を受けるように言われ、事業所毎に詳細な検査を要求されたら、受給者は破産してしまう。そんなことが発生しないよう、願うばかりですね」

小林
「民間契約を前提とすると、責任は受給者と事業者が交わす契約内容で決められることになるから、行政の立ち入れる範囲にも限界があるでしょうから、施行までに十分な調整が必要になるでしょうねえ。」

田中
「受給者側の救済的な視点からも本当に必要なことなんですよ。」


ちょっと待った!(おまけ追加分

田中
「あれれ!?ちょっちょっっと待ったああっ〜」

小林「どうしたの!?」

田中「もう一回目を皿のようにして見ていたら、この様式って、何の根拠もない様式じゃないか!?だって、制省令や要綱、準則のどれにも該当するって書いてないじゃないか!?」

小林「書いていないと言われれば確かに書いてないけど?」

田中「だから、こういった様式が必要なんだと言っているだけ。一字一句そのとおりにしなさいとは書いてない。それに、11年度だけ経過的な措置を行うとは書いていない!と言うことは・・・・だ!

小林「もったいぶっていないで早く言ってよ!」

田中「だって、おまけの小説が数行じゃあつまらないでしょ?」

小林「そんなのどうでも良いの!読者の方に失礼じゃない」

田中「御意!・・・つまりね、要介護認定等で市町村が取得した個人情報を目的外使用するのであれば、個人情報保護の観点から同意書が必要というだけなんだよ。」

小林「それで?」

田中「だから、やはり二とおりの方法があって、本人に代行して市町村が関係機関に個人情報を提供する場合。そしてもう一つは本人が直接手渡すために本人が直接個人情報を取得する場合だ!でも、前者の場合は、結構複雑な条件を付さなければまずいだろうなあ。」

小林「どうして条件が必要なの?」

田中「それは、一言で言うと個人情報は本人開示が原則だから。」

小林「具体的にいうと?」

田中「うん、代行する場合、代行の範囲を明確にしなければいけないし、代行した内容や結果を本人に告知する必要があるから」

小林「で?」

田中「具体的に言うと、『介護サービス計画を作成する際に、居宅介護支援事業者、居宅サービス事業者又は介護保健施設の関係人が私に代行して要介護認定、要支援認定にかかる調査内容、介護認定審査会による判定結果・意見及び主治医意見書の開示請求があったときは、以下の条件に基づきに直接開示してください。
 ○ 開示する機関の名称、所在地及び担当者を文書で明示すること。
 ○ 開示した個人情報の全てを、私若しくは代理人の申し出に対して無条件で開示すること。
 ○ 開示機関に対して、開示後の個人情報の抹消若しくは訂正する権利は私若しくは代理人が保有する。』
くらいの内容を少なくとも付さなければならないだろう。
もう一つは、前々章で言ったように、『介護サービス計画を作成する際に必要ですので、要介護認定、要支援認定にかかる調査内容、介護認定審査会による判定結果・意見及び主治医意見書を開示請求をします。』と書くべきだと思う」

小林「で、どっちが本来の姿なの?」

田中「本来は、後者の直接開示なんだろうね。」

小林「二日間にわたってお疲れさま!」

田中「どういたしまして!」


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