Volkerの部屋 -VPO Who's Who(Tomboeck)-

ウィーンフィルWho's Who

第3回

ヴォルフガング・トムベック(ホルン)


ようやく再開の当コーナー。まずはホルン会メンバーからコツコツと進めて参りましょう。
というわけで、再開第1回目は、「天才」トムベック。

tonbeck ヴォルフガング・トムベック(Wolfgang Tomboeck)※"oe"はoウムラウト

生年月日不明。おそらく'56もしくは'57年生まれ。だいぶ大きな子どもが2人いるらしい...。
はっきりしないプロフィール紹介で恐縮だが、なぜか、この人だけ一切プロフィールを公開していないものだから、こういう状況なのだ。申し訳ない。
同名の父も当団ホルン奏者であり(息子入団まで首席、以後4番奏者)、父子一緒に演奏活動した期間も長かったことから、長年"ジュニア(Jr)"付で呼ばれていたが、父君が'93年に引退したことから、最近は"ジュニア"なしで表記されるようになっている。'79年頃から当団で活動しており(同年のニューイヤーコンサートでは3番ホルンを吹いていた)、現在は第1首席奏者。

彼こそ、紛れもない「天才」である。ソロや室内楽などで表舞台に登場することの極端に少ない人のため、その存在をあまり知られていないのだが、その「音」も「音楽」も、他の奏者とは一線を画すレベル・内容のものであり、歴代の首席奏者の中でも、屈指の名プレイヤーであると思う。
彼の最大の魅力は、やはりその「音」であろう。不純物のない、研ぎ澄まされたような音。ひとことで言えば「美しい」。そう、とてもとても「美しい」音を出す。その美しい音が、実に美しい「音楽」を紡ぎ出す。これこそが「ウィーンの『粋』」というものなのだろう、と思えてくる音と音楽なのだ。
これは、誰かに教わってできるというものではない。あくまでも天性のもの。父も、親戚も(シュタール一族がそう)、ウィーンフィルの団員という血が、彼のあの音と音楽を作り出しているのであろう。
しかし、「天才」とは、ある意味"脆い"存在でもある。好不調の差がはっきり現れるところもあった彼だが、加えて、近年は体調を崩し、その結果として、演奏面でやや精彩を欠くという、いささか心配な状況となっている。
実は、この写真は、'96年秋の来日公演時に撮影したものなのだが、この年、彼は猛烈なダイエットを行い、年頭には100kg以上あった体重(ニューイヤーコンサートでは丸々と太っていた)を、この時点で30kgほど落としていたというのだ(凄すぎる...)。が、結局、それが"あだ"となって、この後体調を崩し、緊急帰国という事態に陥ってしまった。その後も、休養と復帰を繰り返すという状態('97年の来日公演は、来る予定だったのが結局キャンセル)。
体調を崩して以後の彼は、音に以前ほどの輝きが見られず、また、息の支えが効かないのか、特に高音がぶら下がりぎみになるなどの現象を生んでしまっていて、好調な頃の彼を知っている身としては、非常につらいところ。まだまだ若いのだから、このまま"引退"などということのないように、なんとか復調してほしいと願わずにはいられないのだが...。

ところで、この写真を撮った時のエピソードを一つ。
写真撮影をお願いする際に、一緒にいた当団2番ホルンのゼルナー氏が、「彼らはアマチュアのホルン奏者で、ウィンナホルンを吹いてるんだよ」と紹介してくれたのだが、「そうなんです!」と自信満々に相づちを打つ我々に彼が発した言葉は、「Natuelich!("ue"は"uウムラウト)」。「当たり前だ!」だって(^^;
そう、「当たり前」のことなんですよね、ウィンナホルンを吹くってことは。「天才」のこの言葉に、改めて意を強くした次第。彼を、近寄り難い人物と思い込んでいた私たちだっただけに、なんとも"嬉しい誤算"の一時でありました。

この人のこれを聴いて!

ブラームス/交響曲第2番:クライバー指揮(PHILIPS:LD/Video)
オケの中ではたくさん吹いており、当然のことながら名演も多い彼だが、室内楽の演奏などは極端に少ないため(DECCAから近年出た、ウィーン管楽合奏団のCDには参加しているが)、「これぞ!」と紹介できるものが少ないのが実状だ。そんな中、顔も写っていて演奏も見事、という意味から、クライバーとのブラ2をあげさせてもらった。1楽章最後の長大なソロを始め、彼の「美しい」音と音楽を存分に堪能できる1枚。必見そして必聴。

↑と書いておいてナンなのだが、彼の本領は、オペラでこそ発揮されると思うのも事実。彼、とにかくオペラが好きみたいデス(そう見える)。
よって、彼の真の実力を知るには、ウィーン国立歌劇場のピットの中での演奏を聴いていただくしかないと思う次第。聖地巡礼に行かれました暁には、是非とも、彼の素晴らしい音と、オペラを楽しむ姿を堪能していただきたく。


ウィーンフィルWho's Whoへ戻る