かくし



闘将出撃 第一話 リンちんだぶるぴんち



カッカッカッ

 幻魔城の廊下に靴音が響く。
ヴァンパイアであるレベッカは飛行能力を持っているが
よほど必要に迫られた時以外はその能力を使おうとはしない。
理由の一つは地に足がついていないと格闘にさしつかえるということだそうだが、
それよりは一度彼女が漏らした「飛ぶより歩くほうが楽だ」という言葉の方が信憑性は高いだろう。
レベッカは幻魔城の転移管制室の前で足を止めた。
その入り口に立ちはだかる人物を認めたからだ。
「リンか?」
「どちらへお出かけですの?レベッカ様」
レベッカの副官を務めるワーフォックスナイトチルドレンのリンは
そう言ってその細い目で黙り込んだレベッカを睨む。
「……」
 リンは焦っていた。どうも先ほどからレベッカの様子がおかしいのである。
普段(でない時もそうだが)のレベッカははっきり言って戦闘バカ且つバカの戦闘マニアである。
「考え込んだり」「黙り込む」などとレベッカのキャラではない
「先ほどの会議でこの件についてはベルク様が対処する事に決まったはずですわ」
「…奴の策の邪魔にならんようにするさ」
「そっ、それは無理ですわ!
レベッカ様のような考えなしが不意にうろちょろされたら邪魔以外の何ものでも……
……あ、いや、その」
レベッカのジト目にリンは失言に気付いた。
「お前がオレの事どう思ってるかよく分かったよ」
「ひーん!」
レベッカが右手を動かすのを見て反射的に両腕で頭をかばうリン。
しかし、レベッカはリンを横へ押しのけただけであった。
「あれ?」
てっきり殴られると思っていたリンは拍子抜けしてレベッカを見返す。
「とにかく邪魔は許さん。チクリもだ
「ぐぅ…承知しましたわ」
吸血鬼は自分のマスターには逆らう事ができない。
マスターであるレベッカに禁止された以上、リンにはもう止める事もチクることもできないのだ。
「い、一体何をしに行くつもりなんですの!?」
せめて強制力の範囲内でできるせいいっぱいの事として
リンは転移管制室の入り口をくぐろうとしているレベッカに問うた。
 するとレベッカは優しく微笑みながら一言だけ答えると転移管制室へ入って行った。

「愛する人との約束を守りに」

 転移管制室内でレベッカは魔法円の上に立つと傍らでメイジスタッフを構える
この部屋の管理担当者アルフレッドに一言行き先を告げた。
「アザーン本島、ベノールへ」

 一方リンはようやく硬直から立ち直った。
「あ、愛…!? あのヴァカ女が? ……愛?」
リンが放心状態でぶつぶつ言っているところにマリアが通りがかった。
「ちょ、ちょっとリン、どうしたのよ。客観的に見るとかなりアブない状態よ?」
リンは離しかけられてようやく正気に戻る。
「たっ大変ですわ!マリア様ァ!」
「うを!?どどどどうしたってのよ」
「実は…」
しかし強制力でレベッカの行き先もその理由も、
ここで何があったのかさえチクれないリン。
「あう」
「ちょっとなに?どうしたのか言って見なさい」
「れ…あ…べ…」
「れ……なんですって?」
必死に強制力と戦うリンだが結局言えたのは一言だけだった。

「レベッカ様が壊れた〜!!」


               《 つづく 》

トップに戻る