アンドレアス・ユングヴィルト訪問記録
日時:2000年5月5日(金) 14:30〜16:10(現地時間)
場所:アンドレアス・ユングヴィルト氏(以下AJ)の工房
<於:レオポルズドルフ(ウィーン近郊)>
面談者:先方:AJ氏、弟子の兄ちゃん
当方:Volker氏、奥田安智氏
1.プロフィール
当初、パイプオルガン修理職人としてキャリアをスタート。その関係で徐々にピリオド系楽器の修理に携わるようになる。その過程でナチュラルホルンの修理、コピー製作を開始。
往年の銘器・ウールマンのコピーを製作したころから、徐々にウインナホルン製作者としても評判が広がりつつある。氏自身もウインナホルンを勉強したが、上記のような特殊な経歴から演奏家として「師事した」教師というものは存在しない。
ウィーン市内にて7年間開業、当地に移転後8年経過しているが、近々ウィーンから1時間の北西部に工房を移転の予定である。
2.主要顧客
ウィーン市内のAJ製ウインナホルン使用者は約20名。ナチュラルホルンは、独・墺、古楽器演奏の盛んな蘭・ベルギー、そして「勿論イングランド」から数多くの注文を受けている。
昨年の日本宛総輸出台数は5〜6本(しってるよ)。来月からは山野楽器に卸す事になっている(おいおい4月には卸してる筈じゃないの?)
他の楽器(TP、TUBA)には手が回らないので、取り扱っていない。
3.ウィンナホルンについて
基本的にベルはウールマンのコピーである(トランペット型細ベル)。現在、別途、エンゲルのベル形状と同じものを開発中。イチョウ取りベルの特質を生かすためワンピースベルが基本。たまたま製作中の半完成品は特注のベルカットで、ベルの取り方も異なっていた(呼び方知らん)。
部品もすべて、自前で工房内で製作している。尚、余談だが、開業当時、黄銅を1.5トン単位でしか売らないといわれ大変苦労したそうである。(現在は自分用のメタルを特注出来るまでに信用力がついたとか)
製作工程は、すべて手作業で、成形は木槌、ハンマー、絞り型等の道具によって行われている。
尚、サンプルを試奏した感想については、「全音域にわたって吹奏感が良く」「輪郭のはっきりした、しっかりとした音が出る」「ヤマハ、AH同様、時代の要請が産んだ新しいウインナ」というところである。
今迄の情報から、「非常に抵抗感のある、フィジカル的に難しい楽器」という先入観は払拭されたが、演奏し易いだけ、逆にウインナらしさを残して行くという面では、ヤマハ同様、吹き手に依存する部分が大きいのではないか、との感を強く持った。
4.ボーゲン
メタルの肉厚は0.35mm及び0.5mmの2種類を使用。最近、ワーグナー、ブルックナー等でダークな、力強い音が求められており、厚いメタルを使ったボーゲンが流行ってきている。(筆者注、このサウンドに関する部分は極めて「本質」に関るところで、dark,powerfulの直訳では、当団奏者やAJ氏の意図は汲み取れないのではないか?強いて言えば、「コク・腰のある」「深みのある」というところか。製作者が直訳してしまうと、英P社や米C社のような楽器が生まれてきてしまうのではないだろうか?)
モーツアルト等の繊細な音楽には、薄いメタルが適している。勿論、自分に合った1本のボーゲンに対応する人も多い。
4−2.ボーゲンの支柱
支柱をつけることで、中音域に安定性が増す。高音域に確実性を求めるならば、支柱が無い方がよい。直線部分の長さや、巻きの大きさは、演奏者の構え方や体格との相性(ベルを膝の上に置くか否か、腹が出ているか等)によるもので、サウンドに影響するものではないと考えている。
5、 6本のボーゲンを試奏したところ、肉厚の違いが音のまとまり方に如実にあらわれていた。一方、巻きの大きさの違いについては、一本一本の出来不出来にもよると思うので、この場で判断する事は遠慮したい。個人的には、0.5mmで直線部分が長いものが気に入った。
5.ボアサイズ
一見して随分ボアサイズが大きいようにお見受けし申した。これについては質問しそこなった。(単純なウールマンのコピーなのかどうかも分かり申さず。)
6.その他
これだけの楽器製作体制、実績を一代で築き上げただけあって、AJ氏の情熱は相当のものであり「一旦話し始めたら止まらない」といったところ、滔々と話し続ける姿は、ヨーロッパの職人気質の面目躍如であり、大変興味をひかれた。
ところで、この「クラフトマンシップ」は某サミット開催国の楽器メーカーのカタログにこれ見よがしに載っているキャッチコピーと符合をあわせるように同じだということに驚かされる。そのメーカーの「魂」は何処に?それとも広告代理店が優秀なだけなのだろうか? 事あるごとに繰り返されるこの疑問が、この地でも再び頭をもたげて来たのであった。
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