「おーい!ルーファス!」 こんな風にデイル先輩が元気に声を出すときには必ず何かある・・・。 そう思ってルーファスは覚悟を決めてデイルの次の言葉を待った。 「野球やらないか?」 「へ?」「第一話 野球をやろう!」
「野球って、どういうことなんですか、先輩?」 「まあ、これを見なさい、ルーファス」 そう言ってデイルは一枚の紙切れをルーファスの目の前に押しつけた。 「ん?」 そこには「アカデミー対抗!秋の大野球大会」と大きく書かれていた。 「こ、これは・・・?」 「見てわからんのか、ルーファス?」 「野球・・・、大会ですか・・・」 そう言いつつルーファスは大会告知の紙切れの端のほうに、 「優勝したアカデミーには来年度の予算の大幅アップを約束!」 と、書かれていたのに発見した。 (目的はこれか・・・) そうルーファスが気づいた時、 「おにいちゃん!」 と、ハーフキャット族の少女・シンシアが元気に部室に入ってきた。 「おおっ!ちょうどよいところに来てくれたね、シンシア君!」 「ねーねー、いったいなんなの、おにいちゃん」 「え?実はだな・・・」 「あれ、センパイたち?いったい何相談しているの?ボクもまぜてよ!」 今度は赤いショートカットの活発そうな女の子が入ってきた。 1年の部員・ラシェルである。 「ありゃりゃ・・・。なんか収拾付かなくなってきたな・・・」 「ええい、面倒だ!とりあえず部員全員集まってから話すことにするぞ、ルーファス!」 そうデイルが一喝すると、アカデミー1,2を争う好奇心の強さを持つ女の子たちも、 黙るより他はなかった。 「・・・と、まあこういうわけだ。いいか、みんな!」 「はーい」 部室内からわかったようなわからないような気の抜けた返事が聞こえてくる。 「まあ、来年度の予算が大幅アップというのはすごいおいしい話やな」 こう言うのは長身の2年部員・ジョルジュである。 「お前は金のことしか考えられないのか?全く・・・」 人狼族の2年部員・マックスが言う。 「別にええやろ。お前だって、『特訓だぁ!』『修行だぁ!』ばっかりやないか」 「こら!そこの1人と1匹!俺の魔法の実験体になりたいようだな・・・」 「うひぃ!堪忍してやぁ・・・」 「あのぉ・・・」 「何だい?セシル」 セシルと呼ばれた女の子と見間違うようなエルフの少年の1年部員が ルーファスに向かってこう言った。 「ボク、実は地元の方にいたとき、ソフトボールのピッチャー をやっていたんですけど・・・」 「おおっ!これでピッチャーのポジションは決まりだな、ルーファス!」 「勝手に話を進めさせないでくださいよぉ、デイル先輩・・・」 「とりあえず、野郎どもはいいとして、女の子たちがどうなのかが問題だとは 思うんだが・・・」 「そうですね、先輩・・・」 「シンシアね、むかしおにいちゃんとよくやきゅうやっていたからだいじょうぶだよ」 「ボクも好きでよく野球やっていたから心配はないです!」 「シンシア・ラシェルはOKか・・・」 「とにかくとっとと話終わらせてくれないか?」 「ジャネット?」 ルーファスは部室の隅で足を組んで座っているポニーテールの2年部員・ジャネットに の顔を見た。 「ジャネット、お前は大会の参加に反対なのか?」 「別にそういうわけじゃねえよ」 「じゃ、何かね、ジャネット君?」 「やるんならとっとと話終わらせて練習とか何とかしたらどうなんだ? 俺はこういう風にぐずぐずしているのが嫌いなんだ!」 「わかったジャネット。他の女の子たちの意見を今聞くからな・・・」 そう言ってルーファスは、まだ返事を聞いていない2人の女子部員の方に目を向けた。 「わ、私・・・。が、頑張ってみます!」 と、眼鏡をかけた2年部員・ミュリエルが答えれば、 「よくわかりませんが、神の御心にかなうというのであれば・・・」 と、セミロングの2年部員・システィナも続いた。 「よし、どうやらみんな大丈夫みたいだな・・・」 「そうと決まれば早速練習するぞ、ルーファス!」 「ええっ?デイル先輩・・・」 「私に逆らうつもりかね、ルーファス・・・」 こうなるとルーファスも黙って首を縦に振るしかなかった・・・。 「うひぃ・・・。もう駄目やぁ・・・」 「だらしないなぁ、ジョルジュ」 「お前みたいな体力バカと一緒にされてはたまらんわ、マックス・・・」 「ほぉら!もいっちょいくぞぉ!そこの1人と1匹!」 「そんなぁ・・・」 デイルがジョルジュとマックスをしごいている間ルーファスはというと・・・。 ズバン! 「よぉし!いいぞ、セシル!」 「そ、そうですか、センパイ」 セシルのピッチング練習の相手をしていた。 「それにしてもこんなに変化球も使えるとはな・・・」 「一応野球のアンダースローの練習もやっていたんです」 「なるほどね・・・。そういえば・・・」 ルーファスはグラウンドの隅で野球の入門書を読んでいるミュリエルと システィナに目をやった。 「おーい!だいたい野球のことについてはわかったか?」 「はい!一字一句違わずに暗記しました!」 「まだよくわかりませんが、きっと神がなんとかしてくださるでしょう」 「・・・。おーい!シンシア、ラシェル!」 「なあに、おにいちゃん?」 「どうしたんですか、センパイ?」 ルーファスはキャッチボールをしていた2人を呼び寄せると、 「システィナとミュリエルのキャッチボールの相手をしてくれないか?」 と、2人に指示を与えた。 「さてと・・・。おーい!ジャネット!」 「なんだよ、ルーファス・・・」 ジャネットは素振りをやめて、バットを肩にかけた。 「素振りばっかやっていないで、少しは他の練習もやったらどうなんだ?」 「いいだろ、別に。ちゃんと練習はやっているんだ。文句は言わせないぜ」 (・・・。まいったなぁ・・・) そんなこんなで数時間後、練習はようやく終わりを告げた・・・。 「うわぁ・・・。ボク本当に疲れちゃったよ・・・」 「シンシアもうくたくた・・・」 部員全員が疲れ切って部室に戻ってきた。 「そんなときには、ほい、これだ」 デイルはいかにも怪しげな小瓶を服の中から取り出した。 「これがこの天才が開発した疲労回復剤『ツカレナイン』だ!」 そう言うや否や、デイルは小瓶から錠剤を一粒取り出して、むりやり マックスの口の中に放り込んだ。 「うわっ・・・。何をするんですか、せんぱ・・・、ん?」 マックスは自分の体に蓄積していた疲労が一気に抜けていくのを感じた。 「ふふふ・・・。効果覿面だろう、マックス君・・・」 「ともかく大丈夫なら分けてくださいなぁ、先輩・・・。」 「よし、全員に配るぞ!」 しかし、大会が終わってから数日後、何故かアカデミー全員に 謎の筋肉痛が蔓延したという・・・。 翌日・・・。 「これから打順とポジションを発表する!黒板に注目しろ!」 デイルは黒板にそれを書き始めた。そして・・・。 1番 ショート シンシア 「わぁい!いちばんだぁ!」 2番 セカンド ミュリエル 「わ、私が2番なんですか?」 3番 レフト ラシェル 「よぉし!ボク頑張るよ!」 4番 キャッチャー ルーファス 「うううううん、責任重大だなぁ・・・」 5番 ファースト ジョルジュ 「やっぱ1塁はタッパのあるやつのポジションやな」 6番 センター マックス 「よぉし!燃えるぜ!」 7番 サード ジャネット 「ふうぅん・・・」 8番 ライト システィナ 「神のご加護がありますように・・・」 9番 ピッチャー セシル 「頑張ります!」 同じ頃、生徒会室では・・・。 「会長!ウイザーズアカデミーがエントリーしてきました!」 「案ずるな。そんなことぐらい既に予想はできている・・・」 「で、でも・・・」 「ふっ。逆にアカデミーをつぶすいい口実ができるというものよ・・・」 会長の眼鏡が怪しく光った。 (第一話 完)
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