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奴らはどこにでもいる。例えば私の実家、掃除好きのおかんが年中きれいに掃除している。ところがそんな家にでも年に数回は出るのだ。そしておかんの叫びが家中に響き渡る。
「けんし、あんた、ゴキブリ!!」
誰がゴキブリやねん!!
今回はそんな私とあるゴキブリの出会いについて話したいと思う。
出張続きの生活が始まって6年、一人暮しを始めてから4年、私はゴキブリ出現の奇妙な法則性を発見していた。それは、
出張から帰ると部屋に必ず1匹いる。
出張から帰って数日以内に必ず出るのである。全く色気の無い話だ、部屋で待つのはゴキブリのみとは。
主がいる間は隠れていたゴキブリが、主の出張中には我が物顔で部屋を闊歩しているのだろうか。そして主の帰宅に対応できずに思わず出てきてしまって見つかってしまう。それとも単に出張中に外から入ってきて居付いただけなのか。それは分からない。
そんな俺と奴が出会ったのはやはり出張から帰って間も無い春の夜だった。
その夜、風呂上りの私はテレビの前に座り、コンビニで買ってきた日本のお菓子を肴に久しぶりの日本のテレビ番組を楽しんでいた。
少しづつテンションが上がり、テレビに向かってツッコミもちらほら出始めたその時、
ひゅっ、ばさ。
突然天井から何かそれなりの大きさのものが近くに置いてあったコンビニの袋の上に落ちてきたのだ。
それはあまりにも突然で、そしてあまりにも近かった。
ショックで一瞬体を痙攣させた私はそれ以上動くこともできないまま、コンビニの袋の上に乗っている真っ黒の物体をまじまじと見つめた。
黒々と光る羽根、細く長い触角、それは体長7センチにもなる成虫のチャバネゴキブリだった。
なに?なんで?
何が起こったのか、私は全く理解できないまま、その姿をまじまじと凝視していた。
そして不思議なことに、コンビニの袋の上に乗ったまま、そのゴキブリも全く微動だにしなかったのだ。
10秒、20秒、、、呆然と見つめ合っているうち、私は落ち着きを取り戻していた。そして落ち着きを取り戻した私の中からその珍入者への怒りが静かに込み上げてきた。
「何見てんだよ」
「、、、」
「逃げろよ」
「、、、」
「っていうか何落ちてんだよ、ゴキブリが」
「、、、」
「、、、やっちゃうよ?」
「、、、」
そして私はやるべき事をすることにした。となりの部屋へ行き、布団叩きを持ってくると一撃でそれをしとめた。奴は最期まで抵抗しなかった。ティッシュにくるんでゴミ箱に放りこんでしまうと、さっきまでそこにいた事すら現実の事だったのかと疑ってしまうほどだった。
私はしばらくの間ゴミ箱を眺めながら考えた。一体あれは何だったんだろうかと。
今でもゴキブリと聞くと奴のことをしみじみと思い出す。天井から落ちた哀れで馬鹿なゴキブリ。でも本当にそうだったんだろうか。最近、私はこう考えるようになってきている。
奴は身投げをしたのではないだろうか。
「俺はもう十分生きた、いっそひと思いにやってくれ」
あの沈黙がそう語っていたように思えてしかたが無いのだ。
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