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ラスト・カウボーイ

これは以前私がテキサス出張中に出会った、レッカー移動に次ぐ、車に関係したとても不幸な出来事である。

その日、夜22時頃、私はテキサス州オースチンのハイウェイを走っていた。真面目な私の事だからきっと会社帰りだったにちがいない。決してそんな時間からいかがわしいお店にくり出そうというつもりでは無かったはずだ。

ジャンクションにさしかかり、空中に大きく弧を描くループを結構なスピードで通過した後、私はそのままハイウェイを降りる道に入った。その時、

目の前の路上に何か落ちているのが見えたのだ。

咄嗟に私はハンドルを左に切った。以前、目の前を走っていたピックアップトラックから梯子が落ちて来た時にも同じ事をしたのだが、どんな時にも急ハ ンドルを切ったりしてはいけない。隣の斜線を車が走っているかもしれないからだ。それに気付いた私はすぐにハンドルを戻した。案の定となりを走っていた車 がクラクションを鳴らして来た。だが幸運にもその車と接触はしなかった。

しかしただ一つ不運だったのは、

その車はパトカーだったのです。(「奥様は魔女」風に)

まだ興奮から冷めぬ私の視界の中に、突然赤と青の回転灯の光が飛び込んで来た。バックミラーの向こうに大きなトラック型のパトカーのシルエットが見えた。そして何が起ったのかよく分からないままの私に追い打ちをかけるように、パトカーのサイレンが「ウゥー」と1回鳴った。

私ですか、、、

未だに何が起っているのか理解しかねている私だったが、パトカーにサイレン鳴らされて無視する訳にもいかず、自分に「落ち着け、落ち着け」といい聞 かせながらゆっくりと路肩に車を停車させた。パトカーも続いて止まり、運転していた警察官が出て近付いて来た。私はウインドーを開けて指示を待った。

ゆっくりと車から出て、手を挙げなさい!!

それ映画で聞いた事あります。

どこかで見た様な展開にデジャブを感じながらも私はゆっくりと車を出た。見てみると若い白人の警官がこちらを向いて立っていた。

カウボーイハットかぶってるよ、、、

警官は逆手に持った懐中電灯で私を照らしていた。拳銃こそ構えてはいなかったが腰に警棒を下げているのが見えた。その姿を見て完全にびびった私の脳裏を、最悪の展開が次々とよぎっていった。

あの警棒でテールランプを割られるんだ、、、

そして「整備不良」で逮捕されるんだ、、、

取り調べの間にどこから出て来たのか白い粉の入った袋が、、、

そして厳しい取り調べの果てに「私がやりました」と言ってしまうんだ、、、

完全に映画の見過ぎな私はその時すっかり動転していた。

こっちを向けと言っているだろ!!

どうやら警官の言葉を聞き逃していたらしい、「言う事を聞かないと撃たれる」と思った私は、あわてて警官の方を向いた。警官は懐中電灯で私の顔から体を照らし、チェックした。

何で急ハンドルを切ったんだ?

この時、やっと私は何故自分が止められたのかを悟った。

路上に何か見えたので、、、

俺は何も見なかったぞ!!

す、すいません、、、

絶対落ちてたのに、、、しかしここで反抗したら絶対に撃たれると思った私は大人しく謝った。そして警官はそんな為すがままの私にさらにたたみかけるように言葉をあびせてきた。

飲んでるのか?それとも薬か?

とんでもございません。

やっぱりそうだ、麻薬中毒と間違われてブタ箱に入れられるのだ。

神様、アジア人好きのゲイの牢名主だけは勘弁して下さい。

恐ろしい予想が適中した私は絶望で目の前が真っ暗になるのを感じていた。

運転免許を見せなさい。

あ、はい、はい、、、

ゆっくり動け!!

イエス・サー!!

この言い回しを本気で使ったのはこの時が初めてだった。私は何とか運転免許証を取り出した。日本の免許証と国際免許証、それらを見せて説明すると警 官の態度は少しだけ穏やかになった。どうやら私が悪いやつではない、ただの不器用な外国人だということが分かってきたようだった。

警官が私の免許証を持ってパトカーの方へ行き、何事か確認している間、私は微動だにせず待っていた。再び私の方へやってきた時、警官もすでに落ち着いていた。

今日はお前に警告だけを出すからな。

はい、すみません。

今度乱暴な運転をしたら、罰金だからな。

はい、すみません。

そう言うと警官は警告のチケットを私に渡した。そして私の車の側から去る寸前、警官は振り向き、カウボーイハットのつばに手をかけながら言った。

Drive safe, OK?

OK.

私がそう答えると警官はカウボーイハットを手で回す様なゼスチャーをしてパトカーの方へと去って行った。

どうやらこの警官、真剣にカウボーイスタイルを貫いているらしい。今さらながら冷静さをとりもどしつつあった私はこんなカウボーイ気取りの田舎者にすっかりびびらされていたのかと思うとだんだん腹が立って来たが、ツッコミを入れるにはもう時すでに遅し、であった。

警官はピックアップトラック型の大きなパトカーに乗り込むと、さっそうと夜のオースチンへと消えて行った。残された私はしばらく車の側で立ち尽くし ていた。車のシートに座ってからも今起った事の衝撃と、あの警官へのツッコミが全く出てこなかった事への悔しさで、しばらく車を出す事ができなかった。

しばらくして落ち着きを取り戻すと、私はエンジンをかけ、一路ホテルへの帰路についた。ハイウェイは使わず、下道をゆっくり走った。

アメリカのハイウェイには落とし物が多い、バーストしたタイヤ、干し草の塊、私もそれからは落ち着いて路上の落とし物に対処できるようになった。

そして私は今でも考えている、今度 "OK?" と聞かれた時に何と答えてやろうかと。もし次があれば絶対に言ってやるつもりだ、

Yes Sir, Mr. Cowboy. と。


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