フォルカーの部屋 - 98聖地巡礼日記12/03 -

12月03日(木)


朝食を終えて部屋に戻ろうとすると、フロントのお姉ちゃんに呼び止められた。FAXが届いていると言う。渡されたFAXは5枚。こんなにたくさん一体誰からだろうと受け取ってみると、旅行代理店のS氏(実は不協和音S氏)からだった。
で、その文面には「フォルカーの部屋の芳名録が大変なことになってます!」とあり、例の「チケット希望」「チケット譲ります」のやり取り部分のコピーが添えられていたのだ。
これには私、うーん...と頭を抱えましたよ。出掛けに「余剰が出たらご一報を」などと書いてしまったことで、皆さんを却って焦らせてしまったかと。
巡礼中にて不在とはいえ、家主として何も反応しないわけにはいかない。そこで、急遽コメント文を作成し、それをS氏に代理掲載していただくことにして、その旨書いたFAXを送信。なんとも慌しい朝となってしまったのだった。

こんな回りくどいやり方でコメントを掲載することになったのも、すべては、泊まったホテルの電話が旧式なため。それでも、私の場合は、「まぁ上手く行けば部屋からアクセスしてみよう」程度で考えていたのでどうでも良かったのだが、メキシコから移動してきたT氏は、実はまだ仕事が続いており、電子メールの送受信の可否はまさに死活問題とのこと。で、部屋からできないのであれば、できるところを探すという。
そこで、午後のリハーサル見学までの間、T氏はアクセス場所の探索を、私とA氏は引き続き観光をすることにし、13:00に再びホテルで合流することで一旦別れた。

というわけで、A氏と私は、一路シェーンブルン宮殿へ。ここもやっぱり「ウィーンへ行った」ことの"アリバイ"には欠かせないポイントですからね。

平日ということもあるのだろうが、観光客の姿はまばら。そんな中、例の巨大庭園の中を歩くと、寒風が一層身に染みる。なのにA氏ったら、庭の中心にそびえるグロリエッテまで登ろうってんだな。というわけで、初めて巡礼した際に登って以来15年ぶりに、グロリエッテまで足を伸ばしたのであった。
が、ちょっとした"登山"は、体重0.1トンの私にはキツい。ゼーゼー言いながらなんとか登り切って、宮殿側を振り返ると、いやぁ、これはやっぱり「絶景」だ。それまでの疲れも吹き飛んで、しばし眺めに見惚れたのでありました。
というわけで、写真はグロリエッテから見下ろす宮殿およびウィーン市街。変な格好をしている人のことは気にしないでね(^^;
その後宮殿に戻り、中を見学したのだが、ここも"ドブリンガー状態"でびっくり。見学用の入口が移動し、見学内容によってコース分けが行われ、宮殿内の各部屋には、その部屋にまつわる小道具が配置されているだけでなく、その部屋の用途などが説明された"大段幕"も下げられるなど、すっかり様変わり。ほんと、聖地のユーザーフレンドリー化(??)は、どんどん進んでおりますよ。

感心しつつホテルに戻り、T氏と合流。アクセス場所を探索していたT氏によれば、ANAグランドホテルのビジネスセンターが、一般客向けにも通信環境を開放しているとのこと。T氏は、明日の午前中にアクセスを試みてみるというので、私もそれにご相伴してみることにした。

昼食をのんびり取り過ぎたせいで、今日もまた待ち合わせ時間ギリギリにMVへ。が、案の定(^^;ラルスの姿は見えない。
で、昨日同様入口付近で待っていると、これまた昨日同様楽器を抱えたメンバー諸氏が到着してくる。ガタンとドアが開いて、また1人入ってきた。またしてもラトルか!?と思ったが、入ってきたのは、白髪の日本人男性。しかし、この方こそ誰あろう、あの山崎睦氏@聖地在住音楽ライターその人ではないか!山崎氏、我々をチラッと見ると、そのまま事務局への階段を上がって行かれた。
直後、ラルスが到着。昨日同様「遅れてゴメン」と彼。でも、やっぱり昨日同様顔は嬉しそう(^^;。彼に連れられて事務局前まで行くと、見学チケットを発行してもらった山崎氏と再び遭遇。ラルスと山崎氏は顔見知りのようで、お互いに挨拶をしていた。

今日のリハーサルはベートーヴェンから。ということは、ラルスは、我々のために"早出"をしてきてくれたことになるわけで、なんとも申し訳ない限り。恐縮する私たちに、彼自身は「ノープロブレム!」と言ってくれたけどね(ほんと、いいヤツだよ、彼は)。今日のオペラ終演後、一席を設けてもらうことを約束して、彼と別れる。
客席に移動すると、山崎氏はすでに着席している。私たちは、氏の斜め後方に座って見学開始。

リハーサルは、ピアノ協奏曲3番の1楽章からスタート。ティンパニやトランペットが入るなど、2番よりは編成の大きいこの曲。よって、弦のプルトも、2番の時よりは各1プルトずつ増えての編成だ。
が、その音の柔らかさ、演奏の快活さについては2番同様で、実にいい流れの中で音楽が作られていく。2番に比べれば、結構骨太というか、構えの大きい曲ではあるけれど、ブレンデルとラトルの解釈は、決して大時代的な線を狙ったものではなく、あくまでも古典の様式美の追求といった観点での音楽作りをしており(少なくとも私はそう感じた)、これまたとても好感の持てるものであった。

1時間半ほどしたところで1回目の休憩。ここで、山崎氏が私たちに話し掛けてこられた。
「あなたたち、昨日も見学してた?」。「ええ」と私たち。「昨日も、こんな感じだったの?」。要は、ブレンデルが、ラトルに対してほとんど何も"注文"をつけないことに驚かれたようなのだ。
私たちが、「昨日も概ねこんな感じでしたよ」と答えると、「あぁそう。ということは、ブレンデルはラトルをよっぽど信頼してるんだねぇ」とおっしゃって、とても感心された風であった(この話、きっと「音友」や「FM fan」に載ると見た^^)。
ところで、ここで友人A氏が"問題発言"。「でもあれですよね、もう、この組み合わせでやるの3回目ですからね。だからじゃないんですか」。おいおいA氏、この方をどなたと心得る!山崎睦氏ですぞ。我々よりも、ずっとその辺の事情に詳しい山崎氏に対して、「あなたは知らないようだけど」って感じのその物言いは失礼ではないかい!?(^^; 山崎氏が立ち去られた後、「今の人、山崎睦氏だよ」とA氏に言うと、A氏、「えっ!?」と言って固まってましたが(^^;

その後もベートーヴェンのリハーサルが続き、昨日やり残した2番の3楽章を最後にして終了。と、ここでまた山崎氏が話し掛けてこられた。
「あなたたちは、音楽の勉強しに来てるの?」。「いえ、私たちはアマチュアのウィンナホルン吹きなんですが、遊びに来たもんですから、ストランスキー氏に頼んで入れてもらってるんですよ」とT氏が答えると、この後山崎氏、当団ホルン会について、実に的確な"情勢分析"をされたんだな。内容が内容ゆえ、ここに書くのは遠慮するが、いやぁ、ほんとに、なんというか、あまりに的確なそのウォッチングぶりに、一同唖然としてしまったのだった。
いやぁ、やはりあの方はタダモノではない。会場から見てる(聴いてる)だけで、あれだけしっかりと分析できちゃうんだから。私にとっては心の師匠(マジ!?)。さすが山崎氏!と、私、感嘆いたしました。思えば、この一件が、今回の巡礼での最大のヒットだったかもしれないなぁ(氏がどのような分析をされたのか、気になる方多いでしょうが、それを知りたければ、私か、A氏もしくはT氏と仲良くなってください。そしたらお聞かせできると思いますので^^;)。

この日のヤナーチェクは、ほぼ1回通したのみという感じで終了。初日、2日目は、ヤナーチェクの比重が高かったのだが、3日目にして逆転ということだ。
オケはだいぶ整ってきた感じ。初日よりも2日目、2日目よりも3日目と確実に"進歩"している。「ボヘミア的」というヤナーチェクではないが、単に派手派手しいとか、煌びやかといった演奏ではなく、テンポや曲想の変化を大胆につけた、メリハリのある、オケ演奏の醍醐味をたっぷりと味わえる音楽作り。こういう曲をやると、ラトルの"オケ捌き"の腕の良さがよく分かる。
我がラルスのホルンは、かなり快調に鳴り響いている(少々荒っぽい感じもあるが)。が、この曲の3曲目に、ハイF+Asの16分音符2拍スラーを吹き続けるというような「超絶技巧」の個所があって、もちろん、とてもウィンナで吹いてるとは思えない精度で彼は吹いているのだけど、イマイチ鳴りが良くない感じでもあるのだ(ちなみに、マッケラスとのCDでは、ベルガー大魔人が完璧に吹いている)。彼自身も、今一つ満足してない素振り。この辺、明日以降どう解決して行くのだろうか。

18:00にリハーサル終了。今日もまたセルフサービス式のレストランで夕食を取り(これが一番楽で早い)、その足で国立歌劇場へ向かう。今日の演目は「フィデリオ」。私にとっては、今回の巡礼で2回目、通算3回目(か4回目)となる「フィデリオ」だが、このオペラは何回見ても飽きないのでまったく問題ない。
今日のホルン会は、ラルス→フラダー→トムベック(!)→ホルヴァートという布陣。これで4番がご神体だったらと思わずにはいられない構成だ。帰国後、ある友人にこのメンバー構成を言ったら、彼、「画竜点睛を欠く布陣ですね」とコメントしたんだけど、けだし名言!("画竜点睛を欠く"のが誰かは、言わずもがなですよね??^^;)。
ところで、トムベックの3番てのは、たぶんプファイファーの代役と思われる。オケのリハーサルで使っていたF+High-Fのままで吹いていたが(家からこれ1本持って出てきた?)、ラルスには、その辺ちょいと不満なようだった(まぁ、それぞれに「思い」があるということで)。

指揮のハーガーおよび主だった歌手陣も前回同様ということで、オペラそのものに関する感想は、特になし。まぁ、何から何まで、典型的な「通常公演」ということでしょう。
ホルン会は、前回に比べると充実したメンバー構成だから、かなり楽しめた。あ、そうそう、序曲の2番ホルンのソロのところ、フラダーが実に見事にソロを決めたら、となりのラルスが、サッと左手を挙げて「ブラヴォー!」のポーズをとっておりました。いや、結構結構。

ところで、今日のラルスは、ちょいと挙動が不審だった。演奏中、何度も我々の方を見上げる仕草をするのだ。が、双眼鏡で確認すると、その視線は、5階の我々ではなく、4階のあたりに注がれているような...。
そう、例の(新しい^^;)彼女が来ているようなのだ。で、その彼女のことが気になって仕方がないと(ったく...^^;)。
いつもは休憩時間になると真っ先に姿を消すくせに、今日はピットに残って、彼女に向って「こっちにおいで」みたいな仕草もしている(結局彼女は下りてこなかったんだけど^^;)。いやはや、アツアツ状態ってことですな。

ところで、その休憩時間に、私のところに日本人男性がやって来られて、「いつもホームページを拝見しております」とご挨拶されたのには驚いた。伺えば、お仕事で聖地に赴任されているのだそうで、今回、私が巡礼に行くというのを読み、「いつもの場所」に立っているというので、わざわざ尋ねてきてくださったのだとか。ほんと、恐縮するやら嬉しいやら。うっかりお名前を伺うのを忘れてしまいましたが、その節はどうもありがとうございました、と、ここで改めて御礼を申し上げる次第。

終演後、ラルスとその彼女(クリスティアーナ嬢)と一緒にいつもの店へ移動。語学堪能T氏もいるので、今回は、非常に込み入った話をすることもでき、楽しく過ごさせてもらった。
え?「込み入った話」って何だって?いや、大した話じゃないんだけど、そうねぇ、例えば、前から我々の仲間内でも見解が別れていた、彼の名前の正式な発音のこととかね。私は、彼の名字を、ずっと「シュトランスキー」と書いてきたわけだけど、CDの表記なんかは「ストランスキー」だったりするでしょ。だから、一体どっちが本当なんだと、まぁ、ご当人に聞いたわけですよ。
で、彼の答えは、「自分の家系は、元々はオーストリア・ハンガリー帝国の出であるので、その場合の発音(ボヘミア風)としては『ストランスキー』が正しい。でも、ドイツ語風に読めば『シュトランスキー』だよ」とのこと。でも、それじゃどっちでもいいような感じでもあるんで、「あなた自身は何て発音してるの?」と食い下がってみたところ、「シュトランスキー」だと。まぁ、基本的にはどっちでもいいよってことのようなんだけどね。
ちなみに、彼のファーストネームの方は、ドイツ風だと「ラルス」(ただし"ル"は巻舌風)、オーストリア風だと「ラース」(ただし単に"ラー"と伸ばすのではなく、喉の奥で"ル"と"ウ"を一緒に言う感じ)となるらしい。もっとも、こんなこと聞いたおかげで、「キミらの『ラルス』は正しくない」と"ついで"に注意されちゃったけどね(^^;

聡明なクリスティアーナとも楽しく会話させていただき、すっかり時間が経つのも忘れて長居してしまった私たちであった。ラルスには、まぁ、いろいろ言いたいこともあるけど(思わせぶりな発言^^;)、クリスティアーナ嬢と、どうか仲良くお付き合いを続けて欲しいものだよ、ほんとに。


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