第一話 「出会いは偶然から」


     俺の名前は古川昌太郎。この春きらめき高校に入学することになった新高校生だ。     とりあえず第一希望だったこの高校に無事入学することができてほっとしているところだ。     ええっと、俺のクラスはっと・・・。     「よう!ショータ!ここにいたのかよ!」     「おおっ、ヒロじゃないか!」      この「ヒロ」というやつは幼稚園の頃からの俺の親友・・・悪友か?     坂井広人だ。     「俺はA組だぜ」     「ええっと、俺はっと・・・」     「おまえもA組だぜ」     「なんだよ。これでおまえと何年一緒のクラスなんだ?」     「さあな。数えるのも面倒だし・・・」     「ともかく、そろそろ講堂に行かないか?」     「そうっすか」          「ふうん・・・。やっぱりおまえは家の跡を継ぐのか・・・」     「そうだ。だから高校を出たら料理の専門学校に行くつもりさ」      ヒロの家はショッピング街にある洋食屋・「夢見亭」をやっている。     きらめき市だけでなく、市外からも客がたくさん駆け付けるほど評判がいい店で、     テレビや雑誌の取材も何度か受けたこともある。     「と、なると、おまえとの腐れ縁もこの高校までということになるんだな・・・」     「そういうことになるな・・・。で、おまえは将来どうするつもりなんだ?」     「ううん、俺は・・・」      考えていなかったな・・・。具体的な進路なんて・・・。     「あのお・・・。すいません・・・」      ヒロからの難問に頭を悩ませているところに誰かが俺にまた質問をけしかけてきた。     「B組はどこに並べばいいのですか?入学式のしおりを家に忘れてきたもので・・・」      そう言葉を続けてきた質問をしてきた主を俺はちらっと見てみることにした。     背はそれほど高くもないが、肌は浅黒くがっちりとした体格である。     丁寧な言葉遣いが似合わない風貌の男である。     「ううん、俺らはA組だから、そのとなりに並べばいいんじゃないかな?」     「そうですか。すいません。」     「折角だ。途中まで俺らと一緒に行こうぜ」     ヒロのやつがそう言うと、この浅黒男はこくりと頷き、俺たちと一緒に     講堂に行くことになった。     「そういや名前は?」     「あたけ・・・、安宅行夫」     「俺は古川昌太郎」     「俺は坂井広人だ。これからよろしくな」     「どうも・・・」      途中までお互い適当にしゃべりながら行くうちに講堂にたどり着き、     安宅と分かれることになった。     「それじゃあ、これからも友達としてたのむな」     「ああ」     「とくに教科書とか忘れた時なんか・・・」     「おい!ヒロ」     「あはは・・・。それでは・・・」             講堂での理事長や校長、来賓の人たちの長い話も終わり、     俺はヒロと一緒に「1−A」の教室に向かうことになった。      教室に着いて座席表に従って席に着くことにする。     まだ最初のHRまで時間があるようだ。     とりあえずヒロの席に行って何とはなしにしゃべり合うことにした。     「ふうん、そうなのか・・・」     「そう、そういうこと」      俺が意味もないおしゃべりをヒロと続けている時であった。     「よう!」      いきなり間の抜けたような明るい声が俺たちのしゃべりを遮った。     「ん?」     「は?」     「いきなりすまないな。俺の名前は早乙女好雄って、言うんだけどお前らの名前は?」     「え?古川昌太郎だが・・・」     「俺は坂井広人だけど・・・」     「そうか。チェックとチェックと・・・。これからもクラスメイトとしてよろしくな!」     「う、うん・・・」     「あ、ああ・・・」      早乙女はすぐに俺たちの前から姿を消してしまった。     「なんだ、今のは・・・」     「ううん・・・。おい、ショータ!あの早乙女ってやつ、今度はあそこの女子に      話しかけているぜ」     「あ、ほんとだ。なんか普通じゃないな、あいつ・・・」      が、「普通じゃない」クラスメイトはこれだけに止まらなかった。     このきらめき高校の理事長の孫だというキザ男、伊集院レイ。     誰もが見てもはっとするような美人、藤崎詩織。     そういえば妙におどおどしていた高見公人というやつも気になったな。     ともかく、平凡なクラスではないことは確かなようだ・・・。     「なんかすごいクラスに入っちまったようだな・・・」     「ああ・・・」     HRも終わり、俺はヒロと一緒に下校することになった。     「これからどうしようか?」     「そうだな・・・」     ドン!     「おっとっと!」     「きゃあ!」     バタッ!     いきなり俺は誰かとぶつかってしまい、廊下に尻餅をつくことになってしまった。     「つつと・・・」     「ん・・・、あ、ご、ごめんなさい!」      いきなりの黄色い声にはっとして、俺はぶつかった相手を見ることにした。     眼鏡をかけた色白の女生徒で、おさげのようにリボンでまとめた髪が妙に印象的だ。     「いや、こっちも不注意だったから・・・」     「本当にすみません!」      こちらの言葉にも関わらず、その女生徒は謝り続ける。     「そんなに謝らなくても・・・」     「そうだよ。すべてこのデカ男のせいなんだから」     「おい!ヒロ!ん?」      ふと足元を見ると本が何冊か散らばっている。どうやらこの女生徒の物らしい。     女生徒も本の惨状に気づいたらしく、起きあがるとすぐにかがみ込んで     本を拾い集めた。     「俺も拾うよ」      俺はそう言うとその女生徒を手伝うことにした。     「それじゃあ俺も・・・」      ヒロも手伝おうとしたが、     「あ、お気持ちはうれしいのですが、もう・・・」      よく見ると廊下に散らばっていた本はすべてきれいになくなっていた。     「お二方、大変ありがとうございました」     「いやいや」     「なあに、すべてこいつのせいなんだからそんなに気にしなくても・・・」     「おい!ヒロ!」     「くすくす・・・」      固い表情をしていた女生徒の顔がようやくほころんだ。     「お二人とも仲がよいのですね」     「そうかな?」     「こいつなんかと?」     「おい!ヒロ!」     「くすくす・・・。あのお、お名前を教えてほしいのですが・・・」     「俺は1年A組の坂井広人」     「俺は古川昌太郎。こいつとクラスは同じだ。君の名前は?」     「私は1年B組の如月未緒と言います。それでは機会があったらまたお会いしましょう」      そう言うと如月さんは本を両手に抱えて廊下の奥に消えてしまった。     「小柄でかわいい娘だったな・・・」     「お前みたいなデカ男にかかればどんな娘も小柄になると思うけどな・・・」     「ううん、確かにそうかもしれんな・・・って、おい!」     「ま、そんなことよりこれからどうしようか・・・」     「そうだな・・・」      この場はここで終わってしまったが、こんな小さな出会いが俺の高校生活にとって     とてつもなく大きなものになるとはこの時点ではまだ俺にはわからなかった・・・。     (第一話 完) 
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