電話は嫌いだ。特にかけるのは。
あの、トゥルルルル...という呼出音を受話器越しに聞いている時の状態。
何とも形容し難い緊張感というか、不安感というか。
突然、相手の状況に関係なく飛び込んでいくのですから。
また、電話をしている時の人の様子もなかなか奇妙である。
そばにいる人達は同じ空間を所有しているはずなのに、電話している人だけ別の空間をつくっている。
なにやら、ちいさいモノを耳にあてて、そこから聞こえてくる音声を聞いて、そのモノに今自分が置かれている空間とはなんの脈絡のない言葉を発する。そして、突然ゲラゲラ笑い出したりする。
そのモノから発せられる音声を共有すればある程度空間を共有できるのだろうが。
そもそも、電話なんて単なるモノとしか見ていない。電話で会話するというのは、人と人の間に電話という伝達役がいるのである。
もし伝達役が人であれば、Aさんは伝達役のCさんに「Cさん、Aがかくかくしかじかだと、Bさんに伝えてください。」と依頼する。
しかし、伝達役のCさんは、Bさんに「Cさん、Aがかくかくしかじかだと、Bさんに伝えてください。」とオウム返ししかできないのである。
そこで、Aさんは伝達役のCさんに「Bさん、かくかくしかじかです。」というようになる。
これは、通訳を介した会話と同じである。
いくら伝達役のCさんが声真似が上手でもBさんと直接話しているとは感じない。
Cさんが機械ならなおさら。
よく、留守番電話のメッセージが本人の声で、「はい、もしもし○△ですが、...(ちょっと沈黙)...ただいま留守にしています。メッセージをお願いします。...ピーッ」なんてのがあります。
思わず、沈黙のところであたかも相手が電話に出たと思って話し掛けてしまう。
かなり虚しいものがあります。
所詮そんなもんです。話している相手はただの機械。機械に話し掛けて機械が発する音声と会話してるのです。機械が発声する内容は、リアルタイムで話をしていると思い込んでいる人が音声入力しているだけ。たまに、録音テープを流すが。
テレビでよく見るビデオレターや、テレビ電話などは、電話以上に虚しさを感じる。
テレビに出演するレポーターやキャスター、役者などには感心させられる。
カメラというモノに向かって、あたかも誰かがそこにいるように語りかけるのだから。
View from the Hill | 008 | 010