フォルカーの部屋 - 98聖地巡礼日記11/29 -

11月29日(日)


争奪戦を勝利したことによる心地よい疲れにより、というよりも、前日の無茶が祟って爆睡。結局、目が覚めた時には10時を回っていた(と言っても睡眠時間は7時間ってとこだけど)。ホテルの朝食時間はすでに過ぎてしまっているので、食事をするためにも、とにかく外に出ないわけにはいかない。身支度をして、11時過ぎにホテルを出る。

出掛けに、今回の巡礼を手配してくれた旅行代理店のS氏(なんのことはない、毎度お馴染みS氏@不協和音なんだけど)からのFAXを受け取る。実は、明晩と12月5日の当団演奏会のチケット手配を、S氏を通して現地エージェントに頼んであるのだが、ホテルに届くはずのチケットがなぜか届いて来ず、心配になったので調査をお願いしていたのだ。S氏からの連絡では、チケットは明日ホテルに届くとのこと。当日受け取りになるのが少々不安だが、まぁ、S氏にお願いしている以上大丈夫だろうと安心する。
が、FAXには、もっとヤバい事態の話が書いてあった。30日に合流する友人A氏(ウィンナホルン会メンバー)の乗る飛行機が遅れるというのだ。なぜこれがヤバいかというと、計画では、A氏は、16:00空港着→17:00ホテル着→19:30ムジークフェライン(MV)での当団演奏会ということになっており、飛行機の遅れは、イコール夜の演奏会の危機となってしまうからなのだ。
現時点では2時間遅れの予定ということから、であれば、A氏には直接MVに行ってもらうのが良かろうというのがS氏の見解。A氏、初めての聖地だってのに、いきなりスーツケース抱えてMVに乱入ではあんまりだとは思うが仕方がない。しかし、飛行機がそれ以上遅れることになると... その場合は、私がA氏分のチケットを誰かに売りつけなければならなくなるわけで、少々気が重くなる。A氏が無事到着してくれるのを祈るのみ。

争奪戦の国内協力者の皆さんには、その戦果を携帯電話の留守電に入れておいてくれるようお願いしていたので、その確認を行う。メッセージを聞くと、結構これが皆さん取れちゃったようで、もしかして「余剰」が出るかな、と心配を始める。聖地まで来て何心配してんだかって感じもあるが。
その後は、食事したり街中をふらついたり。日曜日だってのに、意外に開いている店が多く驚く。以前は、土曜の午後から日曜一杯は、レストランやカフェを除いて、店という店が完全に閉まっていたはずなのだが。

そんなこんなで、3時過ぎにはホテルに戻る。で、持参したCDを聴きながら、今晩のオペラ「ラインの黄金」の予習。何せ、まともに聴いたことない曲だから、行きの飛行機の中で予習しようと思い、CD("当然"ショルティ盤)とCDウォークマンを持参したんだが、オーストリア航空は、機内でのCDプレーヤーの使用が一切禁止ということで、機内で聴いてくることができなかったのだ。もちろん、本当はもっと前に家で予習するつもりで、スコアまで買っていたのだけど、結局こうなっちゃったわけで、ここまで来て「一夜漬け」とは、まったくもってトホホな話。

CDを聴きながら国立歌劇場へ移動。全曲聴き終わったところで開演15分前。いつもの場所に陣取って(5階立見席はかなり閑散)、メンバーのメモを始める準備をしたところに、オケの面々が入場してきた。
ホルン会の陣容は、ホルンが、ロナルド→フラダー→プファイファー→御神体、ホルン/ワグナーチューバが、ラルス→ロレンツィ(舞台オケ)→ゼルナー→ホルヴァート。
他のパートも大編成ゆえ、ピット内は満員御礼状態。隣り合わせに座ったラルスとロナルドは、今日も仲良くおしゃべり。他のメンバーも、にこやかに音出しをしており、これからワーグナーの大作が始まる、それを演奏するという気負いはまったく感じられない。彼らにとっては、あくまでの日常のヒトコマということなのだろうが、この辺、よくよく考えるとすごいことだと思うよ。
今日の指揮は準・メルクル。我が国では、N響を振って名を挙げたメルクルが、当団からどんな音を引き出すのかが楽しみなところ。
演出は、ドレーゼンによる、'92年にドホナーニ指揮で初演されたプロダクションのもの。同じプロダクションの「リング」では、「神々の黄昏」を'93年に観ているので(指揮はルニクルス)、これが2演目めとなるわけだ。

メルクルが登場して曲が始まる。冒頭は、ホルンによる「自然の動機」(で良いのかしら?)が幾重にも織り重なって行く幻想的な部分。最初に吹くのは8番ホルンのホルヴァートだが、最初の低音(実音Es)はきれいに出たものの、一番上がりきった音(実音G)になると途端に"ナマ音"になっちゃうという、とてもプロとは思えない"ていたらく"で、「おいおい、それじゃ俺らと一緒だよ」と思わず笑ってしまう。まぁ、これも当団の楽しみではあるのだけどね(ホントかよ??)。
しかし、以降のホルン会は見事な出来映えで、十分に堪能。ワグナーチューバ4人の響きも、「あぁ、これだよなぁ」って感じ入る素晴らしいものだった(ちなみに、いつもは対面に陣取るチューバ[ピサルキヴィツ]が、この日はホルン会の後ろに座って吹いていた)。
全体としては、歌手陣には、イマイチ歌の安定しない人や、声が通ってこない人も見受けられたが、メルクルは、オケ全体をしっかり統率して、とてもキレのいい音を引き出しており、少なくともオケに関しては、なかなか充実した演奏だった。と私は思ったのだが、後でラルスが言うには、「とにかく歌手が酷かったし、オケも小さなミスがたくさんあって良くなかった。指揮も、ダラダラと遅くて、もっと前へ進んで行かないと...」とのことで、この辺、ずいぶん見解が分かれてしまったのだけどね。

そのラルス、今日の楽器はアレキではなかった。昨日とは違って、音の密度の濃い、とても存在感のあるいい音を鳴らしていた。時々ロナルドのアシもこなしながら、快調に演奏を続けていた。「やっぱりあれは一時的なもんだったんだな」と私も一安心(が、この話、もう少し"続き"あり^^;)。
あとは、やっぱり御神体。満員御礼状態のため、ピットの端っこ(下手奥)にちょこんとお座りになって演奏を続けていらっしゃるわけだけど、ほんと、しっかりと、その"音"が、"彼の音"が通ってくるんだから感心するばかり。やっぱり偉大な下吹き奏者です、フォルカー氏は。

終演後、昨日の約束通りラルスと合流。I氏と共に、前回の巡礼の時にも連れて行かれた、歌劇場近くの飲み屋へ移動する。
話のきっかけにと、発売されたばかりのフィルハーモニック・ウィンド・オーケストラ,ウィーンのCDを取り出し、「これ、もう聴いた?」と尋ねると、「いや、まだだよ。イサカさん(カメラータの井阪社長)が今月やって来るんで、その時に持って来てくれるんだ」とのこと。「オマエは聴いたのか?」と言うので、「もちろん!」と答えると、「で、どうだった?」とちょっと気にする素振り。「4人のホルンの響きがとにかく素晴らしい」と率直な感想を伝え、「なんなら聴いてみる?」とCDウォークマンを取り出すと、「チョットダケネ」と言って聴き始めた。
というわけで、写真は、自身の演奏を確かめるラルス。ほんとに「チョットダケ」聴いてたけど、満足そうにうんうん頷きながら「グート!」と言ってました。
ソリストの1人、最年少イェブスル君のことを話しながら、「やっぱ、彼はいずれフィルハーモニカーになるんだろうねぇ?」と話題を振ってみると、ラルスは、「そうかもしれないが、若手でなんと言っても一番巧いのはマイヤー。だから、彼が入団してくると思うし、自分もそう望んでいる」とのこと。明日聴く予定のメータ&バレンボイムのブラームス ピアノ協奏曲第1番でも3番ホルンを吹いており、それが「実に素晴らしい!」とのことなので楽しみだ。

ところで、肝心なことを確認しないわけにはいかないので、昨日の「アレキ使用問題」について尋ねてみる。どんな弁明をするのやら。
私「昨日の楽器、アレキだったよね?」。ラルス「そうだよ」。私「なんでアレキ吹いたの?」。ラルス「アイ ドン ノー! ケースを開けたら入ってたんだ(笑)」。なんやそれ!?!? というわけで、結局、"回答"は適当にはぐらかされたって感じ。でも、当人が言うには、「昨日は口のコンディションが悪かった」とのことなので、"吹き口の軽い"アレキを選択したんじゃないかな、というのが、私の"見立て"。たぶん、そんなところだと思うよ、ほんと。
話の流れの中で、アレキの音の話になる。彼の見解は以前同様で、「音は悪くない」ってやつだったんだけど、彼から「オマエはどう思うんだ?」という問い掛けが発せられた。私、待ってました!って感じで、「私の意見だけどね...」と語らせてもらいました。
「確かに音は悪くないと思う。でも、聴いてて音が軽い感じがするし、なんか、あなたがとてもイージーに(「楽に」という意味で使ったんだけど)吹いてる感じがするよ。私は、ハーローの音の方がいいと思うけどね」。それを聞いてのラルスの反応は、「ふーん、なるほどねぇ」。さらに、「音は、通って聞こえてくる?」っていうから、「それもハーローの方が上」と答える(実際そうだし)。
結局、ラルスからは、「自分では、すぐ側で鳴ってる音しか聴けないから、会場で聴いてる人の感想は役に立つよ」って総括がされて、この話はお仕舞いに。まぁ、でも、私としては、思っていたことをビシッと言ってやったので(おいおい^^;)満足。これできっと、今後はアレキを吹かんでしょう(んなわけないって^^;)。

語学堪能な盟友T氏が遅れてくるためアテにできず、果たして会話が成立するのか?と心配していたのだが、この後も意外に話が弾み、彼のプライベート上の衝撃の新事実(大袈裟^^;)やら、大呆れ話(ほんとに呆れるよ、あれには)に大笑いしたりして過ごす。
が、残念な事も判明して、それは、来年5月末からに予定されている、ウィーン木管アンサンブル(木管五重奏)の来日公演に、彼が帯同しないということ。メンバーから外れたわけではないそうなのだが、来年のその時期は目茶苦茶忙しいので、日本に行くことは不可能なんだと。「えぇ〜!」と残念がる私に、「だって仕方ないじゃないか、ほら!」とスケジュール表を見せ、「なぁ?」と同意を求めてきたのにはちょっと笑ったけどね。
ちなみに、その時期、当団はアーノンクールとのブルックナー7番のレコーディングを予定していて、リハーサルを含むその日数が確かにすごい(1週間くらいあったような)。ラルスは、ワグナーチューバを吹きたいらしく、そのためにも、日本には行けない(行きたくない?)ようなのだ。
「では、代わりに誰が来るの?」と聞くと、「わからん。が、多分フラダーじゃないか」だと。自分の代役を、自分で立てるわけじゃないんだね。ちょっと変な感じもするけど。

ところで、今回私は、ラルスにリクエストしてみたいことがあった。それは、週末に予定されているラトル&ブレンデルの演奏会のリハーサルを見学させてもらえないかということ。
で、それをラルスにぶつけてみると、「大丈夫だと思うよ。今まで駄目だったことないし」ってことで、あっさりOK。火曜日(12月1日)から4日間行われるということで、それをすべて見せてもらうことになった。
リハーサルの見学自体は、結構日常的に行われているようなのだが、当団もしくは当団関係者に"知り合い"がいないことにはなかなか入れない。ついに念願叶うわけだが、同時に当団の「身内」にもなれたような気がして、とても嬉しい。それに、明日から土曜日まで、連続してMVで当団の音を聴けるってことにもなるし。いやぁ、ありがたい話だ。

気がつくともう12時近く。そろそろお開きにしようということで外に出る。ラルスとは店の前で、I氏とはケルントナー通りの途中で、それぞれ「じゃぁ、また明日」と別れたのだが、飲み口が軽いのをいいことに、飲めないビールをクイクイ飲んでた私は、その後一気に酔いが回ってフラフラ状態に。とても歩いてホテルに帰れそうにはなく、タクシーに飛び乗ってグッタリ。ホテルに帰り着くなり"死んだ"のは言うまでもないのだった。


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