鑑定物件 No.4

カレンダーの写真 〜ホーネックからの"感謝の"サイン入り〜

依頼人:ノースカロライナ州ローリィ(!) 大島早由里さん


honeck_sign

本人評価額:150円

入手のいきさつ

1993年10月のことです、私の神様アダム・フィッシャー率いるオーストリア・ハンガリー・ハイドンフィルハーモニーが、初の日本公演を行いました。以前からアイゼンシュタットまではるばる出かけていった私にとっては、地元での開催ということで、大喜びでした。(当時私は東京に住んでいました。)
19日は日本公演最終日で、夜7時から東京渋谷のオーチャード・ホールで公演があり、曲目は「驚愕」、ピアノ協奏曲(ソロ:斎藤京子)、ヴァイオリン協奏曲(ソロ:ライナー・ホネック)、「告別」という、オール・ハイドン・プログラムでした。
ところがその前日に、すでに顔なじみであったハイドンフィルのマネージャーから電話があり、少々トラブルがあるので力を貸してほしいという依頼を受けました。そのトラブルというのはこうです。
「ソリストのライナー・ホネックは、翌日オペラ公演があるので、東京でのコンサート直後のヨーロッパへの最終便、ギリシャ航空で、ウイーンに戻らなければならない。それは成田を夜9時に発つ。日本の招聘会社の担当者は『ほとんど不可能。』と言うだけで、何もしない。何とか方法を考えてほしい。」
コンサートの始まる午後7時には、通常なら成田でチェックインしなければならないはずで、渋谷で悠長にヴァイオリンを弾いている場合ではありません。日本の地理に疎いマネージャーは都心と成田の距離を大幅に誤り、この予定を立てたのでした。
そこで私は時刻表を調べたり、ヘリコプター会社まで電話をかけたりして、何とか方法を考案しました。(ちなみに都心および成田空港の上空はとても厳しい航空規制があり、ヘリコプターはだめでした。)
結果から先に申しますと、ホネックさんは何とか飛行機には間に合いました。(ほとんど日本新記録!!)その方法は、まず航空会社に相談した結果、最大20分まで待つとのこと。(当団のネームバリューのおかげか)だから成田に9時に到着すればよいことになりました。それから、時間短縮のため、コンサートの前に東京シティ・エアターミナルでチェックインしてしまう。これで大きなスーツケースの移動はありません。
ご本人の移動となると、タクシーという手もありますが、平日の夕方ということもあり、少しでも渋滞に巻き込まれたらもうおしまいです。この方法に頼るわけにはいきません。時刻表を見たら、8時東京駅発の成田エクスプレスがあり、これに乗れば9時には成田空港に到着することがわかりました。残る問題は、どうやって8時までに東京駅に行くかです。
当初の予定ではヴァイオリン協奏曲は休憩の後だったのですが、それでは絶対不可能なので、プログラムの順序を変更して最初にしてもらいました。また、7時丁度にコンサートを始めるために、オーチャードホールにアナウンスをしてもらい、遅れてくるお客さんがいないようにしました。
この曲の演奏時間は23分なので、演奏後の拍手に応えても7時25分にはホールを出られます。終演後、まず燕尾服の上着を替え(さすがに燕尾で渋谷の街を走るわけにはいきません。)、ヴァイオリンと貴重品を持ってオーチャードホールから地下鉄の渋谷駅までダッシュ、この間約3分。ここから半蔵門線で大手町まで18分。ここで丸の内線に乗り換えて一駅で東京駅へ。成田エクスプレスのホームは地下なので、大手町駅からでも5分ほどです。この経路ならば7時50分頃には東京駅のホームには到着するはずです。ただしこの計画は机上のものなので、実際にうまく行くかどうかわかりません。そこで当日の午前中に私自身が実行して確認したところ、超鈍足の私でも、オーチャードホールから30分で成田エクスプレスのホームに到着しました。(事情を知っているフィッシャーさんと話したときには、能天気にも「わざわざゲネラル・プローペをやったの。」と言われ、ほとんど脱力ものでした。)また、乗り換えなどで迷わないように、ホネックさんを引きずり回し、東京の地下鉄を案内しました。(その間、渋谷のハチ公の物語まで説明したんです。)
鑑定依頼物のカレンダーは、コンサートの直前に楽屋を訪ねたときに、ホネックさんがくれたので、すかさずサインをお願いしました。カレンダーは94年のものなので、はっきり言って、全く価値はないと思います。(日付の部分は切り取ってしまいました。)左上にあるサインもボールペンのため、読みにくいのが難点です。でも入手のいきさつを考慮していただければ幸いです。自己評価額としては、渋谷駅から東京駅までの地下鉄の切符代金を基準にして、150円位ではないかと思っています。
結局私は足手まといになるので、ホネックさんの東京緊急脱出には同行せずに、ホールの客席でコンサートを聞きました。お客さんの中には「きっと音楽的効果を考えて、曲順を変更したんでしょうね。」などとおっしゃる方もいて、一人恐縮しておりました。このコンサートに行かれた方には申し訳ありません。でももう4年近く前のことなので、時効ということで、勘弁してください。
この一件はマネージャーのミスなので、フィッシャーさんの責任ではありません。でもハイドンフィルのトラブルの解決に協力したということで、これ以来光栄にも友達扱いで、楽屋に入れてもらったりしています。(だからCLASSICAに、メトの投稿ができたんです。)



鑑定結果

鑑定額:200,000円

当団メンバーも多数参加しているオーストリア・ハンガリー・ハイドンオーケストラ。そのファン・クラブ会長であらせられる大島さんからご投稿いただきました。しかも大島さんは、アメリカはノースカロライナ州にお住まいとのこと。遠路遥々(?)恐縮です。

しかしこのお話はすごいですなぁ。7時に渋谷で本番をやっていた人が、9時に成田から飛行機で旅立つ。なんか、西村京太郎の鉄道ミステリーに出てくる時刻表トリックを地で行ったような感じです。それを大島さん自らが実地演習なさったというエピソードは、涙なしでは聞けません。ファンの鑑。謹んで、賛辞の言葉を贈らせていただきたいと思います。ブラヴォー!
で、肝心の依頼品の鑑定ですが、いくらなんでも150円ということはないでしょう。これだけの労力をかけてホーネック氏の"窮地"を救った大島さんへの感謝の印ですからね。当時、ホーネック氏の胸にあった感謝の気持ちというのは、とてもお金に代えられるものではなかったでしょうが、しかし、飛行機に乗れなかった時に彼が失うことになるものの大きさを考えれば、その"感謝の価値"は、彼の中では相当大きいものであったに違いありません。
というわけで、ここはドンと参りましょう!地下鉄代はもちろんのこと、成田エクスプレスの料金、そして飛行機代も加えちゃいます。そういった"実費"はもちろんのこと、当団コンマスとしての"信用"さえもパーになっちゃうのを救ったんですから、十分でしょう?
ですんで、鑑定額は20万円!(飛行機代は、"エイヤ"です^^;)。写真の被写体もいいですからね(オットー・ワグナーのカールスプラッツ駅に、ムジークフェライン!)。もう文句なしに高額鑑定。これで決まりです!


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