'98年夏 NHK FM ザルツブルク・モーツァルト週間98
※当欄は、'98年7月21日と7月26日のWhat's New!?に記載した"感想文"を再構成したものです。
サイモン・ラトル/ハイドン:交響曲第70番、モーツァルト:ピアノ協奏曲第18番(Pf:イモジェン・クーパー)、ハイドン:交響曲第90番
目次へ戻る1998年1月24日(土) ザルツブルク祝祭大劇場
「素晴らしい」の一言
「素晴らしい」の一言。特にハイドンの2曲が出色で、ラトルならではの、溌剌として躍動感に溢れた音楽を十分に堪能することができた。当団も、ラトルの音楽作りを十分に理解し、見事なアンサンブルで応えており、大変魅力的な演奏を繰り広げていた。いずれの曲でも大活躍する木管会、特にオーボエ(ガブリエル?)とファゴットは、まったく危なげないテクニックとチャーミング(死語?)な音楽作りで光っていたし、ハイトーン連続のホルン(誰が吹いてたのかは判別不能)と、前面には決して出て来ないものの、しかし、しっかりと存在を主張するトランペットは、まさに技能賞もの。当団の持つ美質が、ラトルによって十分に引き出されていた演奏として、高く評価したい。お見事。(98/07/21)
フランツ・ウェルザー・メスト/クリスティアン・バッハ:交響曲、モーツァルト:ピアノ協奏曲第25番(Pf:マレイ・ペライア)、メシアン:ほほえみ、モーツァルト:交響曲第34番
目次へ戻る1998年1月30日(金) ザルツブルク祝祭大劇場
つまらない演奏ではないのだが
オーストリア指揮界期待の星(?)フランツ・ウェルザー・メストが、当団の指揮台に初登場した、今年のザルツブルク・モーツァルト週間の演奏会(1月30日)の模様。この演奏会については、先に、不協和音のS氏からレポートをいただいていたので(NEWS欄2月5日号参照)、大筋のところは"予想"できていたわけなのだが、果たして、その結果は「予想通り」で、まぁ、まずまずのデビュー戦だったのではないか、という内容であった。良かったのは、丁寧に音楽が作られていたところ。オケにやらせっぱなし、というようなところは皆無で、きちんとオケをコントロールしつつ、オケの美点も生かして、内容のある音楽を生み出していたと思う(ソリストの見事さも相まって、ピアノ協奏曲が白眉)。反面、物足りなかったところは、そういう丁寧さから一歩踏み出して、聴く者を唸らせるような、「オケ演奏の醍醐味」みたいなものに欠けていたところ。つまらない演奏ではないのだが、かと言って、ワクワクするような音楽でもなく...(先日のラトルとの演奏は、文字通りワクワクする音楽だった)。とても力のある、いい指揮者、いい音楽家なんだろうが、オケの面々をノリノリにさせるような魅力(魔力?)は、今一つ不足しているのかもしれない。S氏言うところの、「頭が良さそうだが控えめな性格で、運動も得意そうでいて器械体操とかは全然ダメ」ってのは、まさにその辺の感じなのかもね。そうそう、先般のラトルとの演奏に引き続き、ホルンとトランペットには"技能賞"を贈りたい。ピアノ協奏曲でのホルン会の美しい音。全般に渡っての、ラッパ会のメリハリ。いずれも見事でした。(98/07/26)
'97年夏 NHK FM ウィーンフィル・シリーズ
※当欄は、'97年7月29日から8月3日までWhat's New!?に記載した"感想文"を再構成したものです。
ゲオルグ・ショルティ/バルトーク:弦楽のディヴェルティメント、リスト:メフィスト・ワルツ第1番、チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」
目次へ戻る1996年11月9日(土) ムジークフェライン大ホール
枯れないのか?
最初のバルトーク。やはり当団のバルトークは良い、との思いを新たにする。当団独特の音世界。弦楽器だけの曲だけど、その合奏の音はなんともいえない雰囲気を作り出していた。が、演奏は重い。キレが良くない。あまりよく知らない曲だけど、この曲は、もっと鋭く斬り込んでこそ、その良さ、雰囲気が伝わってくるような気がするのだが...。ショルティもさすがにトシなのか?それとも、元々ノリの重い人なのか? 2曲目のリストは初めて聴いた曲だったけど、これは、面白かったな、というところ。先般WOWOWで放送されたヴァイネルにしてもそうだけど、こういう、イマイチ知られてないけどそこそこ面白いって曲をやると、ショルティ&当団は本領を発揮するね。最後は「悲愴」。実は、このコンビのこの曲には、いやーな思い出がある。'94年10月5日のサントリーホール。この時の演奏曲目は、「ペトルーシュカ」全曲(しかも1911年版!)と「悲愴」。しかし、これは史上最悪の演奏だった。アンサンブルはボロボロで噛み合わず、出てくる音にも生彩がない。ただただバカでかい音でがなりたてるだけの劣悪な演奏。さすがの私も心底怒った...。なもんだから、今回の演奏も心配したのだが、ま、及第点というところかな。指揮の"煽り"に対するオケの反応も良く、指揮者と一体になった演奏をしていたと思う。でも、その指揮者との"一体感"が問題で...。ショルティの音楽の作り方がどうも刹那的なのだ。例えば、1楽章で盛んに音楽が揺れるわけだが、その揺れに意味が感じられない。それが単なる"揺れ"でしかなく、"音楽としての揺れ"に感じられないのだ。例えば、3楽章ですさまじい突進を見せるのだが、これもどうもわざとらしい。オケの勢いも凄まじいのだが、だから何?って感もつきまとう。そして4楽章。そこには「寂寥感」のようなものは微塵も感じられず、ただただ突き進む音楽があるのみ。ショルティだから仕方ないでしょ、と言われちゃったらそれまでだけど、なんかねぇ...。望むのが無理なのかもしれないけど、ショルティにはいい意味での「枯れ」を期待したい。ほどよく枯れたところでのショルティの音楽を聴いてみたい。トシはとったけど音楽の内容は昔のまま、っていうのはちと辛いもの>でも、ショルティじゃやっぱり無理か...?(97/07/29)
アンドレ・プレヴィン/ブラームス:ドイツ・レクィエム
目次へ戻る1996年12月1日(日) ムジークフェライン大ホール
センス良し
プレヴィンの"センスの良さ"がひしひしと感じられる佳演だったと思う。作為的なものが一切感じられず、実に自然に音楽が流れていく。当団も美しい音で指揮に応えていた。なかなかに感動的な演奏だった。ただ、合唱がちょっと非力かな、という感もあった。歌ったのはウィーン楽友協会合唱団。その昔、カラヤン御用達合唱団として知られた団体だが(たぶん同じ団体だと思う)、確か彼らはアマチュアだったはず。別にアマチュアだからダメ、ということではないんだけど、女声の高音域あたりにちと辛いものがあったかなと。(97/07/30)
ズビン・メータ/R.シュトラウス:ドン・ファン、シベリウス:ヴァイオリン協奏曲、バルトーク:管弦楽のための協奏曲 他
目次へ戻る1996年12月8日(日) ムジークフェライン大ホール
予想通りと予想外
最初の「ドン・ファン」は、まぁ、"予想通り"という内容で...。厚化粧の、中身のない、そうね、歌舞伎町の売れないホスト(←よく知らないけど^^;)みたいなドン・ファン。当団の"芸"も荒れ気味で、やっぱり今のメータが振るとこのザマか、というがっかりな演奏だった。肝心のラッパは、日本公演同様若手のエダーが吹いたんだと思うけど、ダメダメ、話にならない。音にも音楽にも魅力なし。もっと修行しなさい、エダーくん。2曲目の"シベコン"は、当団にとっては珍しい演奏曲。果たしてどうなるかと心配したけど、これはなかなか良かった。ヴェンゲロフが考えている音楽と、オケの考えている音楽には、若干の(?)相違があったようにも思うが、聴き慣れたシベコンとは違う音がオケの随所から聞こえてきて、私には楽しかった。ところで、協奏曲の演奏後、ヴェンゲロフが"アンコール"としてイザイの「バラード」というのを弾いたのだが、これは文句なしの快演。これが、当夜の一番の聴きものだった、といったらオケに悪いか?(でも、客席も一番沸いてたもんなぁ...)。さて、メインは"オケコン"。ちなみに、当団はこの曲を、昨夏のザルツブルク音楽祭で、ラトルの指揮によって演奏している。この演奏会のビデオを、昨年の暮れにラルスの家で"見せられた"のだが、これが実に凄まじい演奏でぶったまげた。ものすごい緊張感を持って音楽が突き進み、息が詰まるほど。さすがラトルは違う、との思いを新たにしたのだったが、今回の指揮はメータだ。期待はできないな、また「ドン・ファン」状態かな、と正直思ってた。が、その思いは裏切られた>いい方向にね(^^;。ラトルほどの緊張感はなかったけど、でも、十分に引き締まった音楽が作り出され、オケも見事な演奏でそれに応えていた。出が合わなくてヒヤっとするところがあったり、相変わらずトロンボーンがショボかったり、というところはあったけど、でも、それは当団の"常"ですからね(←いいのだろうか、それで...)。かなり精度の高い、かつ、内容のある音楽をやっていたと思う。わがホルン会も絶好調(ラルスが1番で御神体が4番かな?)だったし、いや、満足満足(^^ (97/07/31)
マリス・ヤンソンス/ドビュッシー:海、ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
目次へ戻る1997年1月12日(日) ムジークフェライン大ホール
大充実
ここにエピソードを書いた"あの"演奏会。で、その演奏だけど、なかなか充実したものだった。功労者はヤンソンスでしょう。とにかく音楽の"構え"がいい。気持ちのノリにまかせた"その場しのぎ"のような解釈はなく、曲全体をきちんと見据えて、その中でドラマを作っているから、聴いていて安心感がある(この辺、昨日のメータの「ドン・ファン」とは大違い)。特に「海」で、音楽の見通しが素晴らしく、結果、当団も自信を持って見事なアンサンブルを聴かせていた。フランス物のライブで、あれだけ噛み合った演奏ってのも、当団としては珍しかったのでは?(^^;。ショスタコも、基本線は一緒。アンサンブルにちょっと危ない個所があったり、楽器のデコボコが「海」よりも目立ったけど(やっぱりラッパのエダーが...)、先年のショルティとの演奏よりは、はるかに内容のある音楽になっていたと思う。CDでは、オケの状態も万全に近いものになってるだろうから、まもなくの発売が楽しみだ。---しかし、2楽章のコントラバスと3楽章のチェロの迫力は凄かったなぁ。ブラボー!です。わがホルンは、ラルスがやっぱりの(?)荒れ気味吹き散らかし傾向(2楽章はブラボー!)。それに対して、3番ホルンのプファイファーが、これまた"やっぱり"ショボいんで、パートとしてのバランスがイマイチ。残念...。でも、1楽章練習番号17番からの"低音メロディー4人吹き"は見事。爆笑させてもらいました。ヤノシュツ父の功績だね、きっと。(97/08/01)
ダニエル・バレンボイム/ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」、交響曲第5番
目次へ戻る1997年2月23日(日) ムジークフェライン大ホール
つまらん!
申し訳ないけど(誰に?)、率直に言って、「つまらん」。最初から最後まで、聴いてて思ったのは、「何かが違う」ってこと。「田園」も「運命」も、私の聴きたいベートーヴェンではなかったし、私の聴きたいウィーンフィルでもなかった。では、何が違ったのか? 一つ言えることは、私が持つ"ベートーヴェンの音楽"のイメージが、少なくともバレンボイムのやろうとする方向性とは違っている、ということなのだと思う。これ見よがしのテンポの揺らし。作為的なフレージング。いろいろ"仕掛け"るんだけど、それがことごとく私には気に食わない。だって、あんな"いびつ"なベートーヴェン、変だもの。古楽器による演奏や、新しい校訂譜を使った演奏なんかが当たり前になりつつある昨今においては、現代楽器のフルオケでどういうベートーヴェンをやるのか、というのは難しいところと思う。でもね、あんなベートーヴェンはいただけない。なんか思い違いしてるよ。少なくとも私はそう思った。残念...。(97/08/02)
サイモン・ラトル/ハイドン:交響曲第70番、R.シュトラウス:変容、ベルリオーズ:幻想交響曲
目次へ戻る1997年4月20日(土) ムジークフェライン大ホール
元気溌剌
「幻想…」でハープ6本使って話題になったあの演奏会。しかし、いい演奏だったなぁ。やっぱり、ラトルという人の非凡さというか、天性の音楽センスというか、そういうものをひしひしと感じさせられた演奏だった。ラトルの最大の"非凡さ"は、「ビート感」にあると思う。もちろんリズム感も素晴らしいわけだけど、それ以上に、ビートが常にしっかりと刻まれていて、いつ何時、何事が起っても揺らぐことがないから、音楽がどんどん前に進んでいくし、弛緩することもないのだ。1曲目のハイドンなんか、まさにそのビート感で聴かせるような曲だと思うんで、ラトルの芸風にとても合っていたし、演奏も溌剌とした素晴らしいものだった。昔、バーミンガム響との来日公演で聴いた102番もとても良かったし、ラトルのハイドンは、ほんと、いいね。2曲目の「変容」では、ラトルの構成力が光った。ヘタすれば、横流れに終始して、わけのわからない音楽になりかねない曲。でも、ラトルが示す音楽の見通しは、ここでも揺るぎのないものであり、それに応えた当団の"弦の精鋭たち"(by 山崎睦氏)の演奏もまた、メリハリの効いた、しかし、深い"思い"に満ちた素晴らしいものであった。名演。で、メインの「幻想…」。ここでも音楽の躍動感が素晴らしかった。当団にとっては比較的演奏機会の多い曲だが、ラトルの様々な仕掛けは、とてもいつもの"お約束"でこなしていけるものではないから、オケも必死に食いついてきて、実に引き締まった音楽を作り出していた。手垢の付いていない、今まさに生まれてきたが如き瑞々しさ。聴いててワクワクした(^^。ただ、それだけに、以下の3個所で発生した金管の"ポカ"が、興を削いだのも事実。(1)1楽章終り近くのFl、Cl、Obのソロ掛け合いのバックで和音進行を担当する4番ホルンが落ちた(まさか御神体ではあるまいな?)。(2)4楽章終りのティンパニ&小太鼓ロールに金管のファンファーレが乗っかるところでラッパがフライング。(3)5楽章終盤の、最後の「怒りの日」のメロディーを打ち消す役目のトロンボーンが1小節すっ飛ばし。これらは、あえて言わせてもらえば、"アマオケ並み"のポカ(←あくまでも、「あえて言えば」ですから、全国のアマオケの皆さん怒らずに...^^;)。ポカは"お約束"の当団だけど(ホントに?)、今回はちょっとガッカリだったなぁ。ま、ここはCDに期待しましょう。まさかポカはないでしょうから。(97/08/03)
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