前日に「12:00にホテルロビーで合流」という盟友T氏からの伝言を受け取っていたこともあり、今日は早くから行動しようということで、8:00に朝食をとり、9:00にはホテルを出発した。
今日の"観光コース"は、ハイリゲンシュタット。聖地に来た以上、ここを訪ねないわけにはいかんでしょうということで、A氏を案内した次第。
寒風吹く中、点在するベートーヴェンハウスを見て回る。が、記憶が曖昧なため、あちこちをウロウロ歩き回ることにもなってしまい、A氏にはちょっと迷惑をかけてしまった。ハイリゲンシュタットへ行くのは、たぶんこれで4回目くらい。よって、地図を見ないでも歩けるだろう、と高を括ったのがいけなかった。反省。
グリンツィングにおいてはワインはこうして運搬される、という証拠写真(タンクの中はたぶんワインだと思って撮ったんだけど...)。
帰り道にフォルクスオパーを外から見て、ホテルに戻ると丁度12:00。が、まだT氏は到着していない。ロビーで待つこと15分、出張先のメキシコから移動してきたT氏が(薄着で^^;)到着して、ついに、今回の「巡礼団」が全員集合ということになった。それにしてもT氏の姿は寒そうだ。
「まずはメシを食おう。日本食がいいな」というT氏のリクエストで、国立歌劇場裏手の日本メシ屋へ。ご多分に漏れず、料金設定は高めであるが、幸いにして、リーズナブルなお昼のセットメニューがあったので、私はカツ丼セット(120シリング=約1200円)を注文。まぁ、出てきた物は、日本で食べれば700円ってとこの代物ではあったけど、やっぱり米のメシを食べると安心してしまうところは、私も典型的日本人ってことなのかも。
今日のリハーサルは15:00から。よって、ラルスとの待ち合わせは15分前の14:45ということで、時間丁度にMVに出向く。が、彼の姿は見えない。
外にいるのも寒いので、楽屋入口の中に入って待っていると、楽器を手にした団員たちが次々にやって来る。
ガタン!とドアが開いて、また1人入って来た。が、楽器は持っていない。手にしているのは、スコアの束と指揮棒入れだ。ん?指揮棒入れ? そう、ラトルその人が、サー・サイモンが、マエストロが(しつこい!)、1人で歩いて会場にやって来たのだった。これには一同びっくり。
あれだけの指揮者だったら、"お付きの者"を従えて賑々しくご入場、って感じになってもやむを得ないだろうに、1人で、しかも歩いてホテルからやって来た。いやぁ、なんかいいね、ああいう姿。彼の"人となり"が垣間見えるような光景でした。
ラルスは約束に5分遅れて登場。「遅れてゴメン!」と謝ってはいるが、顔はどことなく嬉しそう。まぁ、彼女がやって来たわけだから無理もない。許してやろうじゃないか>エラそうに(^^
彼に連れられて階段を登り、事務局の前まで来たところで「チョットマッテテ」。例の手書きチケットを発行してもらいに行ってくれたらしい。
ここは楽屋の裏手。よって、そこここに楽器が置いてあったりもするのだが、目の前には、当団独特の手回し式ティンパニが、そして、少し先には、写真で見たのと同じ、ヴァイオリンが一列になって収納されたケースがあって、もう、それを見ただけでワクワク状態。デジカメのシャッターを押したい衝動に駆られたが、ここでミソをつけてはラルスにも迷惑がかかると、グッと堪える(エラいぞ!フォルカー>何言ってんだか^^;)。
今日のリハーサルも「シンフォニエッタ」から。が、今日からバンダが入るということで、まずは、バンダ部隊のみの練習となった。
オルガン前のバルコニーに、トランペット9本、バストランペット2本、テナーチューバ2本、そしてティンパニが揃った姿は、まさに壮観。
ラッパ9人の内訳は、1番のシュー、3番のエダー、4番のジンガーの3人が正団員、あとの6人はトラという構成(ちなみに、オケ本体にも3本のラッパが入り、こちらはポンベルガー→アンブロス→ミュルフェルナーという布陣なので、当団ラッパ会は総出演ということ)。トラの中には、見覚えのある顔もあり、2番はウィーン室内管の人(アモンていう人?)、8番が96年の来日公演に帯同していた舞台オケのプロネブナー(多分ね)、あと、何番だったかは忘れたが、94年のザルツブルク音楽祭でのブーレーズとの初共演演奏会に参加していた人(名前不明)もいた。
他の楽器では、バストランペット2人のうち1人が、先般のメータとの演奏会でもバストロンボーンを吹いていた常トラの人('93年のロナヒャー劇場オープニング記念演奏会でバストロを吹いていた人)だったが、あとは見たことない顔だった(ちなみに、ティンパニはハルトル)。
オケ本体にも、オーボエ2番(フォルクスオパーの人らしい)、トロンボーン2番(引退したジンガーの後釜候補?)、弦楽器の後ろの方に大勢といった感じでトラが入っており、ラルス言うところの「ウィーン・サブスティテュート・オーケストラ」(^^;状態。ま、大編成の曲をやる時には仕方ないところだろうけどね。
冒頭のテナーチューバによるメロディーが朗々と響き渡り、曲が始まった。テナーチューバは、1人がロータリー式、1人がユーフォニウムという構成だが、音色には違和感なし。それに続くトランペットのメロディーが出、バストランペットとティンパニが原始的なリズム音形を奏すると、これはもう、夢にまで見た「シンフォニエッタ」の世界。まさかこの曲を、この冒頭を、当団で、しかもMVで聴けるとは! 万感胸に迫るものがあった私でありました(ちと大袈裟^^;)。
が、その後、細かい音形で各自が絡むところにくると、かなりアヤしい雰囲気に。まぁ、あれだけ響く会場で、指揮者からは遠い位置に陣取って吹くわけだから、なかなか合わせるのは難しいところではあるのだろうがね。
ラトルが何回もダメ出しをし、その都度やり直しをさせたおかげで、練習が進むに連れだいぶ揃ってきた。まぁ、本番までにはなんとかなるかな、という雰囲気。
それにしてもハルトルのティンパニはすごい。2階のバルコニーで叩いてるのに、1階の床がビリビリ振動するのは会場の特性なのかもしれないが、でも、その重心の低い音色は、この曲の持つ雰囲気にピッタリ。どんどん音程を変えなければならないため、忙しそうにハンドルを回す姿もカッコよかった。
オケ本体の音も、だいぶ収束してきた。相変わらず危なっかしい人/パートもあるが(引き続き名前は伏せます^^;)、ラトルの「変化の妙」を聴かせるような音楽作りに、オケが自信を持って応え出したという感じだ。
休憩の後、ベートーヴェンのピアノ協奏曲の練習に移る。ソリストは直前まで来ないのだろう、などと勝手に推測していたのだが、なんと、ピアノが用意されて(会場が狭いため、足を外した状態で運ばれてきて、その場で組み立てられる!!)、ブレンデルも登場したではないか。これにはびっくり。そして感激。
2番の1楽章から開始。プルトが刈り込まれたオケの音は、先ほどまでのヤナーチェクとは違い、しっとり柔らかいもの。この会場では、これくらいの編成の方がしっくりくるのかもしれない。
ラトルの音楽作りは、以前聴いた交響曲の時同様、切れ味の良い、そして「歌」に溢れたもの。ブレンデルの音も、タッチの柔らかい、本当に「きれいな」ものなので、まさに夢のような音世界が広がって行く。
以前の当団だったら、ラトルのようなベートーヴェン解釈に戸惑いを見せたことだろうが、今となってはそのような心配はまったく無用。リズムの強調やフレーズの明確化といったアプローチに、団員たちが実に楽しそうに応えている姿が印象的だった。
ブレンデルは、時々ラトルやオケの面々に何事か指示(依頼?)をするものの、あとは概して大人しく弾いており、張り詰めた緊張感の中でリハーサルが進む、という感じではなく、ソリスト、指揮者、オケが、それぞれの持ち味を楽しみながら一つの音楽を作り上げているという感じで、とてもいい雰囲気だった。
18:00にリハーサル終了。今晩のオペラ(魔弾の射手)は19:30開演なので、ホテルには戻らず、国立歌劇場裏のセルフサービス式レストランで食事をして向かう。
今日も、いつもの場所は難なく確保。というよりも、5階立ち見席はガラガラだ。毎回、そこそこには人が入る立ち見席なのだが、この演目は人気がないのだろうか。
今日のホルン会は、ロナルド→ゼルナー→プファイファー→ホルヴァート。ロナルドが回復したのは何よりだが、なんか、いまいちショボい組み合わせで、一抹の不安がよぎる。
で、その不安は、序曲が始まると、的中していたことが判明する。冒頭の四重奏から、なんともショボい。こう、パーッ!と突き抜けてくるような芸風の人がいないから、どうしても、音が後ろ向きに出ちゃう(ホルンだから当たり前だろ!ってツッコミはなしよ^^;)というか、なんかこう、守りに入っちゃうというか。この4人の中の、誰か1人でも他のメンバーに代わっていれば、だいぶ違う結果が出たのではないかと思うのだが。
ちなみに、1幕の冒頭で、舞台上に「楽隊」が出てくるのだが、ここでのホルンは、舞台オケのマイヤー(レヒナーのHigh-F管)ともう1人の若者(ウィンナ)が担当していた。
オペラ自体の出来も、いまいちパッとしないものだった。セリフで間をつないでいくタイプのオペラだが、どうも間延びして感じるのだ。舞台に緊張感がないとでも言うか。
元々そういうオペラなのかもしれないし、指揮者(ペーター・シュナイダー>これまたショボい!?)の責任なのかもしれないし、はたまた演出(キルヒナーによる'95年初演のプロダクション)の問題なのかもしれないが、私には判断不能。大体、初めて観て聴いたオペラなんで(アーノンクールのCDを持ってるけど、聴いてなかった)、いろいろ"語る"材料がないのよ。よって、これ以上は勘弁して。
ところで、今日のオケピットには、オーボエのホラークと、チェロのヴァルガという、2人の新人首席奏者の姿があった。
実は、ホラークの方は、到着した日に観た「フィデリオ」でも吹いていたのだが、この「魔弾…」の方が、ソロなどもあって、その音と芸風をよく確認できたというわけ。
で、結論としては、「普通のオーボエ」ですね、あれは。音がかなりフレンチ寄りなら、芸風もかなり大人しめ。ボイジッツ、ガブリエルという2人の"先輩"に比べてもそうだが、彼の前任であったトゥレチェクの「濃さ」とは到底比べ物にならない薄口のオーボエ。
まぁ、入団したての今は、何はなくとも「勉強中」ということなのかもしれないが、基本的には「無難に吹きました」という感じで、今一つ物足りなかった。
でもまぁ、周りの先輩たちは、ソロが終ると肩を叩いたり、話し掛けたりして、その健闘を称えていたし、ボイジッツやガブリエルだって、昔は結構薄口だったんだから、今後「大化け」することを期待したいですがね。
一方のヴァルガは、ラトルとの演奏会のメンバーにも入っているので、その姿は昨日から確認していた。しかし、ソロの音を聴いたのは今日が初めて(3幕にソロあり)。
こちらは、大変甘い音のチェロで、なかなか魅力的だった。が、かなり細い人なので、その芸風も少々線が細め。よって、もっと表現に幅が出てほしい気もするが、まぁ、時間と共に変貌を遂げてくれるのでしょう。
こちらも、ソロが終ると、先輩たちから祝福が。さらに言えば、同じ3幕にはヴィオラのソロもあるのだが、これを弾いたリーも、隣りのパイシュタイナーから肩を「ご苦労さん」と叩かれていた。
こういう姿こそが、当団の堪らない魅力。世のアマオケマン諸氏よ、聖地巡礼の折には、舞台なんかのんびり観てないで、こういう光景をちゃんと目に焼き付けて帰らにゃ行けませんよ、ほんとに(←ちなみに、私が立っている「いつもの場所」からは、ビオラはまったく見えない。なのに、なぜ彼らの行動を把握しているかと言えば、きっと先輩からの「祝福」があるに違いないと思ったので、その光景を見ようと、5階席の最前列まで降りて行って身を乗り出していたから。そこまでしないとダメってことよ、皆さん!←ウソですよ。良い子は真似しちゃいけません^^;)。
ホテルに戻る途中、ラッパ2本、トロンボーン2本の編成による"バンド"が、ストリートパフォーマンスをしていた。氷点下という気温の中、よくもまぁ楽器が吹けるもんだと感心したが、もっと感心したのは、その音のタッチの柔らかさ。
あの寒さの中で、あれだけ柔らかいタッチでラッパが吹けるとは。どこの国の人たちなのかは分からなかったが、層が厚いね、かの地は。
暗くてなんだかわかんないと思うけど、写真がその"バンド"。
ホテルに戻って、A氏が、ハイリゲンシュタットからの帰り道にグリンツィングで買ってきたワインの新酒で乾杯。おかげで今日もバタンキュー(死語)な私でありました。