かくし
雷の香り
〜序章〜
初めての記憶は、ただふよふよと漂う「意識」だけだった。
それだけで他には何も感じない、閉じられた、それでいて安心できる世界に、私は居た。
でも、それは突然終わった。
気が付くと世界は180度変換し、私は重力の枷を付けられ、風の香る大地に居た。
そのころはまだ「意識」そのものが『こちら側の世界』に慣れてなくて、「自分」を表せないでいた。
ただ。漂っていた頃に感じた「香り」を放つ人が居たから。
私はその人の元に居た。
その人も、私を傍に置いてくれた。
その人の、いつもにこやかに微笑むその顔が、私は好きだった。
色々とあったけど、その人がいつも私を心配してくれたし、守ってくれていた。
掛け値なしの無償の愛情だった、と思う。
でも。
それはある日、突然終わった。
このカラダとして最後にある記憶は…
崩れ落ちていく人達。
蠢く闇。
そして、私の中で何かが砕け散った音。
最後に…血の涙を流して、怒り狂う竜の姿。
何故だか知らなかったけど。
とても、悲しくて。
でも、涙もその頃は知らなくて。
それが、もっと悲しかった。
〜芯章〜
マフォロ島のケンタウロスの賢者のもと居た山のすぐ傍に、壮大な草原が一望できる場所がある。
その草原の只中に、1人の少女が立っている。
健康的な日焼けをしたような黒い肌、ふわふわとした黒髪、
そして金色の瞳が印象的な、歳は17、8といったところの可愛らしい少女だ。
少女の名はメル。
しかし、この肉体の持ち主は元は「リヒト」という名の竜司祭であった。
リヒトは、先のアザーン諸島の殆どを巻き込んだ大戦において、
「雷竜将軍」と恐れられた凄まじい力を持つ少女であった。
しかし、大戦末期に起こった水晶宮の戦いにて、怒りと憎しみの精霊
ヒューリーに取り付かれ、魂の破滅を迎えてしまった。
それと同時に、ある少女も、とある理由で生命の精霊の力を失い、肉体的な死を迎えていた。
その少女こそが現在リヒトの姿をしているこの少女、メルである。
メルとリヒトは親子のような間柄であり、リヒトのメルに対する溺愛ぶりはごく一部で有名であった。
そんな二人が片や精神的な死を、片や肉体的な死を遂げてしまった。
当時の仲間達は何とかして片方だけでも甦らそうと、とある儀式を行って、
残っていたメルの魂をリヒトの肉体に宿らせることに成功した。
それが、幸せな結果になるかどうかは当人の問題ではあったが…
…涼しげな風が草原を撫ぜる。青い空を凄い速さで雲が流れていく。
メルは、この景色が大好きだった。あの幸せだった頃を実感できるから…
「メルー?昼食にしよ〜」
は、と。夢想に耽っていたメルは現実に引き戻された。
草原を見下ろせる位置にある丘に、フェザーフォルクの女性が翼をはためかせながら浮いている。
「あ。はーい、レンおばさん」
ぴきっ
「あ、あのねぇ…いい加減おばさんって呼ぶのやめてくれない?私まだ20前半よ?」
顔を引き攣らせながら言う。
このレンという女性も、先の大戦では「魔狼の使い手」「絢爛舞踏」と呼ばれた英雄の1人である。
扇を使った華麗な舞いを踊り、敵の攻撃を優雅に受け流し、
その扇から強大な電光を発する特殊な技の使い手であった。
また、精霊使いとしての技量も並外れており、今では氷の精霊王魔狼フェンリルと契約を取り交わしている。
が、そんな彼女も今ではすっかり隠居生活となり、おばさんと呼ばれても仕方ない生活ぶりをしている。
…まだ若いのに…
「だって、レンおばさんはレンおばさんだもの…私にとっては」
「……はぁ。まぁ良いわ、早くお昼作ってね〜」
苦笑を浮かべるメル。やっぱり、おばさんっぽいと思う。
「はいはい。すぐ作りますから。トムさんにも手伝ってもらいますね」
笑顔を浮かべて、メルは駆け出していった。
昼食が終わったあと、メルはこの山の頂上部分である賢者の祠にある
膨大な量の蔵書が収められている通称「図書室」にこもりっきりとなる。
創成魔術を勉強するためだ。
祠の内部は時間が通常よりもわずかながら圧縮されているので、
実時間で短期間に魔術などを研究するにはもってこいの場所である。
リヒトは竜となった後にも人に戻れる為の魔術を求めて、ある時期から創成魔術の勉強を始めていた。
これは竜司祭としては大変不自然な行為であるが、「世界」と触れた竜司祭がどのようなモノの考え方をするのか、
という事は誰もわからないので、このような考えに及ぶ可能性もあるだろう。
そして、メルはその真似事をしていた。
自分が突然、何者にも縛られない自由な存在になったメルは、
自分が何をしたいのか、何をするべきなのかが全く分からなかった。
だから、自分を守り、可愛がってくれた少女と同じ事を取り敢えずしてみよう、
と思い立ち、このような事をしているのである。
勉強は、嫌いじゃなかった。
でも、好きでもなかった。
ただ、この瞬間だけ、リヒトが傍に居てくれているような気がして、とても落ち着けるから…
メルは、亡霊を追っていた。
「それじゃぁ、私、ザラスタに戻りますね」
定期船が来る日になって、メルはいつものようにアザーン本島の街・ザラスタのとある酒場に帰ることとなった。
メルは、ここマフォロ島では創成魔術を、ザラスタでは竜語魔法(完全独学)と戦士の技術を学んでいるのである。
「うん、まぁ気をつけてね…」
レンが祠の入り口まで見送りに出た。
…ふと。この少女は何故このような生活を送っているのだろう、と、レンは疑問に思った。
祠内での生活が長いので、少女の精神は既に13〜14歳程度にはなっている。
そういった意味でもこの生活の仕方はちょっと異常だ。
しかも、少女は特に魔術の勉強が好きそうにも見えない。
では何のためにそのような事をしているのか?と、そこに至ってから、レンはあることに思い当たった。
しかし、それはあまりにも悲しいことではないか?
「…メル、あなた…」
そう言いかけるレン。しかし…
「はい?何ですかおばさん?」
そう屈託無く笑顔を浮かべながら答える少女を見て、レンは問い質す気を失った。
そもそも自分はそういうおせっかいな性格じゃないのだ。
「…なんでもないわ。またね」
「はい、おばさんもお元気で」
そうして、メルは山を降りていった。
…暫くしてから、レンは誰に言うでも無く呟いた。
「報われないわね…」
草原の中を、メルは船着場に向かって歩いていた。
もうこの道も慣れたもので、例え目をつぶって歩いたとしても船着場や賢者の山へ行ける自信がある。
と。
風が、ざわりと鳴った。
それに混じって、かつて感じたことのあるイヤな感覚が肌を刺す。
「お迎えに上がったぞ、雷竜の姫」
ざぁ、と。
空から1人の男が舞い降りた。
背には蝙蝠状の翼を生やし、独特の形状の鎧を身につけている。
その鎧は、以前メルがリヒトであった時に着ていた物と似ている。
「あ………!」
メルはこの人物を知っていた。以前、賢者の祠にも現れたこの男を。
「水竜…将軍!?」
「名はヴァイと言うのだよ、『雷竜の』」
ぞくん、と、頭のてっぺんからつま先まで電流が走った。
カラダが、こう警告している。
逃げろ、と。
足がすくむが、なんとか動けないことは無い。
リヒトの肉体的能力を受け継ぐこの身体ならば、おそらく逃げ切れるだろう。が、
「逃がすことはかなわん!!」
ヴァイが、咆えた。
その咆哮はメルの心の臓にまるで鷲掴むかのように絡まり、メルの肉体をその場に拘束させた。
「例のフェザーフォルクを呼ばれると少々厄介なのでな…」
ゆっくりと、恐怖で硬直しているメルのもとに、水竜将軍が歩み寄る。
しかしそんなことを感じている余裕はメルには無い。
咆哮の魔力が、ヴァイそのものの恐怖だけでなく、彼女の中の曖昧であった恐怖の記憶を呼び覚ます。
例えばそれは、とある迷宮のなか。
透明な触手が幼い身体に容赦なく打ち付ける。
例えばそれは、瘴気漂う暗闇の中。
拠り所としていたモノが砕け散る瞬間に起こった失禁しそうなほどの激痛。
例えばそれは、水晶の迷宮。
次々と身体を結晶化され、倒れていくみんな。
そして、大切なものを守れなかった者の悲痛の叫び。
怒りに乗っ取られ、その身を血のような赤い色で覆っていく、自分を守ってくれていたもの……
「あ…ああああアアアあアッッ!!」
イヤだ。なんで?なんで私は生きてるの?なんで私を殺したままにしてくれなかったの?
誰が生き返らせてって言ったの?こんな、苦痛だけの世界なんてイヤだ。
なんで?私?どうしてこんなことになったの?助けてよ……誰か助けてよ!
なんで?なんでいないの?あの人のいない世界なんて意味が無いのに!
イヤダ。イタイ。イヤダ。イタイ。キエタイ。タスケテ。コロシテ。ケシテ。ナクシテ。クダイテ。コワシテ。
ナンデ?ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ…ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ
ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ
ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ…ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼ?ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ
ナゼナゼナゼナゼナゼナゼ………私、ココにいるの?
記憶の中は、辛いことでいっぱいだった。
「安心しろ…お前を必要としている御方がいる。殺しはせん」
ヴァイは爪を生やしたその右手で、メルの首を掴んだ。
爪が深く首筋に食い込むが、致命傷となる部分に爪を立ててはいない。
しかし、それでも激痛は走る。
メルの意識はその激痛を遮断した。既に肉体と精神が半ば剥離しており、激痛を感じなくなっているのである。
虚ろな瞳をしているメルを見て、ヴァイは首をかしげる。
「ふむ…?咆哮の魔力をまともに受けすぎたか?…まぁ良い。我々が必要なのはその器だからな…心など何とでもなる」
と。
突然、メルとヴァイを分断するような形で、青い輝きが迸った。
その青い輝きに触れて、ヴァイの右手が氷塊に包まれる。
「ぬぅ!?これは…!!」
「そこまでよイモリ野郎!」
ヴァイが声のした方向を「見上げる」と、そこにはふわふわと空に浮かぶ女性のフェザーフォルクがいた。
その美しい相貌は少し怒りに染まっている。
「最近妙な気配を感じると思ってたのよ。でも襲ってくるような感じじゃなかったから無視してたんだけど…
多分こんなことだろうと思っててね。こっそりメルの後をつけてたのよ。
メルが意外に歩く速度が速かったから少し遅れちゃったけどね」
そう言いながら、レンシルフはす、と、音も無く地面に着地した。
その背後には、彼女の盟友である青白き魔狼が傅いている。
初夏の草原が、この瞬間だけ真冬のような寒さに包まれた。
ヴァイにとって、この状況は圧倒的不利であった。
いくら水竜の血の護りがあるとは言え、一人で精霊王と超一流の精霊使いと戦って勝てる見込みはほぼゼロに近い。
おまけに、彼の従属物であった下級竜はこの前の大戦のさなかで殆ど失ってしまっており、それらを呼び出す事も出来ない。
テレポートストーンを用いて逃げ出すのが得策であろうが、今回の計略は、最近彼の仕えている
偉大なる主人、水竜シュネイに接近してきているべノールに対する重要な策謀の一つである。
メルを諦めて逃げ出すわけには行かない。
と。
恐怖のせいか何なのか、自分のすぐそばで放心しきってしまっているメルが目に入った。
(…少し危険な賭けだが、乗ってみるか)
「どうしたのよ?おとなしく逃げ出す気になった?」
レンが余裕の表情でヴァイを見つめる。
しかし、次の瞬間、その余裕の表情はあっさりと崩壊した。
ヴァイが、その爪をメルに向けたのである。
「どうせ手に入らないのならば、この娘にも死んでもらうことにするとしよう」
「う……」
レンにとってこれはかなり厄介だった。
メルが攻撃される前にヴァイを攻撃することは可能ではあるが、以前戦った感じでは、
ヴァイを一撃で葬り去ることは極めて困難である。
しかし、もしヴァイが本気ならば、ヴァイの方は一撃でメルを葬り去ることは可能であろう。
ただ、メルが動ければ話は別だ。ヴァイが動くよりも早くメルは動くことができる。
リヒトが冒険者として鍛えた技能こそ失ったものの、その肉体能力はリヒトのものと全く同じなのだ。
そして、リヒトは先の大戦でともに戦ってきた仲間達の誰よりも俊敏に動けるのだ。
しかし、今のメルは先ほどの咆哮の影響からか、その場に立ち竦んだまま動くことが出来ない。
「ああったく、メル!気合で何とかしなさいよぉ!!」
真冬のような気温となった草原に、フェザーフォルクの絶叫が響いた。
1人、メルは暗闇の中で膝を抱えて震えていた。
そのなかで、メルは心が暖かかったあの頃を、たった一人きりの劇場の中で再現していた。
リヒトが空へ連れていってくれた事がある。
正直、あの時はただ怖かったけど、リヒトはとても楽しそうな顔をしていた。だから、私も怖かったけど楽しかった。
そして、空を飛んでいるときにリヒトはこんなことを言っていた。
「良いよね〜、空って。私、こういう街の上の風景が一番好きなんだ。
人も世界もいっぺんに感じられるから。それだけで、生きていることが嬉しいんだよ。おかしいかな?」
そう言われてみても、あの時の自分には良くわかっていなかった。
ただ、空を飛んでいるときのリヒトはとても綺麗で、楽しそうで。
自分も、あんな風になりたかった。自分も、空を飛ぶ楽しさを知りたかった。
そう、世界はきっとこんなにも楽しさに満ちているんだろう。でも、自分には残酷な面しか見えてこない…
「メル!」
遠くから、自分を呼ぶ声がする。残酷な現実が自分を呼んでいる。
耳を貸したくない。目も向けたくない…
「メル!ちゃんと聞きなさい!」
…レンの声が聞こえる。
その声があまりにも必死だったから。そんな声のレンを見たことが無かったから。
私は少しだけ、窓からレンを覗き込んだ。
「メル!貴女、分かってるの?あなたを生かした人があなたに何を望んでいるのか、分かってるの!?」
レンが、叫んでいる。その瞳に、きらきらと光る粒をたたえながら。
「貴女を生かしたのはリヒトなのよ!?貴女に人としての道を与えたかったから…貴女を解き放ちたかったから!
そんな思いを無駄にする気!?早く…目を覚ましてよ!!」
そんなこと…私…
と。背後の劇場で過去のままのリヒトが今の私に微笑んだ。
「メル。先に行ってみなきゃ、今のまま…不幸なままだよ?」
「…でも、リヒト。私…こわい…」
「大丈夫♪私が、いつも一緒にいるから…怖いことなんて、無いのよ」
そう言って、リヒトは窓を開けた。
「ほら。早く行かないと、レンが悲しんじゃうよ…踏み出せば、なんて事の無い世界だから、ね?」
リヒトが私の背を押す。私は…恐る恐るながらも…でも、進まなきゃこのまま止まってしまうことが嫌だったから。
外へ、羽ばたいた。
「メル!」
は、と、メルは現実に帰ってきた。
見ればすぐ傍には水竜将軍の爪が間近に迫って来ていた。
咄嗟に、メルは後方に大きく退く。
「ち………目が覚めおったか」
ヴァイは舌打ちをした。
実際には一旦近寄ってからメルを手元に抱き寄せ、テレポートストーンでもろともに逃亡するつもりであったのだが、
メルが覚醒したことによりそれは大変困難なこととなった。
このままでは目的を果たすことは困難。しかしこのまま逃げ帰るのも得策ではない。
ではどうするか。
「……殺すか」
虚言を現実のものにする場合はかなり楽だ。
例えメルの足が速かろうとも、炎の吐息をもってすれば困難なことではない。
しかも、先程首を掴んだときにそれなりのダメージは与えておいた。
一撃でメルを倒す自信が、ヴァイにはあった。
「ならば、迷いは無い」
ヴァイは己の体内の炎の精霊力を活発化させ始めた。
「ちっ…!!メル!走って逃げて!」
それを感知したレンがメルに指示を飛ばす。
炎のダメージは免れないだろうが、距離さえ開けばフェンリルを間に入らせて足止めすることもできよう。
しかし、メルは二人が思いもよらない行動に打って出た。
ぶん、とメルの両手に爪が生える。
腕にはめている魔力の篭った腕輪の影響で、右手の爪からは魔力の煌きが、左手の爪からは雷の煌きが宿る。
そして、メルはその爪をヴァイに向けて、突進した。
「バカァッ!!」
レンの叫びが響くと同時に、ヴァイの口から炎の舌が伸び、メルを覆う。
が、その炎の中から、所々を火傷しながらもメルが飛び出た。
「はぁああっ!!」
メルが右手を振るう。ヴァイはそれを易々と避けた。
が、その反対側から雷を迸らせた爪がヴァイの顔面を強襲する。
ヴァイはそれを避けた…つもりであった。
しかし、予想外の勢いでその爪は振るわれ、彼の顔面を的確に捉える。
ざっ!
「がぁっ………!!!」
爪は、ヴァイの右目に深く食い込む。
それと同時に、爪から雷の波動が迸り、ヴァイの瞳を一瞬で蒸発させる。
ばじゅっ、と、何かが弾ける。
「うぐぁああああっっ!!」
ヴァイの絶叫が冬の景色の初夏の草原に響く。
予想外の結果に、ヴァイの頭はすっかり混乱してしまった。
(な、何が起こった!?私の…私の右目がァ……!?)
右目から白煙を噴き出しながら、水竜将軍は一歩、二歩とあとずさった。
それに追撃をかけようと、レンのフェンリルが追撃をかけてきた。
しかし、間一髪のところでヴァイは己の意識をかろうじて維持し、
口の中で何事かを呟くと、後も残さずにその場から消失した。
エピローグ
「まぁったく。なんとかなったから良かったものの…」
船着場にて、レンがメルにぼやく。
「あんな事ばっかしてたら何時か死ぬよ?どこかの国の妾腹の王子じゃあるまいし」
「う…ごめんなさい…」
流石に自分に全て非があるため、メルは反論することも出来ない。
自分の中で死ぬことが非であるということを認めた直後にあんな事をしてしまったのだから、
自己反省の深度は相当なものである。
その落ち込み振りを見て、レンは何だか自分が悪いような気がしてきた。
「……ま、結果オーライとしておきましょう。特に左手の動きはたいしたものだったわ、私でも避けきれるかどうか」
「そんな…たまたまですよ」
俗に36回に1回はズブの素人でも達人を凌ぐ行動が出来たりすると言われている。
しかし、あの爪の動きはそういった偶然の産物ではなかった気が、レンにはした。
(英雄の素質は、肉体に残ってるって訳ね)
そんなことをレンが考えていると、船の出港時間が来てしまった。
「あ、じゃぁ私、もう行きますね。今日は本当に、有難う御座いました」
「うん…ま、気をつけてね。これからもこういうことが無いって訳じゃ無さそうだから」
実際、ヴァイがメルに再び襲撃をかけてくる可能性はかなり高かった。
しかし、あの怪我は相当深そうである。まだ当分はそんなことは無いであろう。
「では、お元気で…」
メルが桟橋を渡って、船に乗り込む。それと同時に、船は桟橋を離れて、その姿をどんどん小さくしていった。
船が離れていった桟橋の上には、純白の翼を持ったフェザーフォルクが、その船が消えて見えなくなるまでずっと佇んでいた。
雷の香りがする。
彼らの行く先にはこの香りが示すように嵐が待っているだろうが、
まぁ、きっと。なんとか、なるだろう。
<終>
あとがき
どもども。ヴァハです。
ようやくできましたメル奮戦記。
っていうかいろいろとオリジナル入っていて大変です。
こっそり余白増やしてページ数増やしているのはナイショです(爆)
で、多分疑問に思われることを先回りで。
メルの心象風景ですが、アレは現実に起こっていることを一つも出していません。
現実でレンが泣いたりは絶対していません、ええ(笑)
つまりアレは結局は自問自答をしているだけなんですよね。
で、水竜将軍の右目をやっちゃった方法ですが、
まず英雄ポイントを使ってなんとか命中させます。
次にダメージ決定で6ゾロを二回振ります(爆)
こんな感じです。
で、火のダメージの時は、運良く抵抗&ダメージ決定で3を振るってな感じで。
ギリギリ生きてます(笑)
さてさて。水竜将軍の右目を斬っちゃったりしましたが(汗)、どうなるでしょう。
でわでわ。