フォルカーの部屋 - 98聖地巡礼日記12/05 -

12月05日(土)


滞在1週間目。が、今日が実質的には最終日。午後には、全リハーサルに付き合ったラトル&当団の演奏会という"メインイベント"を控えているし、なんか、いよいよ巡礼の「総仕上げ」という雰囲気だ。

もう1人で歩けるよね、ということで、今日はA氏と別れて単独行動(ちなみにT氏は、相変わらずANAホテルで"仕事")。これといったアテはないのだが、以前から見学のチャンスを伺っていた産業博物館だけは押さえておかないと、ということで、シェーンブルン宮殿近くの同館へ向かった。

この産業博物館、実は、数年前(確か'93年)にも訪ねたのだが、改装のため休館中ということで、中を見ることができなかったのだ。が、一昨日に、市電で前を通過した時に見た感じでは、すっかり改装も終わり、復活しているようだったので、満を持して訪ねたのだった。
が、結果的には未だに休館中。入口の張り紙によれば、1999年オープンとのこと。とすれば、少なくとも6年越しで改装してたわけで、ちょっと考えられない長さだね、これは。
ところで、私がなぜこの博物館を見学したいのかというと、それは、SLが展示されているから。元鉄道少年としては、やはり、そういうポイントを押さえておかないわけには行かないのですよ。が、残念ながら休館中。こりゃまた次回だな、と諦めて戻ろうとしたら、なんと、SLが外に置いてあるじゃないですか。
そう、元々、SLは外に展示されていたのだ。それを知らなかったので、再開を待っていただけなのだ。'93年にも、SLはここにあったはず。いやはや、トホホな私でありました。
というわけで、雪に埋もれるSLたちの姿が左の写真。

念願のSL見学を果たし、さぁてこの後はどこへ行こうかと思うものの、これといったアテはない。そこで、来た市電に乗って適当なところまで行ってみようということにし、丁度やってきた市電10番に乗ってみた。車内の路線図で行き先を確かめてみると、今日から開業となった、地下鉄U3の新駅Hutteldorfer Str.にも接続するらしい。じゃぁ、そこまで乗って行って、あとは、新しい駅から地下鉄に乗ればいいやということにして、椅子に腰掛けた。

乗ること約10分、目指すHutteldorfer Str.駅が近づいてきたので降りようとすると、窓の外に、楽器を抱えた集団がいるのを発見。市民バンドだ!現地のアマチュア連中の音を聴ける機会なんてそうそうあるもんじゃない。電車を降りるなり、彼らの方へ向かって走り出した私であった。

お揃いの青いジャンバーに身を包んだこのバンド。メンバーは若いお兄ちゃんお姉ちゃんばかりで、指揮棒(っていうのかな?行進用の長いやつね)を抱えた指揮者も、なかなか立派な髭をたくわえてはいるが、顔を見る限りは若い兄ちゃんだ。
約20人ほどだが、楽器構成は結構バラバラ。残念ながらホルンは入っていないが、でも、クラは全員エーラー、ラッパは全員ロータリー、さらによくよく見れば、ロータリーフリューゲルホルンまでいるという、日本の吹奏楽団では考えられない、そして、私にとっては望むべき編成のバンドではあった。
雰囲気的には、新駅の開業を祝して街頭演奏を行なう、という感じなのだが、どこで演奏するのか決まっていないのか、はたまた、決まっているのだが、その指示系統がうまく機能していないのか、ひたすらウロウロ・ダラダラとするばかり。

とにかくその音を聴いてみたい一心で、ウロウロ・ダラダラに付き合っていた私だが、その状態がかれこれ10分以上続いており、寒さも手伝って、いい加減アタマにきはじめた。はよせんかい!
私の心の叫びが通じたのか(^^;、ようやく演奏が始まった。曲名はわからないが、典型的なオーストリア(ドイツ?)マーチ。
で、肝心の演奏はね、ヘタでした(^^; 決して達者な人たちではなかった。が、その"音"とリズムの取り方は、紛れもないウィーンのそれなんだなぁ。いい味出してるのよ、お兄ちゃんお姉ちゃんたちが。これはもう、ありきたりな言葉だけど「伝統」あるいは「血」というやつなんだろうね。私、聴きながらニコニコしてしまったのは言うまでもございません。
結局、ダラダラとしたまま2曲ほど演奏されたところで、私はその場を離れる。集合時間まではまだ余裕があるが、この辺でウロウロしていても仕方がないので、とりあえずシュテファン付近まで戻っておこうと考えたのだ。

地下鉄でシュテファンまで戻り、地上に上がってみたら、なんとまたしてもバンドの音が聞こえるではないか。今日は「街頭演奏デー」なのか??(んなわけねーだろ)。しかし、さっきの連中に比べると、こっちはずいぶんと上手いし迫力もあるぞ。
シュテファン前の広場は黒山の人だかり。それをかき分けて前に出てみると、なんと"軍楽隊"が演奏してるのだった。どうりで上手いはずだ。こっちもマーチを演奏しているが、ティンパニまで持ち込んでの"本格編成"だけに、迫力も十分。
こちらは、約50人ほどといった編成で、ホルンも入っていたが、楽器は残念ながら(?)フレンチ。軍楽隊でもウィンナを使ってくれるようになれば、それはそれで素晴らしいことなんだけどねぇ(唾抜きが大変か^^;)。
ちなみに、こちらもクラは全員エーラー、ラッパは全員ロータリー。ま、これが当たり前ということなんだろうけどね、当地では。
写真右上がウロウロ・ダラダラ市民バンド。左上が大迫力の軍楽隊。

シュテファン付近をウロついている間に集合時間となり、一旦ホテルに戻る。そして、3人揃ってMVでの本番へ向けて出発。いよいよ、4日間付き合ったリハーサルの結果を確かめることになるわけだ。
この日の演奏会は15:30開演。ご承知の方も多いと思うが、当団の演奏会は、土曜は15:30、日曜は11:00が開演時間なのである。

MV内の雰囲気は、昨日までのリハーサルとは打って変わって華やかなもの。
今日の席は、1階バルコニー右サイドの3ブロック目。さらに、その1列目ということで、これはもう最高のロケーション。ホルン会を見るには、首をかなり右に向けなければならないが、ブレンデルの姿は、ちょうど正面に見える。
写真は"特等席"に陣取ってプログラムに目を通す私。実はプログラムが逆さまという細かい"芸"をやってるんだけど、小さ過ぎて分からなかったね(^^;

徐々に会場内が埋まりはじめる。と、制服を着た日本人の少年少女の集団を発見。その数ざっと50人。この一団が、最前列に陣取っているのだ。
修学旅行みたいなものなのだろうが、バブル弾けたと言っても、まだまだこういうことやってる学校ってのがあるんだねぇ。音楽系の学校なのかどうかわからないけど、たいしたものだ(彼らの話し声を聞いたT氏によれば、関西弁を話していたとか)。
他に知った顔はないかと会場内を見回すと、まず丁度真向かいのブロックに、ラルスによって招待されたクリスティアーナを発見。前日「おそらく向かい合わせだね」と話していたから、向こうもこっちをすぐに発見してくれて、「ハ〜イ」とお互いに手を挙げて挨拶。
えーと、あとは... おっ!クリスティアーナの後方に座っているのは山崎睦氏ではないか。前に目撃した人の話によると、氏が座る椅子には席番号が振ってないという話。ということは、そこが「山崎睦シート」ということなのだろう。この扱い、私にとっての夢だ、理想だ(^^;
隣りのブロックに、御神体兄(ティンパニのローラント・アルトマン)の姿も発見。さすが副団長、降り番の時も演奏のチェックは怠らないということですな(?)。
あとは、以前、ウィンナホルン会でご一緒させていただいたK音楽事務所のS氏の姿もあった。当団来日公演の時に、細川元首相なんかと一緒に聴いてたりする方ですからね、その世界では超有名人なのでしょう(休憩時間に、山崎氏が挨拶してたなぁ)。

なんて、会場内のチェックをしているうちに、いよいよ開演時間となる。オケの面々が三々五々出てきて(そうそう、当地においても、メンバーが出てくると期せずして拍手が起こります。あれ、日本だけの"特別待遇"ではないので、念の為>そういうことにうるさい方々^^;)、さてチューニングという段になって、1stヴァイオリンのトップサイドの席が空いたままであることに気づく。
外側に座ったコンマスのヒンクも少々慌て気味。舞台袖にいる係員に、「いないから探して!」みたいな仕草をしている。が、なかなかトップサイド氏は現れない。チューニングも終ってしまい、会場内が、どうしたんだ?とザワつきはじめた時、おもむろに件の人物、ホーネックが登場。会場は冷やかし半分の大拍手。拍手に迎えられたホ氏、ちょこんとお辞儀して会場の笑いを誘う。

さて、いよいよ"本物"のソリストと指揮者の登場だ。ブレンデルとラトルが大きな拍手に迎えられて登場し、まずはベートーヴェンのピアノ協奏曲3番から演奏が始まった。
演奏の基本線は、昨日までのリハーサルとまったく変らない。しかし、その音楽の"質"は、昨日までよりも格段に高い。ソリストもオケも、今日が文字通りの「本番」ということで、神経の行き届いた、繊細な音楽とアンサンブルを作り出している。
それにしても、ブレンデルのタッチの美しさはどうだ。昨日までよりも近くで聴いているせいもあるのかもしれないが、その音の美しさと、絶妙な音色のコントロールに、ただただタメ息が出るばかり。
オケも、そんなソリストに触発されてか、実に見事なアンサンブルでそれに応えている。中でもシュミードルのクラが絶品。3楽章の途中(展開部?)にクラのソロがあるのだが、昨日までは非常にあっさりと吹いてて、ラトルからも「もう少し表情付けて」みたいな指示をもらっていたというのに、今日は見違えるような、そう「濃い」ソロ。どう考えても、わかってて今日まで取っておいたとしか思えない。確信犯だね、あれは。
休憩後に演奏された2番も同様の出来。この曲のもつ喜遊曲的な雰囲気をよく表出していて、実に楽しい演奏だった。
その2番の協奏曲。3楽章の最後、オケがジャーンと鳴って終る前に、ピアノが和音を何回か弾くんだけど、段々弱くなっていったその最後の音を出す時のブレンデルの表情が、私、忘れられません。こう、すごーく音を"いとおしむ"ような表情。ヨカッタなぁ。
ブラヴォー!が飛ぶ中、ブレンデルとラトルが何度も何度も舞台に呼び戻され、会場内はしばし喝采に包まれたのでありました。

ここでの改めての休憩はなし。が、ピアノを片づけないといけないので、弦楽器陣は一旦引っ込む。ステマネのおっさんたちがピアノを分解して運び出し(ほんと、「それでいいのか?」って感じですよ、あの光景は^^;)、オルガン前には総勢14名のバンダが勢揃い。さぁ、最後は「シンフォニエッタ」だ。
その「シンフォニエッタ」、結果的には、昨日の最終リハーサルの内容に近い演奏だった。ちょっとバタバタ感のある。でも、当団というオケにとっては、あの手の曲は、ライブでやる限りは、基本的にあんな感じになのかもしれない。
ベートーヴェンなんかだと、本番の方が集中力が高まって、演奏のクオリティも高くなるようだけど、ハイテク系の曲になると、イマイチ心に余裕が持てないのか、本番のクオリティはそれほど高くならないみたい。
この手の曲の場合は、少しリラックスして演奏できる環境、例えばレコーディングとかの方が、もっと緻密なアンサンブルができるのかも。でも、きっと翌日はもっといい演奏になったと思うよ。慣れればね、少し落ち着いて演奏できるはずだから。
ところで、例の、リハーサル中ずっとヤバかった人/パートの動向だけど、結果的には、各自本番は無難にこなしていた。特に、全リハーサルを通して、ただの一度も成功しなかった個所のあった某氏、本番はしっかり成功させ、本人も安堵の表情を見せておりました。よかったね、ツァマツァル氏@打楽器(あ、言っちゃった!^^;)。

終演後、ラルス、クリスティアーナと一緒にMV近くのビアホールへ。我々は国立歌劇場のバレエを見に行くし、ラルスたちは家で食事をするということなので、小1時間程度という約束で付き合ってもらったのだ。

乾杯をしてしばらくした時、ラルスが私の背後に向かって「セアブス!」と声をかけた。誰に向って言ったのかと振り返って見てみたら、ラッパのジンガー氏。「俺も入っていい?」というジンガー氏に、一同「もちろん!」。というわけで、思わぬ"お客様"を迎えての宴席となったのであった。
このジンガー氏、私、初めてお近付きにさせていただいたのだが、いやぁ、愉快なおっさんだった。中でも、ビールのウンチク話が傑作で、「ここのビールはうまいんだぞ」と散々聞かされた挙げ句、その注ぎ方の講釈も受けてしまった。
「このビールは、ビンの底に一番旨い部分が溜まるんだ。だから、ビンをよーく振って、最後の部分は泡にしてグラスに注がないといけない。これがウィーンスタイルだ」。
それを聞いた一同、「はい、畏まりました!」ってわけで、一斉にビンを振り振り。ついでにジュースのビンも振り振りして、「これがウィーンスタイルですよね?(^^;」(このネタ、特にクリスティアーナにバカウケ)。

ジンガー氏は一足先に席を離れられ、残った我々は、別れ際に記念写真。そして、ラルス氏の今回の様々な"ご配慮"に対してお礼を述べ、同時に、来春の日本での再会を約束しあって別れたのであった。

仲良く肩を組んで家路についたラルスとクリスティアーナを見送った我々は、今日も国立歌劇場のいつもの場所へ。が、今日はバレエということもあって、客層が随分と違う。全体的に若いのだ。我々の横にやって来たのも、いつもとは違って、若いお姉ちゃん3人組だった(イタリア人かな?)。

今日の演目は、チャイコフスキーの組曲3番第4楽章を音楽とした「主題と変奏」、テープ伴奏による新作「Bits and Pieces」、そして、新振り付けが話題ともなった(らしい)ラヴェルの「ボレロ」の3曲。
ホルン会は、トムベック→ヤノシュツ父→プファイファー→ホルヴァートという構成。トムベックは、昼の演奏会同様、F+High-Fのダブルホルンで吹いている(やっぱ楽器1本で家から来てるに違いない^^;)。

最初の「主題と変奏」、これはなかなかの名曲で、これまでにも、ケンペ(この楽章のみ)やマゼール(全曲)も当団と録音しているのだが、今回は、あくまでもバレエの伴奏ということで、それほど音楽的にどうという演奏にはならなかった。でも、リズムの取り方は、あくまでのウィーンフィルのものであって、それ自体は十分に堪能。あと、延々とあるヴァイオリンのソロ。今日のコンマスであるホーネックが弾いたのだが、いやぁ、これは見事でした。やっぱり、技術的な安定さという点においては、彼はピカイチだね。

各演目の間に休憩が入るという、かなり余裕のある公演であり、かつ、2曲目はテープ伴奏ということもあるので、1曲目が終った後、3人で場内探索に出かける。なかなかじっくりと国立歌劇場内を見て回る機会も作れないからね。で、2曲目上演中には、中に入らないで、ロビーのソファでうたた寝をしてしまった。さすがに疲れたよ、やっぱり。

そんなこんなで3曲目の「ボレロ」に。オケのメンバーに変更はないが、この曲ではサックスが入るので、エキストラのサックス要員が加わった。
ソプラノは、'92年の150周年記念演奏会でも吹いていた人。この人は、いろんな機会で目にする人なので、半ば当団のサックス担当という位置づけの常連さんだ。テナーを吹いた人は若手だったが、見たことない人だった。
その昔、当団メンバーを中心とした"バンド"が、バーンスタインの「プレリュード、フーガとリフ」という、ソロクラリネットとビッグバンドのための曲を演奏したのを聴いたことがあるのだが(ソロはシュミードル)、この時のサックスにヒントラーが加わっていたので、今回のような通常公演のボレロの場合もそういうことをするのかと思っていたのだが、ちゃんとトラを手配していたというわけだ。ちなみに、件のヒントラーはEsクラを吹いておりました。

しかし、当団にとっての「ボレロ」というのは、昔だったら到底レパートリーとは言えない曲目だったのだろうが、今となっては、こうして日常的に演奏するようになり、結果、その演奏も、実に危なげないというか、「なんてことない」って感じのものになっていたのには、改めて驚かされた。
各楽器間のデコボコや、調子の良し悪しみたいなものは仕方ないにしても(エールベルガーのオーボエダモーレがやや不調)、全体的に見れば、ほんと、"余裕"の演奏だった。
あくまでも踊りの伴奏という位置付けの演奏だから、早めのテンポでひたすら進んで行くだけの内容ではあったけど、私としては十分に堪能。男性4人に"主役"の女性1人というダンサーたちも見事でした。

というわけで、今回の巡礼における当団演奏の拝聴はこれにて終了。全9公演。まぁ、内容はそれぞれだったけど、私としては、それぞれの公演をそれぞれに堪能させてもらいました。ほんと、当団諸氏、ありがとうございました。


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