介護保険関係者だけの短編小説(小説じゃあないって!)

第10話  「介護保険、最後の問題点と課題!?」
〜ぼちぼちレアケースに焦点を合わせないとね〜

 きわめてリアルな会話・・・・・・・・・・介護保険ノンフィクション即席小説
 介護保険関係者だけが解る楽屋受けだらけ
 日頃のアフターファイブの出来事を小説風におもしろおかしく書き綴った介護保険関係者のためだけの物語です。
 登場する人物、団体は全て架空のものです。

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 作:野本史男 
 平成12年2月06日


〜序〜
 2月に入って、旧暦の正月、横浜中華街は、春節祭!本日ある中華料理店で法事をしたんですが、ポイントカードが2倍になるって、ラッキーです。17,000円分の食事券をGETしました。誰と食べに行こうかな〜!!
 そうそう、2月の声を聞けば、あと1ヶ月ちょっとで介護保険がスタートするっていうことですね。
 今朝方UPした「要介護認定不服審査の心構え教えます」は、読み方によっては、色々な受け止め方ができるように書いてしまったのですが、既に150件以上のアクセスありがとうございました。
 それはそれで、今後議論を深めていきたいと思います。
 さて、今まで気になっていたレアケースをどのように解決していくのだろうか????気になって気になって・・・・


ねえねえ、聞いてよ!

山田 ねえ、田中さん聞いてよ!介護保険がスタートしたら、こんな人の場合は?とか市役所に聞いたら、何も答えが返ってこないの〜
    どうして〜?って聞いたらね、突っ込まれると具体的な取り扱いがわからなくて・・・っていう答えよ!
    いったいぜんたい、介護保険本当に大丈夫なの?

田中 え?大丈夫って?そんなの聞かないでよ。ところで、どんなこと聞いたの?

山田 あのね、徘徊している痴呆の人を保護したら、特別養護老人ホームであずかれるの?って聞いたの。

田中 また、よりによって、タイムリーな質問をしてくれちゃいましたね。

山田 どどどど・・・どうして?

田中 だって、先日厚生省から、事務連絡で、介護施設への利用は、介護保険制度の利用に限定する。っていうのが届いたばかりじゃない。事務連絡一つで全て分かるわけないけど、そんな事務連絡をみたら、徘徊高齢者を特別養護老人ホームではいはい、ってあずかれないでしょ?


徘徊高齢者は日本人?
山田 どうして?なんでそんなこと言われちゃうの?

田中 だってね、徘徊高齢者でしょ?どこのだれだか分からないんでしょ?

山田 だから徘徊高齢者なんでしょ?

田中 そうだよねえ、だれだか分からない、っていうことは、介護保険制度の受給者かどうか分からないということなんだよね。
    いいかえれば、その人が日本人であるという証明も無いってことでしょ?

山田 えッ?どういうこと?

田中 つまりね、徘徊高齢者が自分の住所や氏名が言えれば問題ないけど、話ができなければ、身元不明人なんだ。
    顔が日本人らしい、というけど、日本人である証拠がないわけですよね。

山田 そんなことってあるの・

田中 昔ね、私の担当していたケースで、昭和30年代全般に警察に保護されて、そのまま病院で生活して25年近くになる人の取り扱いで、就籍裁判を行ったことがある。その人は、聾唖で文字も書けない。そのことを考えれば、簡単な話じゃあ済まないってこと。

山田 へえ〜?

田中 つまりね、例えば、漢字が書けても中国人かもしれない。

山田 うんうん。

田中 年齢を特定することもできない。

山田 そりゃそうだ。

田中 だから、痴呆性老人でも、介護保険に該当する人か分からないってこと。

山田 それじゃあ、介護保険制度に乗ることを前提に話を進めるわけには行かないじゃない。

田中 そう、それで答えられなかったのかもしれない。


9月17日のやむを得ない措置って?
山田 それじゃあ、9月17日の全国介護保健担当課長会議資料に書かれている居所不明っていうのはどういうことなの?

田中 それもはまりやすい表現だよね。従来の老人福祉措置担当者なら、すぐ解るはずなんだけどなあ。
    つまり、居なしケースってこと。長期間の入院等で帰来先を失った人や居所を転々としていて、住民票が職権消除された人のことを指すんだよ。9月17日の資料にある住所地設定っていうのは、宙に浮いた住民票を適正なところに設定すると言う行為でしょ?

山田 なになに?住所地設定と就籍とはちがうの?

田中 まず、宙に浮いた住民票について説明すると、職権で住民票が消されるという例は、国勢調査等で居住の事実が無いことを知った市町村が、その住民票を抹消すること。抹消された住民票は、その人の本籍地に戻されている状態を指すんだ。

山田 それじゃあ、病院とかに長期間入院入所している人って、住民票をおけるの?

田中 それは一つの条件だけ叶えば大丈夫。

山田 なになに?

田中 住民票を置く場合は、「今後引き続き1年以上居住することが見込まれる場所」に住民票を設定できるわけ。
    つまり、施設であろうと病院であろうと、1年以上そこにいることが見込まれればいいんだ。
    市町村に置いてある住民基本台帳六法の問答集を見れば書いてあるよ。

山田 ふう〜ん。

田中 そしてね、住民票も本籍地も解らない人って、いうのは、簡単には住民票を設定することはできないわけ。

山田 なぜ?

田中 それはね、戸籍がなければ住所地の設定ができないから、どうしても戸籍が見つからない場合は、戸籍を作るという「就籍」をしなければならない。

山田 どうすればいいの?

田中 ちょっと話が長くなるんで、簡単に言えば、裁判によって戸籍を作ることになるんだ。こういう人をどうやって裁判につなげるかということなんだけど、僕の場合は福祉事務所長が検察官に通報することから始めたんだ。根拠はたしか、非訟事件手続法第16条〔検察官への通知〕といって、「裁判所其他ノ官庁、検察官及ヒ公吏ハ其職務上検察官ノ請求ニ因リテ裁判ヲ為スヘキ場合カ生シタルコトヲ知リタルトキハ之ヲ管轄裁判所ニ対応スル検察庁ノ検察官ニ通知スヘシ」という根拠だったよ。

山田 なになに、めんどくさい話ね。

田中 だから、簡単に言えば、少なくとも何年という単位で時間がかかるっていうこと。初めての事件だったから、けっこうやりがいがあったね。

山田 だから、オタクだっていわれちゃうのよ。
    ついでに、なにが争点だったの?

田中 つまりね、日本人であるという証明が必要だったんだ。
    当時は、戦後から10年ちょっとでしょ?日本の教育を受けた外国人っていたわけ。当時のカルテを病院で見せてもらったら、直筆の字らしいものがあってね、そこにひらがなを書いていた。それしかないけど、それを根拠で日本の教育を受けた形跡があるということなどが寄り集まって就籍できたような記憶がある。
    それとね、就籍のためには、禁治産宣告を受けさせて、後見人が就籍手続を行うことになるんだけど、後見人には公務員がなれなくてね、ある人を拝み倒してなってもらった・・・。4月からは、その部分の後見法になるから、4月以降に発生した事件は、また心機一転やり甲斐がある作業だね。

山田 へえ〜、すっごくたいへんだったんだ!

田中 だからね、徘徊痴呆性老人を発見した場合、その人の人権を守るためにも、きちんとした手順を決めておかなければならない。

山田 よ〜くわかったわ。


課題を整理すると?
田中 まあ、このような事例は先ず無いだろうけど、どうしても身元が判らないといったことが起きないとも限らない。

山田 じゃあ、問題になったら考えるっていうことで・・・・・

田中 そんなこと言ったら、問題先送りの○○と同じじゃん。危機管理が足りないっていうことになるよね。
    それに・・・・。

山田 それに・・・何?

田中 言いにくいことなんだけど、徘徊痴呆性老人って、身元が判らないんだよね。何の病気があるか判らないんだよね。

山田 そう。

田中 それに、意思判断能力がないんだよね。

山田 そう。

田中 施設で感染事故が発生したら、誰が責任取るの?

山田 これまでは、市町村の措置だったから、ぜ〜んぶ市町村が取ることになっていたけど・・・・・介護保険制度以後は・・・・そういう人を保護して、措置でお願いしても、受け入れる施設の責任は免れるか?・・・・・

田中 そこもちゃんと議論しておくか、受け入れの際に施設は市町村と受託契約を締結する訳だから、そこで全責任は市町村が負うと記載してもらわなければね。でも、こんなことから事故が発生して人気が落ちちゃったときの損害賠償って、請求できるのだろうか?

山田 言い出したら切りがないわ。
    でもさあ、今まではどうして問題がなかったの?

田中 問題がなかった訳じゃあない。でも、これまでの老人福祉法は、住民票ありきではなかったでしょ?居住さえしていればいい。それも判らなければ、発見保護された所が措置できていた訳だから、措置開始を妨げるものではなかった。

山田 ふう〜ん。つまり、介護保険で潜在化していた問題が顕在化されるっていうことね。

田中 そういうことになるね。


じゃあどうすればいいの?
山田 私の一言って、ちょっと物議をかもしだしてしまったってこと?

田中 まあ、言っちまったんだから、しょうがない。課題が出れば解決する。これが仕事でしょ?

山田 議論はそう簡単には集結しないでしょう。

田中 そうだね。

山田 取りあえずの方法は?

田中 う〜ん。出たとこ勝負みたいなことになりそうだけど、結論から言ったらこうなるのかな?っていうのは持っているよ。

山田 教えて!

田中 まずね、警察に保護されるだろうから、警察に保護されている間は、罪を犯している訳じゃあないけど、生活の場は24時間確保できる。その後は、やはり病院において検査してもらう、っていうことが妥当だと思うんだ。
    だって、痴呆である、という確定診断がないのに医師以外の人が決めつけることってできないでしょ?もしかしたら、別の疾患で痴呆様の症状が出ているっていうこと、あったらどうするの?
    また、重篤な疾患が隠れていて、保護されている間に急変したらどうするの?福祉の専門家だったら見て判るの?
    っていうことで、まずは医師の診断が必要なんだろうねえ。

山田 治療費が無いでしょ?

田中 現状では、生活保護しかないだろうねえ。生活保護の場合は、生活保護法第28条の検診命令で保護の決定のために検診させることができる。
    でも、これは、生活保護に依存する仕組みになっちゃうから、本来なら、痴呆性老人対策でこの程度の対策費を持つべきか、ちゃんと議論しておかなければならない。
    
山田 そうかあ、今の制度で勝負するなら生活保護・・・・。

田中 そういうような言い方しちゃうとダメだよ。短絡的すぎる。
    とにかく、早急に検討しなくてはね。やはり、日本人って、利権やら押し付け合いっていうことで議論ができないのだろうか・・・。


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