「明日できることは今日やらない」という体質が災いし、荷造りが終ったのが午前3時過ぎ。7時過ぎには家を出なければならないので、このまま布団に入って寝たらおそらくアウト。というわけで、ソファで2時間ほど仮眠しただけで空港へ向かった。
空港の待合室で、まったく同日程で聖地に出向かれる読者のI氏と合流。お会いするのは初めてだが、旧知の間柄のように打ち解ける。まぁ、当団が取持つ縁とはこのようなものだ。
オーストリア航空の聖地直行便は、定刻11:30に出発。9割ほど席の埋ったエアバスA340の機内は快適だが、隣りのおじさんが落ち着きのない人で、私の"領域"に体を進出させてくることから、終始身を硬くして過ごすハメに。
12時間後の聖地時間15:30、厚い雲を突き抜けてシュベヒャート空港に無事着陸。
I氏とリムジンバスで市内へ。前回ほどではないが、さすがに寒い。
I氏は、元々は今日のオペラ(フィデリオ)を見る予定はなかったのだが、立見に初めてチャレンジしてみるのもいいかも、ということで、後程、国立歌劇場の立見席で再会することを約束して一旦別れる。
30日に友人がやって来るまでの最初の2泊は1人。その2泊を過ごすホテルは、ショッテントーア駅近く(フォティーフ教会裏)のレギーナ。見るからに「クラシック」な格調高い雰囲気の四つ星ホテルだが、私に与えられたシングルルームは超せま。身長180cmの私がベッドに横たわると、足が壁に付いちゃうくらいだから、かの地の"大男"たちは、どんな格好で寝ているのやら。
到着早々の私の仕事は、今晩の争奪戦参加の準備。要は、"どこから電話をするか"ということだ。
まずは、ホテルの部屋から確認ということで、成田で買ってきたKDDの「スーパーワールドカード」をテストする。このカードは、裏面に記載されたカード番号と先方の電話番号をダイヤルすることで、カードの代金分の通話が可能になるというもの(私は3000円のカードを購入)。これを利用して部屋から電話できれば、寒い中外に出なくて済むわけだから大変助かる。
部屋にある電話機(一応プッシュ式)を取り上げ、カード番号と自宅の電話番号をプッシュ。しばらく待つと、「はい、こちらはKDDでございます」とオペレーターが出るではないか。これって、直通通話ができるんじゃなかったの?お姉さんに聞けば、かけてるホテルの電話がダイヤル回線のため、プッシュしている番号を自動認識できないのだという。で、オペレーターが出てしまうと。
というわけで、部屋からの電話はダメであることが判明する。だって、話し中で何度も掛け直さなきゃいけない争奪戦電話を、いちいちオペレーターにつないでもらうんじゃ話にならんでしょ。
さらに間の悪いことに、同封の解説書を読むと、このKDDカード、オーストリアに於いては、公衆電話からは使えないらしい。
これで、このカードの使用は完全にアウトであることが決定。あとは、クレジットカード公衆電話しかない。
というわけで、オペラへ向かう道すがら、ホテル付近から国立歌劇場付近まで、クレジットカード公衆電話の所在を確認しながら歩く。(写真は、ケルントナー通りのイルミネーション。クリスマス商戦"たけなわ"で、街中とてもきれい)
その結果、すべてではないが、各"電話ボックス溜り"に1台くらいずつはクレジットカード電話があることが判明。とりあえず、電話できる場所があることは確認できた。が、外は気温0℃の世界。さらに、争奪戦開始は、聖地時間の午前2時。できれば、外のボックスは避けたい。
そこで、大きなホテルのロビーに的を絞り、クレジット電話がないかの確認を続ける。ホテルのロビーなら、暖かい中で電話ができるし、外のボックスにいるよりは安全だし。が、これがないのだ。大き目のホテルのロビーを覗いて歩くのだが、それらしい電話の姿は確認できない。
うーむ、これは「深夜の電話ボックス」が確定かもしれない...
そこまでの状態で、国立歌劇場の「フィデリオ」に駆け付ける。先に入っていたI氏に場所取りをしていただいたおかげで、"いつもの位置"に近い場所に陣取ることができた(I氏多謝)。
開演5分前、ホルン会の面々が姿を現わす。最初に姿が見えたのがロナルド。ということは、ラルスは今日は降り番か、と思ったらラルスも出てきた。ん?ということは、ロナルド1番でラルスが3番?しかし、ラルスが腰掛けたのは2番の席。な、なんと、ロナルド&ラルスという1・2番コンビでの演奏になるようなのだ(後日確認したところでは、本来2番を吹くはずだったぜルナー氏の都合で、ラルスが代役を務めることになった由)。
何それ?と多少困惑しながらピットを見下ろしていると、ラルスが上を見上げて私を探してくれている。サッと手を挙げると、彼もヨッと手を挙げて、いつもの挨拶が完了。隣りで見ていたI氏、「これが例のアレですか」と感心頻り。
ラルスの2番ホルン、という事態に多少困惑気味の私であったが、それに追い討ちをかえるように、さらに困ったことを発見してしまった。ラルスが、アレキサンダーのウィンナを持って出てきていたのだ。
実は、敢えてナイショにしていたのだが、彼が、この春あたりからアレキを使い始めていたことは知っていた。彼が言うには、「日本で君らが吹いたものとは全然違ういい楽器だ」とのことなのだが、私にとっては「魂がない」とこき下ろした楽器である以上、心境は複雑なものがあった。
しかし、夏の草津で、彼がいつものアトリエ・ハーローを持参し、「アレキはもう使わない」と宣言したことにより(宴会の席上で彼がこう言った時、思わずウィンナホルン会全員で拍手喝采したのには笑ったが)、あれは単なる"お遊び"だったのだな、と安心していたのだ。が、それなのに...
まぁいい。あとで真意を確認しよう。そう気持ちを切り替え、「フィデリオ」に集中することにした。ちなみに、ホルン会残りの陣容は、3番プファイファー、4番御神体。御神体、お元気そうで何より。
序曲が始まり、例の2番ホルンのソロがやってくる。ラルス、まったく問題なく軽々と吹いてのける。まぁ、当たり前と言えばそれまでだが、ほんとに巧い。ただ、音はだいぶ「軽い」感じがする。ラルスも楽そうに吹いている。そう、吹くのが楽な楽器なんだろう。"そういう音"がするよ。でも、それって「あるべき姿」なのか?
演奏はなかなか良い。指揮者は、常連指揮者(常任に非ズ)のハーガー。当団からは邪険な扱いを受けてる(らしい)ハーガーだが、なかなか骨太な音楽を聴かせるので、私自身は結構好きだったりする。
御神体は、時々フレンチホルン(いつものオットーではなく、見たことない5ロータリーのガイヤータイプ)に持ち替えながらも(1幕の数曲のみ)、あの、存在感ある「アルトマン低音」を響かせまくっていらっしゃる。ロナルドも、隣りのラルスに刺激されてか、いつにない"攻め"の演奏(どうでもいいけど、この2人、吹いてない時は終始しゃべりっぱなし。まぁ、仲が良いことは結構なことだけどね)。1人プファイファーだけが、相変わらずのぶら下がり音程でショボいのだが、まぁ、これは織込み済のこと故、気にしても仕方ない。総じて満足できる演奏内容で、大変楽しく巡礼初日の夜を過ごさせてもらった。
ところで、2番フルートを若手女性奏者が吹いており、これが例の彼女か、としげしげと観察する(NEWS欄5月2日号ご参照)。でも、別にどうってことない普通のフルート。ラルスによれば、「舞台オケの人だろう」ってことで、名前も知らんのだとか。「いずれ入団」は、なしか?
そうそう、2幕と3幕の幕間に演奏された「レオノーレ3番」の時のこと、例のフルートのソロ(ラッパのファンファーレの後)の最後の伸ばしの音(実音D)を、通常、当団では2番吹きが代わって吹くことになってるのだが(シュルツは別かも)、このお姉ちゃん、その「慣例」を知らなかったようで、吹かなかった。おかげで、ソロのフルーリーは途中で息がなくなってしまい演奏終了。お姉ちゃん、慌てて楽器を構えたものの、フルーリーに「もういい!」って感じで制されてしまいショボン。後日(12月3日)、同じ「フィデリオ」を見た時の2番はフォーグルマイヤーだったが、こちらは"当然"の如く伸ばしを吹いた。吹き終った時には、"助けてもらった"フルーリーから、右手をサッと挙げる「ダンケ!」のポーズも出て、そう、これこそが当団のあるべき姿。お姉ちゃん、まだまだ修行が足らんでっせ。
終演後、楽屋口でラルスと再会。が、今日は疲れてるからってことと、今晩争奪戦に参加しなければならないからってことで、明日のオペラ終演後に時間を作ってもらうようお願いし、快諾を得る。争奪戦のこと、呆れてたけどね。
ラルスと別れた後、再度電話探索に出発。ヒルトンホテルあたりだったらあるんじゃないかと思い、市電で移動。ロビーを探してみると、ありましたよ、クレジットカード電話が。近くにはソファも置いてあるから、疲れたら休むこともできる。はい、これで決定。
一旦ホテルに戻り、体を休めた後、午前1時半に再出発。タクシーでヒルトンに移動し、いよいよ争奪戦参戦。現地時間午前2時に電話開始。が、やっぱりつながらない。カードを通してはボタンをプッシュを繰り返すこと25分。が、結局つながらず。
ここで、ちょいと一休み。夜中だってのに、ロビーは結構賑わっていて、横を歩いていく人たちは「コイツ何やってんだ?」って感じで眺めて行く。仕方ないじゃん、これが私の生きる道なんだから。
3分後再開。そろそろつながってほしいなぁ、とつぶやいてプッシュした途端、つながった。
まず、最も人気が集まるだろうと予想したモーツァルト・プロ(3/17)を確保。その後、極めて順調につながって(約10分置き)、シュトラウス・プロ(3/18)、シューマン&ショスタコ・プロ(3/16)の順に確保。結局、3時10分頃には完了してしまった。なんか、あまりの呆気なさに、嬉しいというよりも、何なのこれ?って感じ。
しかし、さすがに体は限界。タクシーに飛び乗ってホテルに戻り、即刻爆睡。長〜い1日がようやく終了したのだった。お疲れさん。