第三話 「新たなるモノ」


              「ウェンディ?」       俊作たちは立ち上がってほこりを落としているウェンディを見つめる。       「いたた・・・」       「大丈夫、ウェンディちゃん?」       「大丈夫です、カレンさん。ところで・・・」       ウェンディは買い物袋を抱えている見慣れぬ二人・・・俊作とフィリーをじっと      見つめる。       「え、どうしたの?」       「なんか気味悪いわよ・・・」       「ごめんね、この娘とても人見知りが激しくて・・・」       カレンがウェンディのフォローをする。       「あのう・・・、カレンさん、そちらの方々は?」       「ええっとね・・・」       「俺は俊作。隣にいるちっこいのがフィリーってヤツだ」       「ちっこいとはレディーに向かって失礼よ!」       フィリーが俊作にくってかかる。       そんなやりとりをウェンディは怪訝そうにただ見つめている。       「あ、ウェンディちゃん。私達はそろそろ行くわね。いろいろと用があるから・・・」       「用って、用って何でしょうか・・・?」       「ううううん、話すとかなり長くなるのよね・・・。それなら私の家に寄っていかない?      その道すがらで話すから、ね?」       「は、はい。そうします」       「じゃあこの荷物持ってくれない?」       「目ざといなあ、カレン・・・」       「なんか言った、俊作クン?」       「い、いえ・・・」       こうしてウェンディもカレンの家に行く一行に加わったのであった。       「・・・て、ことなの。わかったかしら?」       「は、はあ、そうなんですか・・・」       ウェンディはカレンからどうして俊作たちに会ったのか、      俊作がこの世界に迷い込んだこと、      俊作の旅につきあうためにカレンも手伝うことになったことと      途中で俊作自身の補足も加えながらウェンディに説明した。       「で、しばらくこの街を離れることになるのですか?」       ウェンディがカレンに悲しそうな表情で尋ねる。       「まあ、そういうことにはなりそうね。少なく見積もっても10日ほどは・・・」       「ええっ!」       これまで静かにしていただけだったウェンディが驚きの声を揚げた。       「う、ウェンディちゃん・・・」       「そんな・・・。そんなに長く一人で過ごさないといけないのですか、私・・・」       ウェンディは今にも泣きそうな顔になる。       「まあまあ、それくらいはガマンしてね・・・」       「私にとってはそれくらいではすまない時間ですよ・・・」       「あのう・・・」       そう問いかけてきたのは俊作であった。       「何、俊作クン?」       「カレンとウェンディ、どういうことか説明してくれない?」       「あたしもそれは気になるわ・・・」       フィリーも俊作に続く。       「ううううん・・・。はい、わかったわ。      もうすぐ私の家に着くからお茶でも飲みながら説明することにするわよ・・・」       一行はカレンの家に戻ってくると部屋の隅に買ってきた荷物ともともとテーブルの上にあった      荷物を部屋の隅に一旦片づけて、テーブルについた。       「ロクサーヌ、留守番ありがとうね」       「いやいや、カレンさんのおいしいお茶が飲めるのだったらこれくらいは      お安い御用ですよ・・・」       「さてと、カレンにウェンディ。話してくれないか、さっきのこと・・・」       「わかったわ・・・」       カレンはカップにお茶を注ぎながら語り始めた。       「ええっとね、ウェンディちゃんはもともと一人でこの街に住んでいたの、      身寄りがなかったせいでね・・・」       「私、ひとりぼっちでした・・・」       「で、たまたまある食堂に入ったときに給仕のアルバイトをしているウェンディちゃん      に会ったのよね」       「その時でした。始めてカレンさんに会ったのは・・・」       「そこの料理がとてもおいしかったのでちょっと教えてもらおうかと思って、      店員さんに声をかけてみたら・・・。その料理を作ったというのがウェンディちゃん      だったのよ・・・」       「とてもうれしかったです。あのときは・・・」       「それがきっかけだったわね、知り合ったのは・・・      それから彼女を見ているとなんかほっとけなくて・・・      それでこう付き合いが続いているのよ・・・」       「なるほどね・・・」       俊作はずずっとお茶をすすった。       「なんかね、見てて分かるわ、そういうの・・・」       フィリーもこれに頷く。       「ところで・・・」       カレンはカップをテーブルに置く。       「何でしょうか、カレンさん?」       「ガマンできるよね、しばらく・・・」       「そ、それは・・・」       ウェンディはうつむいてしまった。       「まったく、子供じゃないんだからそれぐらいのことでわがまま言わないの!」       フィリーがきつい口調でウェンディに言う。       「でも、いつでもこんな私に優しくしてくれるカレンさんがいないんじゃ、私・・・」       「ううむ・・・」       俊作はどうしようもなくてまたお茶をすすってしまう。       「とは言ってもねぇ、まさかこの旅にあなたをつきあわせるわけにはいかないし・・・」       「私・・・、私!」       ウェンディはいきなりテーブルにドンと手をついて立ち上がる。       「な、何なの、ウェンディちゃん?」       カレンは慌ててお茶をこぼしてしまう。       「私、一人でこの街にいるくらいならカレンさんについていきたいです!      お願いします、カレンさん!」       「ウェンディちゃん・・・」       興奮するウェンディをなだめるかのように、カレンはその問いにこう答えるのであった。       「いい、はっきり言って旅は生やさしいモノじゃないわよ。命そのものが      関わってくるのよ・・・」       「それでもかまいません。どうせ私の命なんて・・・」       「ウェンディちゃん!」       カレンは初めて怒りの表情を露わにした。       「そんなに自虐的になっちゃダメっていつも言っているでしょうが!」       「ご、ごめんなさい、カレンさん・・・」       ウェンディはまた泣きそうな顔に戻った。       「で、でも・・・。私・・・」       「でもって?」       「私、ただ単に寂しいだけで旅に行きたいと言ったつもりはないんです・・・」       「どういうこと?」       カレンはウェンディに尋ねる。       「私、本当にいつも一人でいるくせに、一人では何もできない・・・      そんな自分がいやでいやで・・・。だから旅に出てそういった自分を少しでも      鍛えてみたい・・・。そう思ったんです。それと・・・」       「それと?」       「一緒に旅にでて手伝おうとまでするまでしようとするほどカレンさんが熱心な      俊作さんに・・・。ちょっと興味を引かれたんです・・・」       (ポロロン)       「恋というものですか?」       「ろ、ロクサーヌ?」       「そ、そういうことでは・・・」       ロクサーヌのストレートなつっこみにウェンディと俊作は慌てふためく。       「わかったわ。とりあえず10日ほどならつきあわせてもまあ、大丈夫かとは思うけど・・・」       そうカレンが頷こうとしたときである。       ガラン!       「わ、何だ!」       俊作はいきなりの大きな音にカップを滑り落としてしまった。       ガシャン!       カップは床に落ちて砕け散ってしまった。       「あーあ・・・」       フィリーがジト目で俊作を見つめる。       「で、でも今のは・・・。そ、そういえばさっきのでかい音は?」       俊作は必死に話を変えようとする。       「多分メイちゃんでしょ・・・」       「さすがはカレンさんですね!正解ですよ!」       いきなりそう言ったのは大きな長剣を脇に抱えて現れたメイヤーであった。       「め、メイヤーか。やっぱり・・・。ところでその剣は?」       俊作はメイヤーの持つ長剣に指を指す。       「これですか。実はさっき俊作さんの様子とロクサーヌさんの話が      気になりましてね・・・。なんか思い当たるものがうちに転がっていたのを思い出しまして      急いで家まで取りに行っていたのですよ!」       メイヤーはそう言うと長剣を俊作に手渡した。       「ん?」       手渡されたそれは柄に不思議な装飾が施されている実に見事な剣であった。       「かなりの名剣ですね、これは・・・」       ロクサーヌはのぞき込みながら言う。       「ちょっと抜いてみたらどうかな、俊作クン?」       「あ、危ないんじゃ・・・」       「それくらい大丈夫よ、ウェンディ」       「じゃあ・・・」       俊作は剣を持ち直して鞘から刀身を露わにした。       「う、うわあっ・・・」       その場にいた全員が刃からの眩しい輝きに目をくらませた。       しばらく経ち、やっと光はおさまった。       「な、何だったの、今のは?」       「す、すばらしい!すばらしいです!」       今度はメイヤーが目を輝かせ始めた。       「ど、どういうことか説明してよ、メイヤー!」       フィリーはメイヤーにくってかかる。       それに対してメイヤー眼鏡に手をかけてこう答えた。       「これはですね、まずこのことから言いましょう。      この剣は今まで鞘から抜かれたことはなかったのです」       「ええっ!」       ロクサーヌを除く全員が驚きの声を揚げる。       「実はこの剣とある遺跡で発掘作業に加わっていたとき、      発見されたのですが誰も鞘を抜けなかったみたいなんですよね。      たまたまその時無骨者が多かったせいか『これではいらないな』      と言ってきたので『では私がもらいましょう』ということになったのです」       「ははあ・・・」       俊作はただ頷くばかりである。       「で、なんとかしてこの剣についての謎を解き明かしたいと      私、いろいろと調べてきましたよ。で、こんなことがわかりました」       「どういうことかしら?」       カレンが質問する。       「この剣の名前は『イルムザーンの剣』といいまして、      文献によるとこの世界で作られたものではないそうです」       「この世界ではない?」       「そうです。しかもこの剣を自由にできるのはこの世界ではない人間・・・      そう、まさしく俊作さんあなたじゃないですか!」       「そうか!」       俊作は改めてイルムザーンの剣を見つめ直した。       「でも、こうやって見ると見事とはいえるけど、特別珍しいデザインにも見えないし、      材質もとくに変わったところは見受けられないけど・・・」       カレンが冷静に剣を分析する。       「だから私もこうして手に入れることが出来たのですよ。      だから調べるのにも本当に骨が折れましたよ・・・」       「は、はあ・・・」       ウェンディはこういった知識に乏しいのかため息をつくばかりである。       「ところで、こういうこと以外にもこの剣については      いろんな秘密があるのですが・・・」       「もしかして、長くなる、その話?」       「いやいや、序章だけでざっと3時間程度のものですよ」       「遠慮するわ、メイヤー・・・」       そして翌日の朝を迎えた。       俊作達は街の北東にある門で開門を待っていた。       「みんな、今のうちに準備が整っているかどうか確認しなさい!」       「だ、大丈夫です・・・」       「準備OKですよ!」       「で、メイヤーもここにいるんだ?」       「何々、あなたにはいろいろと興味があるし、イルムザーンの剣を      あなたに預けた以上、その剣がどんな力を発揮するか見届けたいですからね」       「はいはい・・・」       「あ、門が開くわよ!」       フィリーが指さした先には門がガシャンと開こうとしていた。       「よし、出発よ!」       カレンのかけ声で俊作・メイヤー・ウェンディ・フィリーは街の外に歩き始めた。       「ところでロクサーヌのヤツはどうしたんだ?」       ロクサーヌは俊作やフィリーと一緒にカレンの家に泊まったのだが、       今朝から姿を見せないのであった。       「さあ・・・」       「あいつっていつも神出鬼没なのよね。ぱっと姿を見せたり、      ぱっと姿を消したり・・・。いつものことなのよ・・・」       「そういうものなのか、フィリー?」       「そういうものなの・・・」       そんなこんなで話しているうちに、一行は街が見えなくなるような所まで      歩き出していった・・・。       「あの方角はガミルの洞窟・・・」       門の陰で俊作達一行を見送っていた者がいた。       黒ずくめの服装で、銀色の長髪が特徴的だが何よりも目立っていたのは      とんがって長い耳であった。       「まさかあいつら・・・。いや、ただの人間だしな・・・」       (でもどこか気になる。俺のカンがそうさせるのか?)       黒装束の男はマントをひるがえした。       (まあ、いい。とりあえずはさっさとガミルの洞窟に行って用を済ませばいい・・・      面倒になったら始末すればいいことだ・・・)       黒装束の男はふっと姿を消してしまうのであった。              (第3話 完)       
     あとがきへ 小説インデックスへ 修羅場アワーへ エターナルぱらだいすへ