フォルカーの部屋 - 98聖地巡礼日記12/01 -

12月01日(火)


今日からA氏が一緒。明日になると、出張先のメキシコから移動してくる盟友T氏が合流するから、晴れて「全員集合」ということになる。
A氏は聖地が初めて。ということで、せっかくだからある程度の「観光」はしておきましょうということになり、私が案内役を務めることに。14:15にはMVに行かなければならないので、それほど余裕があるわけではないのだが。

10:00頃にホテルを出発。が、これといったプランがあるわけではなく(いい加減!)、まぁ、とりあえずは、最も"近場"のシュテファン寺院からということで中を覗く。
その後、まずは当団諸氏を輩出した場所に敬意を表そうということで、コンセルヴァトワール(市立音楽院←でいいのかしら?)とホッホシューレ(国立音大←"くにたちおんだい"じゃないよ^^;)という、聖地の2つの音楽大学に出向き、ちょっとだけ中に入ってみる。コンセルヴァトワールの方は、入口がガラス扉に改装され、開放的な雰囲気に。以前は、そこが大学だと言われない限り中を覗くことなどできないような作り(聖地に一般的な木の扉)だったわけだが、すっかり様相が一新。これまた"ドブリンガー状態"でびっくりというところ。

以後、市立公園で音楽家銅像巡り(写真は、言うまでもなく"有名な"J.シュトラウス像。ん?でも、なんか妙な人影が...^^;)→往年の名録音スタジオソフィエンザールを外から見学→その延長線上にあるフンデルトヴァッサーハウスとクンストハウスと見て歩き(完全に行き当たりばったりだなぁ)、市電で(なぜか)ショテントーアまで行って、その時点で、そうだ!12時のアンカー時計を見に行こう!ということを決める(ほんとに行き当たりばったり)。
そこで、リンクの中へ向かって歩き出したわけだが、かれこれ2時間近く外を歩き続けていたので、さすがに寒い。そろそろ暖まりたいな、と思ったところに出てきたのが、ハラハ宮前のクリスマス・マーケット。人が集まり、マグカップで何かを飲んでいるスタンドがあるのだが、そこには「Tee」の文字が。
「紅茶屋みたいだね。飲んでいこうか?」。私、A氏に提案。A氏も同意。
壁の"お品書き"にあった「Orangeナントカ Punsch」ってのを注文。オレンジ風味の紅茶、というのが、その時点での私の認識。スタンドのお姉ちゃんがカップに"紅茶"を注いでいる。が、そのカップを渡す時に、お酒(果実酒っぽかった)の瓶を見せて「これ入れる?」って聞くんだな。"紅茶"に酒は入れんでしょう、ってことで「いらない」と答え、カップを受け取る。で、一口飲んでタマゲタね。無茶苦茶甘いやんけ!
想像していたものとまったく違うその味にびっくりしながらも、とりあえずは暖まったからいいか、ということで再び歩き始める。しかし、あのPunschって飲み物はナニモノなんだ??

アンカー時計→昼メシ→市庁舎前のクリスマスマーケットなんてのを見てる間に約束の時間が近いてしまい、結構慌ててMVへ行くはめに。MVに到着すると、すでにラルスが「チケット」を用意して待っていてくれた。当団事務局発行の"手書きチケット"(←後日公開予定)が、リハーサルの入場許可証となるわけなのだ。

今日のリハーサルは、前半がヤナーチェクで後半がベートーヴェンだそう。ラルスは、ヤナーチェクのみ出番で、かつ、今晩のオペラ(エレクトラ)は降り番なので、ヤナーチェクの練習が終ったらサッサと帰るという。私、彼に、ある"業務連絡"を行なわねばならなかったので、「それじゃ、我々もヤナーチェクまで居て帰るから、その後ちょっと時間もらえる?」と聞くと、「OK!」と快諾。じゃぁ後で、と別れて、現地合流の読者I氏を含めた3人でホール内に入った。

「後ろの方で見ててくれ」というのがラルスからの指示だったので、1階左バルコニーの最後方ブロックに陣取って見学開始。舞台上にはすでにラトルが姿を見せ、何人かのメンバーと打合せ中。が、一方で、客席後方(立見スペースの横)にあるバーで一杯やってるメンバーもいたりする("余裕"のある人たち?)。ゼネラル・マネージャーのペヒャ@ヴィオラが呼び鈴を鳴らして、バーにいるメンバーを呼び戻し、予定通り14:30にリハーサル開始。ちなみに遅刻者はなし。たいしたものだ(当たり前か)。
というわけで、写真はリハーサル風景。右端に、出番がない時に会場で音を聴く御神体の姿がうっすらと...(わかんないって^^;)。

最初にヘルスベルク団長(この人は降り番)、次にペヒャ氏が何事かコメントして、メンバーからラトルに拍手。ラトルが御礼(たぶん)のコメントをしてメンバーを笑わせた後、いよいよ曲が始まる。
ヤナーチェクの「シンフォニエッタ」には、冒頭と終結部に、トランペット×9、バストランペット×2、テナーチューバ×2、ティンパニというバンダ(別働隊)が入るのだが、今日はバンダなしの模様。よって、バンダのない2曲目からスタート。

「シンフォニエッタ」は、決して易しい曲ではない。その曲を、ラトルは、かなり"快調な"テンポで進めて行く。が、オケはそれに付いていくのがやっとという感じ。音はバラバラ、アンサンブルはヨレヨレ。まぁ、この辺は「案の定」というところだ。それでも、2回目、3回目と進むたびに、だんだん音がまとまってきて迫力を増してくる。それに合わせてホールも鳴り出した感じがするから不思議だ。

ラトルの練習は、結構細かく指示を出してのもの(練習番号や小節数はドイツ語で、他の指示は英語で)。個人やパートをつかまえて弾かせる(吹かせる)ところもあって、人(パート)によっては、かなり「ヤバい」状況だったりもする(本人[たち]の名誉のため、敢えて名前は伏せるが)。
最初から問題ない人/パート(ホルン会やトランペット)、練習が進むうちに改善されて行く人/パート(ヴァイオリンやトロンボーン)、ヤバいままで心配になる人/パート(だから、名前は伏せるって^^;)といった感じに分かれる状況は、我々アマチュアオケと同じ。親近感を覚える、と言ったら、プロである彼らに対して失礼か...?
結局、バンダなしの部分(2曲目から終曲の途中まで)をすべて練習して、終ったのが17:00近く。この後ベートーヴェンをやるわけだが、終了が18:00だったはずだから、さっと通して終わりといったところだろう。

ラルスとの約束通り、そのベートーヴェンを見ずに外へ出る。ラルスが出てきて、「さぁ、どこに行こうか?」。「別に希望はないのだけど」と答えると、「じゃぁ、クリスマスマーケットに行ってPunschでも飲むか」ということになり、カールス教会前のマーケットに向かい歩き始める。
「Punschはもう飲んだかい?」「うん、さっきね。すげぇ甘いね」なんて話しながらしばらく歩いたところで、ラルスの携帯電話が鳴った。電話に出た彼、笑い声をあげながら「ヤー、ヤー」とか言って、何やら楽しそう。きっと彼女(↓後述)からの電話なんだろうと思っていたら、電話を切るなり「今晩吹くことになったよ」だと。
「何それ!?」と聞くと、今の電話はロナルド(もしくはロナルドの父上であるヴィリバルト・ヤノシュツ氏@2番ホルン←この辺はっきり聞き取れなかった)からで、ロナルドの口の調子が悪いので、今晩の出番(「エレクトラ」の1番ホルン)を代わってくれという内容だったとか。

オペラは20:00開演。ということは、開演3時間前の"助っ人受諾"。曲は、難曲「エレクトラ」。そりゃぁ、ラルスにとっては、何回も吹いてる曲だから、今さら焦って曲をさらう必要はないのだろうけど、でも、本来はオフだったわけだから、電話があった時点では、すでに気持ちの"電源"は切られていたはず。その状態から、「エレクトラ」を吹くところまで気持ちを持って行くというのは、それなりに大変なことだと思うのね。毎晩オペラをやっている「当団ならでは」の出来事なのだろうが、改めて、彼らのタフさを痛感した次第。たいしたもんだね、当団諸氏は(もっとも、当のラルスは、平然とPunschを飲んでたけど^^;)。
写真は、ラルスとPunschで乾杯するの図。

ところで、そのPunschという飲み物なのだが、このカールス教会前で飲んだものには、たっぷりとお酒が入っていた。で、これが「正解」なのだとか。ベースは紅茶だと思うのだが、そこに、ハチミツのようなものを混ぜて煮詰め、すごーく甘い状態にし、さらに果実酒を入れたと、まぁ、そんな感じ(未だに正確な"内容"を知らないので、全然違ってるかもしれない)。で、ラルスが言うには「ドイツにはないオーストリア独特の飲み物」ってことなんだけど、ドイツの「グリューワイン」と同じ物では?との説もあるので、正解をぜひとも知りたいところ。どなたか、教えてくださいよ。

オペラまでの時間がまだあるので、我々はホテルへ、ラルスは自宅へ一旦戻ることにし、一緒に国立歌劇場方向へ歩き出す。と、その道すがら、ラルスがニコニコしながら「明日の朝、彼女がやって来るんだ」と言う。ラルスの(新しい^^;)彼女はドイツ在住の大学生(!!)なのだが、休みを利用してウィーンに遊びに来るらしいのだ。明日早朝の列車で西駅に到着するというので、私「迎えに行くの?」と聞いてみた。するとラルス「もちろん!だって、俺はクリスチャンだもん!」だと。なーにが「クリスチャンだもん」だよ!って感じだけどね(^^;

ホテルに戻って"Punsch酔い"を醒まそうとするが、結局酔いが抜けきらないまま国立歌劇場の「エレクトラ」へ出向く。"いつもの場所"は難なく確保。ピット内は、先般の「ラインの黄金」以上の大編成オケ(フル4管。クラは6本!)ゆえ、文字通りの"すし詰め"状態だ。

今日のホルン会は、ホルンがラルス→ヤノシュツ父→プファイファー→御神体、ホルン/ワグナーチューバがトムベック→フラダー→ゼルナー→ホルヴァートという正団員のみによる布陣。ヘグナーが、アンサンブル・ウィーン・ベルリンの公演で日本に行ってるので、正団員でウィーンに残っているのは、お休みのロナルドを含めた9人。そういう状況を考えると、ホルン8本の曲をトラなしで演奏するってのは極めて珍しいことと思われる。オケの来日公演では、ホルン8本の曲を正団員のみで聴けることはまず有り得ない(最低3人は、毎晩のオペラのためにウィーンに残るから)。これも、巡礼したからこそ味わえる醍醐味というわけだ。
急遽助っ人したラルスは絶好調。今日もゲノッセンシャフトで吹いていたが、いい音で、このオペラの「狂気の世界」を演出していた。あとは、これまた言わずもがなだけど御神体。ほんと、彼の音の存在感は見事です。

今晩の指揮者は、ミヒャエル・ボーダー(Michael Boder)という若そうな人(実際どうなのかは不明)。よって、典型的な通常公演であるわけだが、歌手陣にはリポヴシェクやグルントヘーバーといったビッグネームも加わっており、公演の水準としては、十分に高いものだったと思う(この2人の声の存在感が圧倒的)。
オケの演奏は、そりゃもう手慣れたものだから、あれだけの難曲を、これといった破綻もなく、しかし、彼ら独特のリヒャルト・シュトラウスの音の世界で彩って仕上げており、これまた十分に堪能できるものだった。
シノーポリとのCDのような、今にも血が吹き出してきそうな張りつめた音世界、ハイテンションな演奏ではなかったけど、でも「やっぱり、リヒャルトのオペラはこの音」と思わざるを得ない、当団だからこその音の世界。私、この曲の最後に出て来る、オケ全体とワグナーチューバが交互に和音を吹き合う部分が好きなんだけど、ここ、カッコよかったぁ。
ところで、この「エレクトラ」、クプファー演出によるプロダクションなのだが、'88年にアバドによって初演された時は、大ブーイング大会になった"曰く付き"のもの。が、この日は、まったく荒れる気配なし。さすがに初演から10年経てば、"斬新な演出"も定着するということか。こういうのも、一発で終りではなく、継続して公演を続ける常設のオペラハウスだからこその話。東京の新国立劇場で、こういう「定着」が見られるようになるのは、果たしていつのことになるのやら。

当団の豊潤なR.シュトラウスの音世界に酔いしれたおかげで(Punschの酔いが醒めきらなかったから?)、ベッドに潜り込むなりぐっすりと眠りについた私でありました。


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