第四話 「恐るべき次に向けて」


      「ストライク!バッターアウト!」      セシルはほっとした表情で汗を拭った。      それと同時にグラウンドにいたアカデミーの面々が駆け寄ってくる。      「よくやったな、セシル!」      「なかなかやるな、セシル」      皆の歓迎の言葉にセシルも思わず顔を綻ばせる。      「見事だ、セシル君」      デイルもマウンドに来たようである。      「今日の試合はいろいろあったが勝ててまぁよしとしよう。     が、問題は次の試合からだ」      デイルはこういった後、サングラスに手を当てながらこう続けた。      「次以降は今日の試合以上に厳しい戦いが待っていることは想像できる。     これについていろいろと策を練らないといけないだろう」      「策とは?」      マスクを脇に抱えながらルーファスが尋ねる。      「まずは部室に戻ろう。ここでは生徒会長とかがうるさいからな」      Wアカデミーの部員達はデイルの言葉通り荷物をまとめるとすぐに     グラウンドを後にすることとなった。      全員とも部室に戻ってくると、改めてデイルは壇上に立って席に着いている     部員たちに今後の策を語り始めるのであった。      「まずはだな、セシル」      「なんでしょうか・・・」      タオルで額を拭きながらセシルは静かに尋ねる。      「率直に言おう。ピッチングスタイルを変えろ。     このままではこれからの戦いを切り抜けられない。」      「どうしてですか、先輩?」      こう席から身を乗り出して叫んだのはルーファスである。      「セシルは今日の試合で三振の山を築いて見事に完封したじゃないですか?」      「そうだ。それがまずいんだよ」      「?」      ルーファスは首を傾げる。セシルもやはり同じように首を傾げてしまう。      「いいか、セシルのこの体格で三振を取らせるピッチングは     ちょっと酷かと思わないのか、ルーファス?」      デイルのこの言葉にルーファスは思わず「あっ!」と声を揚げた。      「なるほど・・・。セシル一人しか投手がいない状況で肩を浪費させる     ピッチングはさせられませんね・・・」      「『セシル一人』というところにも問題があるのだが・・・、     まあ、これは後に回すとして・・・、セシル」      「え、何でしょう?」      「お前、打たせて取るピッチングに切り替えろ。クサいところに     正確に投げられるコントロールを持つお前にはそっちの方が向いている」      「は、はあ・・・」      セシルは納得いったような、いかないようなはっきりしない返事をする。      「はっきり言ってお前の細腕から繰り出される程度の球威じゃ     これからは力負けするだけだ。     それよりも正確なコントロールと豊富な変化球を十二分に発揮できる     かわすのを主体にしたピッチングに切り替えるべきだ」      デイルのまるでいきなり実験に連れ込むような厳しい表情に、     セシルはただ頷くしかなかった。      「そうそう、ルーファス」      「へ?」      意表を突かれたかルーファスは気のない返事をする。      「このことはセシル一人の問題ではない。と、言うより     キャッチャーのお前が一番心がけていないと行けない問題だ。     しっかりセシルをリードするんだぞ!」      「は、はい!」      「さてと・・・」      デイルは目の向きをルーファスとセシルから変えた。      「もう一つ問題があるんだな、これが・・・」      「あ、あのお・・・。何でしょうか・・・」      ミュリエルが恐る恐るデイルに質問する。      「さっき言っていたことだ」      「さっき、ですか?」      「そう」      そう言うとデイルはサングラスに手をやった。      「ピッチャーだよ。さっきも言ったとおり『セシル一人』の状況では     心許ない」      「そうですか、先輩?」      マックスがすかさず異を唱えてきた。      「確かにあーだこーだ言ってきたがセシルの実力は相当なものだ。     が、セシルの細腕一本にこれからの試合を全て任せるのは非常に酷だ。     そこでセシルと交互に投げさせられる実力のあるピッチャーが     どうしても必要なんだが・・・」      デイルはそういうと部室内を見渡した。      (ううううん・・・)      デイルが人選に頭を悩ませ始めたときであった。      ガタッ!      「オレにやらせてくれないか?」      「ええっ!」      部室内にいた誰もが驚きの声を揚げた。      返事の主がジャネットであったからだ。      そんな中、一人冷静にジャネットの立ち上がった姿を見ていたデイルは     こう言うのであった。      「よし、さっそくどれほどのものか見てやろう・・・」      部室のある校舎の隅にWアカデミーの部員達は移動してきた。      目的はもちろんジャネットの投手としての力量を見極めるためである。      ミットを手にはめたルーファスが壁を背にしゃがみ、捕球の準備をする。      ジャネットも手にグラブをはめ、ボールを握って足で乱雑に地面を踏みならして     投球の準備をする。      「ん、サウスポーか?」      それに気付いたのはデイルだった。      「ああ。投げるときはこっちでやるんだ」      ジャネットはそう答えるとゆっくりと投球モーションに入った。            ズバン!      ルーファスのミットに剛速球が投げ込まれた。      「おおっ!」      皆々がそう感嘆の声を揚げる中、デイルは冷静に「続けろ」とジャネットに指示を送る。            ズバン!      「おおぉ・・・」      やはり感嘆の声が漏れる中、今度もデイルは「続けろ」とクールに言う。      こうしてジャネットは十数球ほど投げて見せたのだった。      「ほほぉ・・・。男でもこんなに速お球は投げられんで」      ジョルジュが感心した様子で言う。      「文句ないんじゃないんですか、先輩」      ルーファスがミットをはずしながらデイルに尋ねる。      「ちょっとコントロールに難があるな・・・」      あくまでデイルは冷静である。      「何だと!」      ジャネットはキッとデイルをにらむ。      「落ち着け。これはいい意味でのコントロールのなさ・・・、     打者に的を絞らせない荒れ球だ、ジャネット」      「ん?んんん・・・」      そう言われてジャネットは顎に手を当てて考え込んでしまった・・・。      「まあ、そう複雑な態度をとるな。お前のタマは十二分に通用する。     それにお前のピッチングスタイルはチームにとって本当に有益だ」      「んんん・・・」      ますますジャネットは考え込んでしまう。      「いいか、軟投派で右腕のセシル、速球派で左腕のお前。     タイプ的に全く違うじゃないか!」      「そうか!」      疑問が解決して、ジャネットはポンと手をたたいた。      「さて、ちょっとセシル君に聞きたいことがあるのだけど・・・」      「な、何でしょう・・・」      セシルは話の矛先を変えられたせいか戸惑いの表情を見せる。      「お前、サードはできるよな?」      「は、はい・・・」      「問題ないみたいだな・・・。よし!」      「もしや先輩・・・」      マックスが恐る恐る尋ねる。      「次の試合はジャネット、お前に任せた!」      「望むところだ!」      ジャネットは大声でデイルの要望に応えた。      その直後である。      「あ、ここですか!もう・・・」      いきなり校舎の陰から一人の生徒が姿を現した。      「あのう、あなたは何のご用で・・・」      システィナがその生徒に声をかける。      「生徒会のものです。次の二回戦の抽選のために連絡をしにきたのですが・・・・」      「そうか。ルーファス、行って来い!」      「わかりました!」      ルーファスは生徒会の者に連れられて校舎の陰に消えていった。      「ねえねえ、これからどうするの?」      「そうだな・・・。せっかく校舎から出たんだ。特訓だ!」      「ええっ!」      結局部員達はこの日もデイルにしぼられることになった。     「ぐはぁっ、なんでこんな日までキツい思いせなアカンの・・・」     「ボクも本当に疲れたよ・・・」     部員達が部室内で愚痴をこぼしながら疲れをいやしている。     そんな中突如、     ガララッ!     と、勢い良く部室のドアが開けられた。     「あ、おにいちゃんだ!」     「どうでしたか、ルーファス先輩?」     「・・・」     「あ、あのぉ・・・」     「・・・」     「だからくじ引きの結果はどうなんだ、ルーファス!」     「・・・」     「ああっ、はっきり言えよ、ルーファス!」     ジャネットは思わずルーファスの胸ぐらをつかんだ。     すると、ようやくルーファスは声をかすかに発するのであった。     「最悪だ・・・」     「最悪ってなんでしょうか・・・」     ミュリエルがルーファスに尋ねる。     「次の相手は・・・」     「そうか、それがとんでもないところなんですね、先輩」     「とんでもないところの騒ぎではないよ・・・」     「じゃあ、いったいどこなの?早く言ってよ、先輩!」     ラシェルがルーファスの服を掴んでせかす。     ようやくルーファスは次の相手の名前を答えるのであった。     「なにぃ!」     誰もが驚きの声と表情を同時に見せるのであった。     「さてと・・・。これ以上はない相手をぶつけたよ、Wアカデミーの諸君」     「会長、そこまでやらなくても・・・」     「いいや、バックにあのデイル・マースがいる限り少しも油断はできない・・・」     「本気ですね・・・」     「うちの学園最強の野球集団、ベースボールアカデミーにどう立ち向かうかね、     Wアカデミーの諸君・・・」          (第四話 完)
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