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カナヘビ

私は小さい頃から生き物が好きだった。今のダイビング好きもそこから考えると至極当然の事だと言える。子供の頃は部屋では飽きる事無く図鑑を見、休 みの日には野山へ行って昆虫、ザリガニ、そしてトカゲ等を採って遊んでいた。採って来た生き物は大体水槽に入れて飼っていたが飼育方法など全然分からず、 ほとんど死なせてしまっていた。今思うと残酷な事をしていたと思う。私がダイビングを生涯の趣味として選んだのも「飼う」という行為への反省がある。 「行って、見て、何も採らない」このダイビングのマナーを守って行きたいと思っている。

今回はそんな私のハンティング遍歴の中でも最大のものを紹介し、自戒のためにここに残しておきたい。

小さい頃、「まつお」という友達がいた。昆虫採集やザリガニ釣りはいつも一緒に行っていた。悪い事をする時も必ず一緒だった。危ないから行っては行 けないと言われていた所に行っては虫やザリガニを採ってくるので親からは「悪い友達」というレッテルを貼られていた。だが大体悪い友達といる時の方が楽し いものなのである。「良い友達」もいて時々遊んだが、全然面白くなかった。私にとっての「スタンド・バイ・ミー」に登場するのは必ず「まつお」なのだ。

この日も彼と遊ぶ約束をしていた。彼の家の前に行ってピンポンを鳴らす、ぶっきらぼうな声で出たのは彼の母親。太っていて派手だったこの人が私はかなり苦手だった。暫くすると彼が出て来た。出てくるなり彼は言った。

カナヘビものすごいたくさんおるとこあんねん、いこーでー。

彼はいつもこういう情報をどこから仕入れてきていたのだろうか、当時から私は不思議だった。末っ子でお兄さんが何人かいたので多分その辺がソースな のだろうが、長男で年上との付き合いがあまり無かった私にとって彼のこういった所も魅力だったのだろう。私は一も二もなく行く事にした。

目的の場所とはいつも遊んでいる所からはちょっと離れた所、小学校の前の緑道を最後まで行った所にある団地の敷地内にあった。団地の裏、草も刈られていない所が枯れた草で黄金色の草原になっていた。

私はまつおに誘われるままにその草原に入って行き、膝ぐらいの高さの枯れ草をかき分けて探してみてびっくりした。本当にカナヘビがいたるところにいたのだ。

カナヘビをご存じない方のために説明しておくとカナヘビは蛇ではなくトカゲの一種である。いわゆるトカゲはしっぽの先の方が青くなっているのが普通 だがカナヘビは全体が茶色い。そして腹は黄色か真っ白である。トカゲよりも体や手足が細長く、見てみれば確かに足の生えた蛇と言う感じである。

日頃は山や野原に行っても数匹しかみかけないカナヘビがこの時は草原の至る所に、しかも信じられないような密度で発生していた。その時には気付かな かったがどれも小さな個体だったので生まれたての子供達だったのだろう。大量に産みつけられた卵が一斉に孵ったのが原因ではないだろうか。

とにかく、見た事も無いようなカナヘビの大群に興奮した私は持って来たスーパーのビニル袋に手当りしだいにカナヘビを捕まえては放り込み続けた。そ れはまるでパチンコのフィーバーのようだった。まつおと私はその草原で日が暮れるまで、どれだけカナヘビを捕まえられるか、ただそれだけを競い合った。

日が傾き、手近な範囲で捕れるカナヘビが少なくなって来た所で我々はカナヘビ採りを中止した。いまだ興奮冷めやらぬまま、カナヘビでいっぱいのビニル袋に満足して我々は帰宅の途についた。

帰宅の途中もまつおと私はずっとこのカナヘビ大発生について熱く語り合っていた。まつおの家の前で我々は別れ、私は勇んで自宅に帰った。この大収穫をおかんにも見せてやらなくてはいけない。私は家に帰り着くや否や声を上げておかんを呼んだ。

おかーさーん、カナヘビとってきたー。

あんたまたかいな!!ちょっと見してみ、、、、

ぎゃぁぁぁぁぁー!!!

そこにはスーパーのビニール袋の中でのたうち回る百匹近いカナヘビの姿があったのだ。おかんが叫んだのも無理は無かった。

しかもビニール袋の中に詰め込まれてすでにぐったりしている個体も多かった。本当に子供とは残酷なものだ。

だがおかんも伊達に30年以上関西人をやってはいない、立ち直りは結構速かった。

こんなん飼えるわけあらへんやろ!!すぐ捨てて来な!!

私はしばらくの間、おかんを説得して何とかカナヘビを飼おうとしたが、おかんの決意は固く、最後には仕方なく捨てる事になった。

だが私は面倒くさがりな子供だったのだ。私はこの時、適当にこの可愛そうなカナヘビ達を処理し、何食わぬ顔で家に入った。

すててきたー。

そしておかんは今ひとつそういった私の性格をつかみきれていなかった。

早かったのねー、手ぇ洗いなさーい。

このようにして一日は無事に終わった、、、かに見えた。

そして次の日、私はもうすっかり前日の事など忘れて部屋で遊んでいた、すると、、、

けんし!!!!!!!

庭からおかんの声がする、不穏な気配、しかしその声には怒りにも増して切羽詰まった気配があった。

私は嫌な雰囲気を感じつつ庭に出た、すると、、、

あんたあのトカゲ庭に逃がしたやろ!!

正直に言おう、私はおかんが何でそんなに怒るのか全然分からなかった。

え、だってすててきなてゆうたやん、、、

私はすぐに言い訳を言う子だった。そしておかんはすぐ言い訳を言う子供がすごく嫌いだった。

元の所へ捨てて来なって言うたんや!!

だが私は知っている、おかんは前日、「元の所へ」とは一言も言っていなかった。だがこうなってしまったら最早何を言っても無駄なのだ。

庭中トカゲだらけやないの!!どないすんのもぅ!!

今思うと確かにそれは大変な事だった。庭いじりが趣味だったおかんにとっては正に庭は聖域だったのだ。

しかし当時の私にとっては「庭でカナヘビが見られてええやん」ぐらいのものだったのだ。正直に言えば今でもその気持はあまり変わっていない、だって伊豆でマンタが見れたらええやん。「庭に生き物足したった」というのが私の正直な気持だったのだ。

おかんは怒ってはいたが、それよりも途方に暮れていたという感じだった。庭中に散ってしまったカナヘビを「全部取って捨ててこい」とも言えず、結局のところは泣き寝入りすることになった。

私はその時、「これから毎日カナヘビが見られるのかなー、どんどん増えて大きくなるかもなー」と思ってとても楽しみにしていた。しかしカナヘビはそ れから1週間もたたないうちにすっかりいなくなってしまった。やはり元と違う環境では生きていけなかったのか、それともカナヘビは元々たくさん産んで少し だけ生き残るという繁殖方法なのか。

その後、私は二度と同じようなカナヘビの爆発的発生に遭う事は無かった。今ではカナヘビを見る機会自体が少ない。東京に引っ越して、まつおにももう 20年以上会っていない。大阪の家とそこでの生活を思い出す時、おかしさとそして少しの切なさと共にいつもこの話が思い出されてくるのだ。


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